226 特級ダンジョン4(アルタニア帝国)


 地下81階からはさらにモンスターが強くなっていたが、イロナが張り切っているので楽勝。ヤルモにモンスターが回って来ることも少ないので楽に進めているが、ヤルモは気が気でない。

 あのイロナのサービスが夜に待っているからだ。栄養ドリンクを何本も飲んで体にムチ打って相手にしないといけないのでは、体が持つはずがない。確実に死ぬ!


 ヤルモは戦闘では手を抜き、イロナサービスをどうやって拒否しようか頭をフル回転させながら、地下へ地下へと進んで行くのであった。



 モンスターを蹴散らしてランチで腹を満たし、宝箱を漁って進めば地下100階へ下りる階段の手前。大きな空洞になっていたので慎重に進んでいたら、奥の地面に魔法陣が現れて輝き出した。


「なあ。アレって……」


 一般的なモンスターと明らかに違う登場の仕方に、ヤルモは嫌な予感がしてイロナの顔を見る。


「レアボスだな」

「え? それって、トゥオネタルのダンジョンだけじゃないのか??」

「詳しくはわからんが、出ているのだからそんなモノなのだろう」


 レアボスとは、そのダンジョンの最下層に出るモンスター(魔王を除く)とほぼ同じ力、同じ特徴を持つモンスター。【発狂】が終わったらHPが回復するので、一度のダンジョン攻略で二度ダンジョンボスが出るようなものだ。

 トゥオネタル族のダンジョンではよくあることなので、そのことをイロナから聞いていたヤルモはまた面倒な相手だとガッカリしているが、イロナは受け入れるのが早い。


「チッ……ドラゴンゾンビか」

「でけぇな。カイザーかエンペラー、どっちだろ?」


 魔法陣から出現した全長20メートルを超えるドラゴンゾンビを見てイロナは不機嫌になり、ヤルモはブツブツと戦力を確認している。


「主殿に譲ってやる」

「え? イロナの好きなドラゴンだぞ??」

「前も言っただろうが。首をねても死なないから面白くないと」

「いや、そんなので譲られても……俺の攻撃力だと何時間も掛かりそうだし……」


 イロナの趣味で譲られても本当に困るヤルモ。斬っても斬っても復活するゾンビの相手は、ヤルモも超面倒くさいのだ。

 しかし、その言い方はイロナの怒りを買って、顔が怖くなった。しかし、すぐに普通の顔になったので、ヤルモは命が助かったとか思っている。


「アレをやればよかろう」

「アレか~……倒しきれるかな?」

「あの程度ならいけるだろう……おっ、そうだ」

「ん?」


 ヤルモが戦車モードを渋っていたら、イロナはポンッと手を打った。


「アレって、片腕だけとかできないのか? 口からブレスを吐くだけでもいいぞ」

「え? そんなの考えたことなかった……」

「ならばいま考えろ」

「そんな無茶苦茶な~」

「無茶でもやれ!」

「ええぇぇ~」


 正真正銘の無茶振り。イロナも無茶を言っているのはわかっているので、ヤルモが嫌そうにしても蹴りはやめてあげるのであった。



 イロナの無茶振りを考えるには時間が掛かるので、一旦通路に退避。本当はもっと時間が欲しいのだがイロナは5分しかくれなかったので、その間に目を閉じて頭の中に浮かぶ自分のスキルを確認するヤルモ。


(つってもな~……レベル上げても何も変わらなかった物が、都合よく変わるわけが……アレ??)


 職業【重戦車】のスキルは、戦車モード、地対空モード、殲滅モード、ナビの四種類だけ。これは重戦車の職業になってから一切変わっていなかったのだが、新しいスキルが増えていたのでヤルモは熟読する。


(部分変型モードと自動発射モードってのが増えて、ナビがレベル2になってる。なになに……)


 ご都合主義。というより、ヤルモはこんな変なスキルを使うのを拒んでいたから悪い。イロナと出会うまで、片手で数えられるほどしか使って来なかったから、重戦車のスキルは使わないとスキルレベルが上がらないと気付けなかったのだ。


「ウェポンズ、ライトショルダー」

『オッケーマスター。右肩のみを発動します』

「おっ!!」


 ヤルモの右肩が四角く膨らむと、ヤルモではなくイロナが食い付いた。


「やればできるじゃないか!」

「まぁ……そうみたいだな。あとは~……自動発射モード」

『オッケーマスター。ロックオン開始します』

「わっ! まだだ!!」

『オッケーマスター。ロックオン解除しました』

「おい、主殿……」


 いきなりイロナをロックオンして、ロケット弾の蓋がパカッと開いたからにはヤルモは焦って止めたが、イロナに睨まれた。


「ゴメン! わざとじゃないんだ。だから殺さないで……」


 なので、必死の命乞い。


「どうでもいいのだが……」

「どうでもいい?」

「主殿の頭に、小さな女の子が乗っているぞ」

「はい??」


 イロナは攻撃を向けられたことは怒っていなかったのでホッとしたヤルモであったが、意味不明なことを言うので手鏡を取り出して確認してみる。


「なんだこれ??」


 ヤルモの頭の上には、白い軍服を着た黒髪の少女がちょこんと座っていた。


『ナビです』

「え??」

『ナビです』

「はあ……」


 鏡越しの軍服少女人形は急に話し掛けて来て答えらしきことを言ったので、ヤルモはイロナに目を戻す。


「ナビだって」

「聞こえていたが……だからそれはなんなのだ??」

「俺も知らないって~」


 謎職業【重戦車】。ヤルモの中でますます謎が深まって行くのであったとさ。

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