019 中級ダンジョン1


 初級ダンジョンをクリアした次の日、またタピオはイロナに驚いて目覚め、昨夜の行為を思い出して、二人で照れながら朝食を掻き込む。

 出掛ける準備が終われば受付カウンターで今日は泊まらないことと、また来るかもしれないとだけ告げて宿を引き払う。


 それから中級ダンジョンに向かい、装備について衛兵に小言を言われるが、なんとか通してもらってダンジョンに潜った。


「失敗だったな。イロナの装備をすっかり忘れていた」


 今日もお互いとてもダンジョンに潜るような姿をしていなかったので、衛兵に止められてしまったのだ。しかも中級なのに、新米冒険者と変わらない装備だったため、衛兵に心配される事態になったのだ。


「いまからでも装備しよっか?」

「主殿は装備しないのか?」

「ああ。ここは30階までしかないからな。このままでいいかな」

「フッ……主殿が余裕ならば、我も必要ないだろう」

「だよな~。俺より強いんだから必要ないか」


 今日も雑談しながら歩き、近付くゴブリンや一角ウサギを蹴り飛ばすタピオとイロナ。地下2階に下りると他の冒険者に変な目で見られるが、気にせず先へと進むのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



「なあ? さっきのって……デートか??」

「うん……デートにしか見えない」


 どうやらタピオとイロナは武器も持たずに腕を組んで歩いているので、他の冒険者からしたらデートでもしているように見えているようだ。

 それは、地下5階に下りたとしても……


「おい……カップルがオークを蹴飛ばして行ったぞ……」

「見たけど……なんでこんな所でデートなんてしてるんだ?」


 やはり、変な目で見られている。


 二人は本当にデートを楽しむかの如くぺちゃくちゃ喋りながら歩いているので、勘違いされているようだ。

 ちなみに話の内容は、モンスターについて。イロナは初めて見る弱いモンスターが気になって質問していた。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 タピオたちは地下10階を越えたところにある長い階段に着くと、ここでランチ。少なからずいる体を休める冒険者から距離を取って、壁際に座る。


「ほい。食べようか」


 タピオはアイテムボックスから堅いパンと干し肉、飲み物を取り出すと、イロナに手渡す。


「いまは昼時なのか?」

「ああ。大枚はたいて買った懐中時計は、12時前ってところだ」

「なんだそれは??」


 イロナは懐中時計を知らなかったらしく「見せろ」と言っていたが、壊されたくないタピオはイロナに触らせなかった。


「人族は、こんな便利な物を持っているのか」

「ダンジョン内では時間がわからないからな。聞いた話だと、トップ冒険者か貴族しか使っていないらしいぞ」

「主殿はトップ冒険者だと言いたいわけだ」

「いや、俺は中堅だ。それより早く食ってしまおう」


 ちょっとした自慢話をしたタピオは、イロナから褒められると話を逸らす。またお金の話になりかねないと思ったようだ。

 そうして堅いパンと堅い干し肉をガリガリ食べると、イロナもガリガリ食べるが、言いたいこともあるようだ。


「別に贅沢を言うつもりはないが、もう少しマシなメシはないのか?」

「あ……そうだよな。女には厳しい食べ物だよな。いつもメシはこれだったから、気付かなかったな。悪かった」

「こちらこそすまない。どうも、奴隷館での食事に慣れてしまっていたようだ」

「奴隷なのに、そんなにいいメシが出て来るのか?」

「ああ。我は高級性奴隷だったからな……」


 どうやら奴隷館では、イロナはかなり厚待遇の暮らしをしていたようだ。これは、テーム館長の計らい。というより、イロナが怖いテームの自衛措置。

 イロナが「早く売れ」「次の売り先は決まったのか?」と、テームのあとを追って何度も聞いて来るので、せめて機嫌が悪くならないように気を使っていたのだ。

 もちろんタピオもイロナの話は信じず、テームが脅されてイロナに美味しい料理を与えていたのではないかと受け取っていた。


「でも、俺もたいした料理は作れないんだよな~」

「夜はそれでいい。主殿の手料理を食べさせてくれ」

「わかった。喜んでくれるかわからないが、頑張って作るよ」


 タピオはそうは言ったものの「料理は奴隷の仕事なのでは?」と、ふと思ったのであった。

 ただし、タピオもイロナのことは怖いので、そのことに触れる勇気はなかったのであったとさ。



 ランチをガリガリ食って終わらせると、二人は地下11階へと進む。


「ちょっとは強くなって来ただろ?」


 地下11階からはモンスターが増え、連携を取るようになって来たので、タピオはイロナに感想を聞いてみる。


「連携がよくても弱すぎる。こんなの、我の育ったダンジョンの一階にも居なかったぞ」


 多少は強くなっても、二人の防御力を貫けないのであまり代わり映えしないようだ。事実、イロナはウルフに腕を噛ませて、毛を撫でただけでウルフが死んでいる。

 タピオの足元に来たウルフもまとわりついて来たところを、足を振り回しただけで壁まで吹っ飛び、ダンジョンに帰っている。


「そうか……それなら、倒すのは任せていいか? 俺は魔石とドロップアイテムを拾うよ」

「ゴミ拾いよりはマシか……わかった。我に任せろ」


 モンスターの群れはイロナに蹴散らされ、タピオは少し悲しそうに魔石を拾う。これがお金に変わるというのに、ゴミ扱いされたのだから……

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