後の英雄、女騎士と出会う
意識を取り戻すと、俺はギルドの医務室のベッドの上に居た。
「気が付いたか」
声を掛けて来たのは女騎士だ。
ブロンドの髪に銀鎧を着た俺と同じぐらいの背丈の女の人。
青い目の凛々しい表情で胸はしっかりと自己主張をしている。
ダンジョンで俺を助けてくれた人だ。
この人がいなければ今頃俺は薄暗いダンジョンの中で野垂れ死んででいただろう。
身体の麻痺も痛みも治まっている。
きっと彼女が僧侶を手配して治療してくれたんだな。
女騎士は深く頭を下げた。
「私はアリエス。君の護衛をするはずだったんだが、助けに入るのが遅れてすまなかった」
護衛?
そんなものを頼んだ覚えはないんだけど。
「あいつらから君の身を守るのが私の任務だった」
任務?
病み上がりで頭が回らないせいか、アリエスさんがなにを言っているのか理解できない。
そこへ現れた冒険者ギルドの受付嬢のラネットさん。
俺が理解に苦しむ表情をしていると、ラネットさんがアリエスさんと代わる。
「それについては私から説明しますね」
要するにこんな感じだった。
最近、冒険者が何人も行方不明になる事件が頻発した。
被害者は主にソロ活動をしていた中堅冒険者。
みんなダンジョンのソロでは潜るはずもない階層でモンスターに襲われて死んでいた。
その中で気になる死体が……。
多数の痣の残る暴行の痕跡が残った女冒険者の死体だ。
これは事故ではないと思ったラネットさん。
調べてみるとギルド外の募集でその女冒険者はケイロスのパーティーと組んでいることがわかった。
そこで探りを入れるために王都の冒険者ギルドの知り合いのアリエスさんを呼び、知人の俺をおとりとしてケイロスたちを探ることにしたそうだ。
事情を詳しく話すと俺の態度に違和感が出てしまうので俺にはそのことを伏せていた。
それでラネットさんが『私からの紹介ということは隠して』という言葉を添えてケイロスのパーティーに送り込んだんだな。
「もちろんラーゼルさんの身は守る予定でした」
ちなみにラーゼルというのは俺の名前。
かっこいい名前だろ?
昔活躍した勇者の名前からとったらしいんだ。
名前だけはかっこいいと宿屋のおばちゃんにからかわれる。
「煙幕に巻かれて君を見失ってしまって……本当にすまなかった」
アリエスさんは深く頭を下げて謝罪をする。
俺の焚いた煙幕が助けに来るのが遅れた原因だったのか。
そこまで謝らなくてもいいのに……。
「頭を下げないでください。命を助けてくれたので感謝しています」
「そう言って貰えると私としても助かる」
「ところでケイロスたちは?」
「全員、現場で斬首処分です」
「それ大丈夫ですか?」
さすがに裁判にかけないで処刑しちゃって大丈夫なんだろうか?
俺以外にも何人か殺していたみたいなんで間違いなく死刑判決が下るとは思うんだけど。
あとで、ラネットさんとアリエスさんがトラブルに巻き込まれなければいいんだが……。
「ラーゼルさんを殺そうとしていた時点で斬首は問題ないです。それにラーゼルさんのバッグに取り付けておいた魔音機ににも証拠の発言が残っていましたしね」
ちょっ!
なにそれ?
なんで俺のアイテムバッグに魔音機なんて仕掛けてあるの?
いつの間にそんなものを仕込んでいたんだ?
って、ラネットさんから今回の依頼の前に貰ったマスコットのラネットさん人形か。
「いつも一緒に居たいの」
ラネットさんは顔を赤らめながら小さなぬいぐるみを俺に渡してきた。
疑いもしなかったよ。
俺を好いていると思わせやがって……。
中年になりかけの俺のピュアなハートを返せ!
ちくしょう!
それにしても魔音機を取り付けられたことにも気が付かない俺って冒険者失格じゃね?
「ラーゼルさんには今回の調査で少し多めの報酬を出しますので、それで許してもらえないでしょうか?」
ラネットさんとアリエスさんが頭を下げる。
提示された金額は30万ゴルダ。
俺の1月分の収入にも匹敵する大金だ。
女の人に頭を下げられたんじゃなにも文句を言えるはずがない。
ケイロスを返り討ちに出来なかった俺の弱さにも原因があるしな。
俺はこの件を水に流すことにした。
「ええ、それで恨みっこなしということで」
「ありがとう。お詫びに一緒に食事でもどうですか?」
「是非とも!」
「アリエスも来るわよね?」
「もちろんだ!」
思いがけず、美女二人に食事に誘われることになった俺。
このまま、仲良くなれたらいいんだけど……。
まあ、人生そこまで甘くないわな。
*
ラネットさんとは時々酒場で酒を酌み交わす仲だったりする。
もちろん、恋人じゃなく受付嬢と冒険者という同僚としての関係でね。
俺が誘って互いの愚痴を聞いてもらうような感じ。
恋愛感情のへったくれもなく、彼氏彼女の関係には全く発展しそうもないのが悲しい。
まあ彼女が俺と結ばれたとしても、無能で貧乏な俺とでは不幸な未来しか思い浮かばないので俺からのアプローチはしない。
ラネットさんがギルド職員を始めたころに俺が色々と教えてやったのが縁で今でも友達付き合いしている。
今日はアリエスさんがいるのでいつもの冒険者ギルド併設の酒場じゃなく、ちょっと高級な感じの料理屋だ。
高級ではあるがあくまでも料理屋であってレストランじゃないのでドレスコードは無い。
彼女たちは着替えていたのでレストランであっても当然問題ないが、俺の貧相な格好でも入店拒否をされることはなかった。
酒を飲み始めると皆、口が軽くなる。
「そういえばラーゼルさん聞いた?」
なんのことだろう?
「この前、ラーゼルさんを追放したギルのチームが解散したわよ」
「えっ? なんでいきなり?」
「ラーゼルさんの代わりにパーティーに僧侶を入れたんだけど、敵を翻弄するサブ盾役のメンバーが居なくなったからギルが敵に殴られまくってね、回復であっという間に僧侶のMPが尽きてそのままパーティー崩壊。ギルは生き延びたけどリンシャを庇って足に大けがしたからもう冒険者を続けるのは無理ね」
俺をバカにした手前、ちょっと背伸びして強い敵の狩場に行ったらしい。
逆に敵に叩きつぶされたようだ。
なんで俺のレベル上限が上がるまで冒険者を続けられなかったんだよ。
俺が見返す間もなく冒険者を辞めてしまうなんて……。
馬鹿な奴め。
俺が関わった冒険者が引退する話を聞くと、あんな奴等でも悲しくなる。
ちょっと沈んだ顔をしていたのか、アリエスさんが俺を茶化して盛り上げようとする。
「なんでラーゼルさんは黙り込んでいるの? あっ、わかった! ラネットの胸でも見てるんでしょ?」
アリエスさんが笑うたびに立派な胸のふくらみが上下に激しく揺れて目のやりどころに困る。
ラネットさんもアリエスさんほどじゃないが立派なお胸の持ち主なので揺れまくり。
いつもラネットさんとは冒険者ギルドの壁際の席に並んで飲んでいたので、ここまで自己主張の激しい胸の持ち主とは思ってもいなかった。
俺は二人の胸に意識が行っているのを誤魔化すために、仲の良いアリエスさんとラネットさんの関係を聞いてみた。
「お二人は仲がいいんですがお知り合いなんですか?」
「ラネットとは昔パーティーを組んでた仲なんだ」
「それで仲がいいんですね」
二人はは過ぎ去りし過去を思い出しながら遠い目をする。
「あの頃はラネットと二人で騎士を目指す夢を見てたんだよなー」
「だよねー」
「あの頃は楽しかったな」
「私もレベル限界が来てしまって冒険者を引退して、アリエスとはそれ以来会ってなかったんですけどね」
ラネットさんが元冒険者という話は聞いていた。
でも辞めた原因がレベル限界とは今日初めて知ったよ。
ラネットさんのことを知ってるようで全く知らない俺だった。
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