113 新メンバー発掘1
攻略本製作が滞りなく終わり、イロナの夜の新技でヤルモが倒れた次の日、朝食の席でヤルモは上の空。昨夜のご奉仕のダメージが抜け切っていないようだ。
「ねえ~? ヤルモさんもついて来てよ~」
そこにクリスタからのお願い攻撃。あれこれ理由を付けてはいたのに、ヤルモはまったく聞いていない。だが……
「ん? あ、ああ。わかった」
「へ?? ……やった! 言質取ったからね!!」
「うん……」
まさか許可が下りるとは思っていなかったクリスタはとぼけた声を出したが、この機を逃したくないので大袈裟に喜び、皆にも確認を取っていた。
そうして出掛ける準備を済ませた勇者一行は宿を出て、予約しておいた馬車に乗り込んで冒険者ギルドの前にて降りる。
「さあ、行こう!」
「ん? 冒険者ギルド……。なんで俺はこんな所に居るんだ??」
ここでようやくヤルモの復活。クリスタは朝に頼んだことをもう一度説明する。
「だから~。報告書の提出と新メンバーの書類審査に付き合ってって言ったじゃない」
「はあ!? 俺は聞いてないぞ!!」
「行くって言ったじゃない。みんなも聞いたよね??」
「「うんうん」」
クリスタの質問にオルガとリュリュが頷くが、ヤルモは騙されていると思って信じない。なので、唯一信頼しているイロナに質問する。
「こいつら、嘘言ってるよな?」
「いや、主殿は行くと言ったぞ」
「なんだと……キャンセルってわけには……」
イロナが嘘を言うわけがないとヤルモは信じているので、クリスタを説得しようとする。
「へ~。男が一度OKしたのに覆すんだ。へ~」
「うっ……なんでこんなことに……」
「じゃあ行こっか!!」
ヤルモが肩を落とすとクリスタは肯定と受け取り、イロナとは逆のヤルモの腕を組んで冒険者ギルドの扉を潜るのであった。
カランコロンカランと扉に付けられた鳴子が響くと、冒険者から一斉に視線を向けられる勇者一行。ヤルモはその視線が痛いので、気を紛らわそうとクリスタと喋っていた。
「なんか多くないか?」
「本当に……冒険者って暇なの??」
「暇な奴は暇だけど……でも、一番のピークは、日帰り冒険者が集まる夕方なんだけどな」
二人は冒険者に対してかなり失礼な事を言っているが、ここに集まっている大量の冒険者は、全てクリスタのせい。
そりゃ、勇者が新規メンバーを募っていると言うのなら、実力のある者、使命に燃えている者、冷やかしでワンチャンを期待する者、甘い蜜を吸おうとする者が集まっても仕方がない。
そのことに気付かない勇者一向は居心地の悪いまま奥に向かっていると、冒険者たちからこんな会話がなされていた。
「わあ~。あれが勇者様……かっこいい」
「聖女様もお美しい……」
「あの禀とした女性も勇者パーティか?」
「男の子も小動物みたいでかわいいわ~」
クリスタ、オルガ、イロナの三人は華やかなので褒め言葉が多い。ついでにちょこまかと歩くリュリュまで褒められている。
「てか、あのオッサンはなんだ?」
「荷物持ちかな??」
「でも、勇者様と美人と腕を組んでるぞ」
「あんなのがタイプなわけないだろう」
「きっと何かやらかして連行されているんだ」
「あ~。あいつがクビになるからメンバー募集とか?」
ヤルモに対しては酷い言われよう。美女二人に挟まれているから、まるで犯罪者のように睨まれている。母国では犯罪者ではあるが、パーティリーダなのに……
そうしてずっとざわざわして居心地の悪い空間を勇者一行が抜け、犬耳受付嬢の案内のままに進むと、会議室に通された。
そこで待っていたのは、眼鏡の似合う紳士風のギルドマスターと書類の山。クリスタはギルマスに挨拶して、一度も連れて来たことのないヤルモとイロナを臨時のパーティメンバーと紹介していた。
ギルマスもイロナのことはすんなり受け入れていたが、布の服のオッサンは、臨時でも勇者パーティには相応しくないと思って顔にも出ていた。
しかし、この国の王女でもあるクリスタには何も言えず、特級ダンジョンの報告書を受け取って席を外した。
「この書類の山が、募集して来た人のプロフィールだって」
クリスタは書類を適当に掴むと、ペラペラと捲って皆に言い聞かす。
「多いな……ギルマスのお薦めとかないのかよ」
ヤルモは面倒だから、文句タラタラ。
「そっちの小さな山がそうらしいよ」
「じゃあ、それから見るか~」
ヤルモは書類の山の前に移動するとクリスタからの質問が来る。
「どうやって選んだらいい??」
「欲しい職業とレベルだろうな。あとは年齢。歳のわりにはレベルが低いのは外せ。ダラダラ冒険者稼業を続けている奴だからな」
「なるほど。索敵系は欲しいから~……もう一人はどうしよう?」
「バランス的に、アタッカーがいいんじゃないか? もしくは盾役」
「イロナさんとヤルモさんを見たあとじゃ、絶対見劣りするよ~」
「いいから探せ。俺だって面倒なんだぞ」
文句を言うクリスタを宥めながら嫌そうに書類を見るヤルモ。オルガやリュリュも気になるのか、ヤルモが「ありかも?」と判断した書類を見て話し合っている。
そんななかイロナも興味があるのか、ヤルモの仕分けした書類を見ていた。
「チッ……ザコばかりだな。こんなもん戦う気にもなれん。やはり主殿が一番倒しがいがあるな」
「ちょっ……誰か高レベルの奴はいないか!?」
どうやらイロナが文句を言わずについて来ていたのは、対戦相手を探すため。イロナがいまにも襲い掛かって来そうなので、ヤルモは必死に高レベル冒険者を探すのであったとさ。
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