後の英雄、触手でエ〇い目にあっていた少女を救う

 今回の依頼は片道一泊二日、往復で四日掛かる。

 街道警備としては一般的な期間だな。


 辺境の警備依頼だともっと任務期間が長い。

 馬車で移動が2日、警備が5日ぐらいの往復10日ぐらいの辺境の街道警備もある。

 任務期間が長いので報酬がかなり高くなる。

 でも遠方の依頼となるので警備依頼を受注する冒険者の数も減るのだ。

 それによって街道警備の間隔が空いてしまい、長らく放置されていた強めのモンスターと出くわしたりして任務の危険度もかなり増す。


 俺の経験上、辺境の街道警備であまりいい思いをしたことが無い。

 レベル発展途上のメイミーもいることなので辺境の街道警備依頼は避けたることにした。

 今回の街道警備依頼はサテラから近接都市のクレソンへの街道警備だ。

 人通りも多い街道なので強いモンスターも出ず、安全度も高い。

 俺とメイミーはハイキング気分で依頼を満喫した。


 *


 日が傾いたので簡易テントを張り野営の準備。

 メイミーもサビアになる前は冒険者をしていたのでテントの設営はかなり手慣れた感じだ。


「えへへ、今夜もごしゅじんさまと一緒なのです」


 俺もメイミーと一緒でうれしいよ。

 今までのボッチメインの冒険者生活とは夢のようだ。

 もうあの頃には戻りたくないな。


「ごしゅじんさま~」


 その夜もめちゃくちゃ仲良くした。

 初めての屋外なのでメイミーもかなり喜んでいた。

 ベッドじゃないので膝も腰も痛い。


 *


 翌日、街道を歩いているとメイミーがポツリと言った。


「ラネットさんはいつぐらいに戻ってくるんでしょうかね?」

「長くても一週間ぐらいかな?」

「ラネットさんのご実家ってこの先のですよね? 顔を出さなくていいんでしょうか?」


 たしかラネットさんの実家は街道警備の目的地であるクレソンの街からさらに歩いて三日行ったクローブの町だ。

 馬車で行けば片道一日の距離。

 行こうと思えば立ち寄れる。

 でも俺たちが顔を出したらじゃまだよな。


「久々の家族水入らずの帰郷だから、じゃまをするのはやめとこうぜ」

「ですねー」


 そして小さな声でポツリと……。


「もう少しごしゅじんさまを独り占めしていたいし。えへへ」


 本当は俺がご両親と会うのが嫌だったので行きたくないんだけど。

 だって婿むこなんて父親からしたらかわいい娘を寝取った男だぞ。

 大金持ちや貴族でもなければ絶対に喜ばれるわけもない。

 きっと嫌みの一つも言われるさ。

 まだ心の準備が出来てないんだ。

 ラネットさん、すまん。


 *


 昼になった。

 昼ご飯を食べ終え、メイミーと昼寝でもしようかと思ったら風に乗って悲鳴が聞こえる。

 すぐに悲鳴の主が見つかった。

 サボテンミミズに苦戦している女の子だ。

 杖を持ち羽根スライムをデザインしたレアな感じのキャスケットの帽子を被っている。

 どうやら魔法使いのようだ。

 二匹のサボテンミミズの触手で片足ずつ絡めとられ、さかさまに宙吊り。

 結構エラい目に遭っている。

 噂に聞いた伝説の逆さ吊りだよ。

 冒険者酒場の酒飲み話でローパーの逆さ吊りなんかをよく聞くけど、実際に逆さ吊りになってる女の子を生まれて初めて見たわ。

 逃げようと抵抗したせいかいろんなとこがはだけちゃってるけど、最後の砦のスカートの中を見せまいと必死に押さえて耐えていた。

 白いものがスカートの中でちらちら見え始める。


『ミミズがんばれー! あとちょっとだぞ!』


 思わず心の中でモンスターを応援してしまったら女の子に睨まれた。

 泥にまみれた女の子が半泣きで懇願してくる。


「じとっとした目で見つめていないで助けてくださいよぅ!」


 サボテンミミズは魔法系の敵なので魔法が効きにくく、魔法使いとはすこぶる相性が悪い。

 魔法使いなら避けるのが基本なんだろうけど、避けた先にもう一匹のサボテンミミズがいてからまれた感じだ。

 仕方ない。

 女の子に泣き顔で頼みごとをされたんじゃ助けないわけにはいかない。

 あとちょっとで聖なる布を目の当たりにできたんだが、仕事が遅いサボテンミミズ君が悪い。

 俺はサボテンミミズに斬りかかった。


『ザク! ザク!』


 触手君はバラバラに。

 もちろん二匹とも一撃で撃破だ。

 かっこいいだろ?

 落ちて来た女の子をさっと抱きとめる。

 女の子を降ろすと感謝された。


「助かりました」


 その場にぐったりとへたり込む女の子。


「大丈夫か?」


 メイミーが水筒を差し出すと、ゴクゴクと飲み干す。

 『ぷはー!』といって息を吹き返した。

 顔中泥まみれで、頭にかぶっている羽根の生えた帽子迄ドロドロだ。


「【マディ】の魔法を使われて逃げられなくなって、MPも尽きそうで死ぬかと思いました。助けてくれてありがとうございます」


 マディとは泥沼の魔法。

 泥沼が出来て足を取られて逃げられなくなる。

 魔法の詠唱が長いので発動までに殴れば余裕で止められるんだけど、魔法使いは殴るジョブじゃないからな。

 対処法を知らないと今回みたいに大変なことになる。

 装備を見た感じそれなりに経験を積んだ魔法使いみたいだから当然知ってる常識だと思うんだけど、なんで絡まれたんだろうな?

 女の子は俺たちに頭を下げた。


「私は冒険者のモニカといいます。勝手なお願いなのはわかっています。近くの街まで一緒に連れて行ってください!」


 半泣きされて同行を懇願された。

 なんで敵を倒せないのに、こんなところを一人で歩いているんだろう?

 わけわからん。


「わからないですか? 私もわかりません!」


 勝ち誇ったようにそう言われた。

 なにこの子、頭大丈夫か?

 でも減るもんじゃないし一緒に街へと向かうことにした。

 モニカはサボテンミミズに絡まれた経緯を話す。


「街で冒険の準備をしていたんですけどね。薬草を買うお金がなかったので生えている薬草を採取してお金を浮かせようとしたら……気が付いたら迷子になってました」


 聞くとモニカはクレソンの街の冒険者らしい。

 クレソンの街ってまだまだ距離があるんだけど、どんだけ迷子になったんだよ?

 モニカの方向音痴半端ねぇ。

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