136 謁見2
ドレスアップした勇者一行は、エイニたちに見送られてウサミミ亭を出る。待たせてあった馬車に揺られて進めば城に到着。
イロナとヤルモは田舎者丸出しで、城を見上げていた。
「デカイ……人族は、これほどデカイ建物を建てるのか……」
「俺もこんなに近くで見るのは初めてだ。すげ~な……」
ヤルモたちだけでなく、リュリュやヒルッカも同じように見上げていたが、何度も見ているクリスタ、オルガ、パウリは先々進んで、四人ほどついて来ていないことに気付いた。
「ほらそこ! ちゃんとついて来ないと迷子になっちゃうよ」
引率のクリスタ先生に怒られたヤルモたちは、はぐれたら生きて返れないと考えて小走りに追いかける。イロナ以外。
城の中に入ってもヤルモたちはキョロキョロしながら歩くので、せっかくドレスアップしたのに意味がない。道行く貴族やメイドにコソコソと「どこの田舎者だ?」と陰口を叩かれていた。
クリスタに何度もキョロキョロするなと注意を受けながら進み、長細いテーブルのある部屋に通されたら、ヤルモたちはメイドに案内された席に着く。
「はぁ……今日で俺は処刑されてしまうんだな……」
「だからなんでそうなるのよ。てか、ヤルモさんとイロナさんなら、何が起きても城から脱出できるでしょ」
ヤルモが達観した顔で生を諦めていたら、隣に座るクリスタのツッコミ。そうしてヤルモが処刑方法をブツブツ呟くと皆にも伝染したのでクリスタが宥めていたら、正面の扉が開き、見るからに高貴な男女が入って来た。
「ほら、みんなも立って」
クリスタ、オルガ、パウリが立ち上がるが、ヤルモたちは立ち上がる素振りもないのでクリスタが立たせ、気を付けをさせてから高貴な男女に声を掛ける。
「お父様、お母様、お兄様……勇者パーティ参上いたしました」
王族に対して、クリスタがスカートを摘まんでカーテシーでお辞儀をすると、ヤルモたちもマネしそうになったので、オルガに止められていた。
「フッ……なかなか面白おかしい者たちじゃないか。楽にしてくれ」
「はい」
鼻の下に髭を蓄えた国王が顔を崩して席に着くと、クリスタは王族全員座ったのを確認してからヤルモたちを座らせた。
全員が席に着くと国王が口を開く。
「まずは、ヤルモとイロナと言ったか……国の危機に尽力してくれて感謝する」
国王はヤルモたちの顔も見ないで礼を述べ、すぐに話題を変えるので、ヤルモは「それだけ? だから偉い奴は……」とか思っていた。
「次に、勇者パーティに加入した者……クリスタを守り抜け。期待しているぞ」
「「はっ!」」
「「はっ!」」
国王の言葉で、オルガとパウリが大声で返事をするものだから、リュリュとヒルッカもいい返事。ヤルモは自分もするべきか悩んだが、乗り遅れたので口にしなかった。
「クリスタからは大々的にするなと止められているが、馳走ぐらいは食っていけ。マナーのなってない者でも食べられる物を用意したからな」
国王が扉の近くに立つメイドに目配せすると扉が開き、豪華な食事が次々と運ばれる。ただ、ヤルモは国王の言葉に引っ掛かって、「嫌味なオッサンだな」とか思っていた。
「ささ、食べて。お父様が言ったように、マナーなんか気にしなくていいよ」
ヤルモたちがなかなか料理に手を付けないから、クリスタが近くの料理を手で持って食べる。その姿を見て、本当に無礼講なのだとわかって皆は食べ出した。
最初は気を付けて食べていたヤルモたちであったが、料理が美味しすぎてマナーを忘れてガツガツ食べる。しかし、王族からたまに質問が来るので、名前の呼ばれた者は手を止めて恐る恐る答えていた。
ヤルモも質問が来るのかとビクビクしていたが、イロナにも来なかったので不思議に思っていたら、クリスタが国王に呼ばれ、イロナと共に別室に連れて行かれた。
狭い部屋で王族揃い踏みでは、ヤルモの緊張はマックス。さっき食べた物を国王に吐き掛けるのではないかとビクビクしていたら、国王が口を開いた。
「国を救っていただき、民を救っていただき、娘を救っていただき、誠に感謝する」
突然王族全員に頭を下げられたヤルモはポカンとする。
「先程は簡単な礼を述べただけだ。国王という手前、人の目のある場所ではそうそう頭を下げられん。我等は本当に貴殿に感謝している。これだけは信じてくれ」
まだ思考の追い付いていないヤルモであったが、クリスタにこづかれて正気に戻った。
「お父様が人に頭を下げる姿なんて滅多に見られないよ。いまならどんなお願いも叶えてくれるかも?」
「いや、俺は……金を貰って仕事をしただけだから……です」
「フッ……クリスタの言った通りの人物か」
「ね? 欲はあるけど欲張らないの」
クリスタと言葉を交わした国王は再び頭を下げる。
「もう少しだけでいい。クリスタたち勇者パーティが一人立ちできるように協力してやってくれ。貴殿の望むだけの報酬は用意する。お願いだ」
「いや、その、けっこう貰ってるし……わかりました」
「頼んだぞ」
「は、はあ……」
国王の圧に押されたヤルモが肯定すると、握手を求められたので手を握る。ヤルモは「なんだか裏がありそうだな」とか考えてはいたが、矢継ぎ早に質問が来るのでなかなか考えがまとまらない。
「いや、騎士は……だから、準男爵も……ひょっとして俺を飼い殺そうとしてません?」
「「「まっさか~」」」
「たはは」
さすがは商人国家。王族にもその気質は強く、口八百でヤルモを雇おうとしていたのだ。しかし警戒心の強いヤルモにバレて、傍観していたクリスタは苦笑いするのであったとさ。
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