231 特級ダンジョン9(アルタニア帝国)


 ヤルモがビームを使ったせいでイロナに首を狙われるトラブルはあったが、四天王のカイザーゴーストはすでにダンジョンに吸い込まれていたので、ドロップアイテムを拾って次へ移動。


「ほう……珍しいのが出たな」

「死神か……初めて見た」


 四天王第三弾は、黒いローブに身を包み、大きな鎌を構える骸骨。イロナは何度か戦ったことがあるらしいが、ダンジョンボスとの戦闘を避けていたヤルモは攻略本で見たことがあるだけらしい。


「やってみるか?」


 なので、ヤルモに実戦を積まそうとするイロナ。


「いいのか??」

「ザコだからかまわん」

「じゃあ、やってみる」


 ヤルモとしては四天王は何が出ても強いので、イロナに手伝ってもらいたいのだが、期待できるかわからないから覚悟を決めて前に出た。


「鎌には気を付けろ。即死するぞ」

「それ、先に言ってくれ! うおっ!?」


 イロナの助言はトンでもない情報が含まれていたのでヤルモは振り返ったら、嫌な予感がして大盾で防御。


「あっぶね……」


 よそ見していたこともあり、大鎌の柄の部分を大盾で受けてしまったので、刃先が顔に届きそうになったヤルモは冷や汗を垂らす。

 しかし、その後はきっちりガード。四天王となった死神でも、ヤルモの防御は崩せない。

 逆にヤルモが死神を崩して渾身の一撃。胴を薙ぎ払って一気に吹っ飛ばした。


「チッ……ビビって浅かったか。てか、即死って、情報と違うじゃねぇか」


 攻略本では、死神の鎌はHPが減らない代わりに、七回当たるとHPが満タンでも死に至るとなっていたので、即死と聞いてはヤルモでも恐怖はあるらしい。

 イロナ情報が間違っている可能性はあるが、調教済みのヤルモではイロナの言葉は絶対。

 事実は、トゥオネタル族の男が四天王となった死神と戦い、一発で命を刈られたから、気を付けるようにイロナは言われていただけだ。

 その階層は230階以降だったので、現在の階層ならば五回は耐えられるのだが、ヤルモもイロナも試すわけがないので知ることは難しい。



 そんな死神との戦闘は、意外と楽チン。死神の大鎌ではヤルモの大盾は崩せないし、絶対安全なタイミングで渾身の一撃を叩き込みさえすればいいからだ。


「もういい。飽きた」

「あ……」


 ヤルモ優勢のなかイロナ登場で、死神は瞬く間に斬られてチリとなる。どうやらこれ以上見ても面白い展開にならないから横取りしたっぽい。


「ラストだ!!」

「待ってくれよ~」


 四天王第三弾も楽勝で倒してしまったイロナは、ヤルモを置いて次の部屋に向かうのであった。



 ヤルモがドロップアイテムを拾って急いで次の部屋に向かうと、扉の前でイロナに怒られてから一緒に中へと入った。


「おっ! ちょっとは手応えのありそうなのが出たな」

「ケルベロス……」


 最後の四天王は、冥府の番犬ケルベロス。巨大な体から生えた三つの頭は、全て歯を剥いて唸り声をあげている。


「一緒にやるか?」

「へ??」


 超珍しくイロナから共闘のお誘いが来たので、ヤルモはとぼけた声が出てしまった。


「主殿なら、アレぐらい押さえるのは余裕だろ?」

「まぁ……なんとかなると思う」

「よし。頼んだぞ」

「……おう!」


 イロナが自分を頼るなんてヤルモは腑に落ちないが、どう見ても強いケルベロス相手では、気合いを入れなくてはならない。

 イロナを背中に隠し、大盾を構えたヤルモは前進するのであった。


「「「ガルルゥゥ!!」」」


 ヤルモが接近すると、ケルベロスの三つの頭は、唸りながら噛み付き。ヤルモは一歩下がって、ケルベロスが空振りしたところの鼻を大盾で受けた。


「出るぞ!」

「おう!」


 そこにイロナが飛び出してアタック。ヤルモは三つの頭を相手取り、防御を固める。噛み付きは空振りさせて大盾で受け、前足も大盾で受け、たまにカウンターの渾身の一撃。

 それを嫌ってケルベロスは炎のブレスを吐くが、呪いの大盾によって全て遮断。熱すら遮断するので、ヤルモはさすがレジェンド装備と感心している。


 そうしてケルベロスのHPを徐々に削っていたヤルモだが、何かがおかしい。


「どんだけHPがあんだよ」


 そう。イロナが攻撃しているのだから、ケルベロスはすぐに倒れるはずなのだ。なのに、すでに5分は経過している。

 四天王だから仕方がないのかとケルベロスの攻撃を大盾で受け、剣で反撃をしていたら、10分経過。さすがにヤルモもおかしすぎると一旦距離を取った。


「イロナ~! 何やってんだよ~~~!!」

「モフモフモフモフ~」


 近くからではわからなかったが、遠くから見れば一目瞭然。イロナはケルベロスの背に乗って撫でていたのだ。


 イロナが手応えがある相手と言っていたのは、撫で心地のこと。ヤルモにケルベロスを押さえさせていたのは、ゆっくり撫でるため。

 ヤルモがどんなに叫ぼうともイロナは無視するし、ケルベロスが攻撃の手を休めないので、ヤルモはブツブツ言いながらカウンター攻撃を続けるのであったとさ。

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