後の英雄、ドラゴンと再び戦う

 ドラゴンは野太い声を俺に浴びせかける。


「コレデ我ノ気ヲ失ナワセタ、アノ技ハ使エヌダロウ! 我ノ勝チダ。ブハハハハ!」


 既に勝ちを確信しているドラゴン。

 その態度には余裕が見え隠れする。


「でもな、こっちにも負けられない事情があるんだ」


 帰りたくないと泣く女の子の顔を見るわけにはいかないんでな。


「フフフ。ソレモちからナキ者ニハ叶ワヌユメ。我ノちからヲ思イ知ルガイイ!」


 ドラゴンの巨大で強烈な拳撃が俺を襲う。

 ギリギリ避けたものの、地面に食い込んだ拳が巻き上げる岩に頭を当てて流血だ。

 

「くそっ!」


 俺がよろめいた所を目掛け間髪開けずに雄叫び!


『グギギギーーーツ!』


 容赦ねえ!

 吹き飛ばされそうになるが、なんとか耐えきった。

 俺が立っているのを見たドラゴンは感心している。


「ホホウ。人間ノクセニ『テラーハウリング』ヲ耐エタカ。一晩デ、ソコ迄レベルヲ上ゲタトハ、ナカナカ、ヤルナ」

「ああ、負けてモニカを失うわけにはいかないしな」

「デモ、コレハドウダ?」


 大きく息を吸い込み火球を吐く。

 だが俺は息を吸ったタイミングでドラゴンの背後へと移動。

 なんなく火球を避けた。

 背後であれば炎は当たらない。

 そこでドラゴンの目が怪しく細められた。

 なんだこの目は?

 罠か?

 俺は慌てて逃げようとする。

 だが遅い!

 既に逃げるタイミングは失っていた。

 ドラゴンの極太な尻尾が俺を襲う。

 俺は全身の骨が砕け散り地面に叩きつけられ弾き飛ばされ……。

 ん? 当たってない!


 カウンター。


 俺はドラゴンの攻撃を反射していた。

 全力の尻尾攻撃で俺を叩き潰したと思ったドラゴン。

 そのちから全てが凄まじいちからとなって自分に返ってきた。

 しかも数倍じゃ済まない暴力的な攻撃力となって!

 脳天直撃で目から火が出るドラゴン。

 意識を失いかけ、倒れた。

 いや、倒れてない!

 意地でギリギリのところで耐えた。


「ナントイウ不思議ナ技ヲ使ウ男ダ!」


 それ、単なるカウンターだから。


「デモ耐エタゾ! 耐エキッタゾ!」


 ドラゴンは勝ち誇る。


「なかなかやるな」

「オ前モナ」


 俺がほめたたえると、ドラゴンもほめたたえる。

 戦いを通じて二人に友情が芽生えた。

 そしてその瞬間にドラゴンの邪眼発動!


「ぐっ!」


 まさかの石化。

 バジリスクが石化を使えてドラゴンが使えないわけがない。


 それにしても嘘だろ?

 あの流れで邪眼を使ってくるとかありえねえ!

 そこは肩を抱き合い仲直りする感動的な場面だろ!

 俺は石のように固まり、ドラゴンはとどめを刺そうと尻尾を高く掲げた。

 やべえ!

 これではカウンターが発動しない。

 あんなものまともに食らったら死ぬ!

 俺は死を覚悟した。


 その時!


「勝負はついた。母上の勝ちだ!」


 ドラゴンの目の前に立ちはだかる者が現れる。

 モニカだった。

 助かった……。

 でも、俺が負けたってことはモニカは……。

 ごめん。

 俺の力不足ばかりに。

 すまねえ。


「我ガ娘ヨ。負ケヲ認メテ巣ヘ帰ルノカ?」

「私との勝負に勝ったらな」

「勝負ダト?」

「ああ。私との勝負は行っていない」

「マア、イイダロウ」

「ただし力の勝負ではない。一分以内に私を倒すか捕まえたら母上の勝ちだ。でも逃げきれたら私の勝ちだ」

「ヨカロウ、ソレデ納得シテ巣ニ帰ルノダナ」

「約束する。それ以外のルールはラーゼルとの戦いのものを引き継ぐ。それでいいな?」


 モニカは返事を待たずにいきなり逃げ出した。

 ものすごいスピード。

 すでに豆粒サイズにしか見えない距離まで逃げた。

 隙をついて一分間逃げきるつもりのようだ。

 親同様、空気を読めないあり得ないことをする奴だ。

 

 でも、ドラゴンとは歩幅が違い過ぎる。

 すぐに追いつかれてしまった。

 ドラゴンはモニカをいたぶる。


「ホラホラ! モット本気デ逃ゲナイト、踏ミツブスゾ」

「ひやっ!」


 子ネズミが逃げ回るようにちょこまかと動き回る。

 既に残り時間は15秒。

 残り時間は少ない。

 モニカは逃げ切れるかもしれない。

 そう思ったんだが残り時間が少ないのに気が付いたドラゴンが本気になる。

 モニカも本気だ。


「私についてこれるか?」


 モニカは屋敷への坂道へ向かう。

 坂道なら登ってこれないと思ったんだろうか?

 でも……。

 

「コンナ小サナ坂道ナド小石ト変ワラヌ!」


 モニカを踏みつけようとした時!


 ズボッ!


 ドラゴンの踏んだ地面が割れ足を取られた。


「ナッ! ナンダ?」


 ぬかるみだ。

 ドラゴンは足を取られ腰までぬかるみにつかった。


「モーちゃんの考えた『マディ』落とし穴の作戦大成功だね」

「ビアンカが魔法で落とし穴を作るのを手伝ってくれたお陰だ」


 以前、モニカとビアンカが一つだった頃にサボテンミミズに絡まれたことがある。

 それをヒントに作ったマディの魔法で作った泥沼の落とし穴。

 それにまんまと引っかかってコケて膝をついたらしい。

 

「膝をついたんだから私の勝ちでいいな」

「魔法ヲ使ッタ落トシ穴トハヒキョウナ! ソンナノハ反則ダ! 認メナイ!」

「お母さまは魔法を使うなとは言ってなかったはず。膝を突いたから負けです」

「罠ナド無効ダ。力(ちから)デネジ伏セナケレバ認メナイ。巣ニ帰ルゾ!」


 モニカを鷲掴みにしようとするドラゴン。

 モニカはその手をすり抜けた。


「親が一度言ったことを破るんじゃねーよ! 力でねじ伏せればいいんだな!」


『どごっ!』


 モニカは地面を蹴り飛び上がり強烈なアッパーをドラゴンのあごに食らわせた。

 ドラゴンは強烈なパンチを食らい一瞬で意識を刈り取られた。

 沈むドラゴン。

 モニカはドラゴンを倒した!

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