088 来客3
しばらくイロナの膝の上で声を殺して泣いていたヤルモは、体を起こして目をゴシゴシと腕でこすった。
「本当に信用していいのか?」
いくら涙を流しても、ひん曲がった性格までは流れ落ちないヤルモの第一声は、疑い。クリスタとオルガは顔を見合わせて、やれやれといった仕草をしている。
「俺は三度も強姦罪で捕まっているぞ」
「全部冤罪だったんでしょ? そんな極悪人なら、とっくに私と聖女様を犯しているはずよ」
「勇者暗殺の罪もあるぞ」
「ヤルモさんが敵前逃亡して、勇者パーティのバランスを崩したから全滅したって聞いたけど、ヤルモさんなら魔王に勝てないと判断して止めたんじゃないかな? それなのに突っ込んで行ったその勇者が悪いわ」
ヤルモが犯罪歴をあげようと、クリスタはヤルモに非がない理由を付け足して反論する。
「冤罪でも、そんな奴を
「それを心配するのは、ヤルモさんの仕事じゃない。王女の仕事よ。それに、これほどの戦力を確保できるなら、国益に
「国益……」
「勇者様……」
「あっ!」
いいところまでヤルモは信用していたようだが、クリスタの発言でまた疑いの顔に変わり、オルガに指摘されてクリスタは失言に気付いた。
「つまり、俺たちを国で飼い殺したいわけだ。それも、たった金貨千枚で一生奴隷のように働かせるんだな。いや、金貨はあとで没収するのか……」
「どうしてそうネガティブな展開がポンポン出て来るのよ!」
「だって、勇者で王女だから……」
「あの国の聖女がここまで来たら、絶対ぶん殴ってやる!!」
クリスタをはヤルモを怒るでなく、アルタニア帝国の聖女マルケッタに怒りをぶつけようとシャドーボクシングをしているので、会話はオルガと入れ替わる。
「そのお金は、勇者様が一人前になるまでの訓練費です」
「訓練費?」
「現在、上級ダンジョンは特級ダンジョンとなりました。魔王がいなくなっても、いまの勇者様では最下層まで辿り着くのは至難の
オルガのお願いにヤルモは考える。
確かにこの勇者たちでは特級クリアは不可能。
しかしパーティを組むのは面倒くさい。
でも、聖女の巨乳は見飽きない。
だが、報酬は魅力的。
二人なら信用してもいいのでは……
いやいや、何度も騙されているから信用できない。
とか言いながら、聖女は俺に気があるのでは? いてて。
オルガの胸ばかり見ていたヤルモは、イロナに腕を折られそうになって結論を急ぐ。
「別にパーティを組まなくても、俺たちもダンジョンには潜るからモンスターはある程度弱くなるぞ。レベル上げをするなら、しっかりと自前のパーティを組んでやるべきだ。そのほうが、仲間との連携もよくなるはずだ」
いつも通りの対応に、クリスタは微笑みながら話に入る。
「本当はそうするのがベストなんだろうけど、仲間を募るにしても私の実力じゃ不安なの。モンスターやダンジョンのことも詳しくないし、もしもの場合、仲間を守れないと悔やまれる。そうならないように、ヤルモさんのような熟練の冒険者に教えを乞いたいのよ」
「う~ん……」
クリスタの決意の顔に、ヤルモの心が少し揺らぐ。
「絶対イロナに無茶振りされるぞ?」
「それはちょっと怖いけど……頑張るよ!」
「イロナはどう思う?」
「我直々にしごけるから願ってもない」
「だって?」
「ヤッタ~。ウレシイナ~」
いちおうイロナにも意見を聞いたがために、クリスタは怖くなって元気のない声で喜んでいる。
「わかった。その仕事、請け負うよ」
「「ありがとうございます!!」」
こうしてヤルモは元の名前を取り戻し、勇者パーティの育成コーチとして在籍するのであった。
仕事をすることは請け負ったヤルモであったが、疑り深いヤルモは契約書を書いてもらおうとする。
「そう来ると思ってた。はい、これに目を通して。よかったらサインして」
予想通りの展開に、クリスタは書類をヤルモに手渡す。
「あまりにも俺たちに都合がよすぎないか?」
契約の内容は、五回の特級ダンジョン攻略と講習で金貨千枚。ドロップアイテムは全てヤルモの物。ダンジョンボスの魔石だけはクリスタの取り分となっている。
この間に、クリスタが特級ダンジョンをクリアできると判断したならば五回で終了。まだヤルモたちが必要ならば、金貨二百枚で一回の延長をする契約になっている。
「お金が多く払えないから、その分の報酬だと思ってくれていいわ。それに、パーティメンバーも募集するつもりだから足手まといが増えるわよ」
「まぁ足手まといが増えても、たいして労力は変わらないけど……」
「実力はわかってるんだから口に出さないでよ~」
「わかったわかった。これでいいんだろ」
クリスタが涙目になったのでヤルモがサラサラっとサインしたら、涙は引っ込んだ。
「あとは~……冒険者カードは適当に書いておいたけど、訂正する箇所があったら自分でしてね」
「おっ! 戦士になってる」
「もう隠れる必要はないんだから、武道家じゃなくていいでしょ。でも、本当の職業はわからないから戦士にしておいたの」
「パーティ仲間だからって教えないぞ?」
「いつか教えてね!!」
いくらパーティ仲間だからといっても、心を全てさらけ出さないヤルモであったとさ。
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