後の英雄、神殿の神官に相談に行く

 メイミーに訪れた聞いたこともない現象。

 MPが0を大きく割り込みマイナスになる。

 その結果メンタルブレイクの状態異常では起こらない気絶状態となった。

 今はエーテルを飲ませたことにより状態異常はなくなったが、原因不明のまま魔法を使い続けさせるわけにもいかない。

 一度ジョブチェンジをしたら再びジョブチェンジが出来るのはしばらく後。

 半年は狩人に戻せなかったりする。

 まあ、神殿でお金を払えばすぐにでも戻せるんだけど。

 狩人に戻すとしてもまずは原因を調べないとまた同じことを繰り返すかもしれない。

 俺は原因を探るべく回復魔法のエキスパートの神官に相談に行くことにした。

 

 診察室で紹介状を貰い神殿へと行く。

 入り口でクレハさんからの紹介状を渡すと奥の部屋に通された。

 荘厳できらびやかな大聖堂と違い意外と質素というか粗末な部屋だ。

 俺の対応をしてくれたのは女性神官の『クレリア』さん。

 この神殿の中ではかなり偉い神官さんの一人だそう。

 実はクレハさんのお姉さん。

 彼女に事情を話した。


「メイミーが回復魔法の『ヒール』を使ったら倒れてしまいました。調べてみるとMPを大きくマイナスになるほど割り込んでいたのが原因なんじゃないかと思うんですが……」


 石板をメイミーの額に充て状態を調べる。

 クレリアさんはすぐに原因がわかったようだ。


「スキルとの相性が悪かったんでしょうね。ほら、これを見てみて」


 クレリアさんが指さしたのは石板のステータス欄。

 【回復魔法:超】と表示されていた。

 それは俺も知っている。

 回復職向きのスキルがあったので聖女へのジョブチェンジを勧めたのだ。


「優秀過ぎる若い僧侶によく起こる事故なのよ。【回復魔法】スキルのお陰で本来は使えないはずの『ヒール』の1ランク上の回復魔法である『ヒールズ』の効果が発動してしまったのが原因ですね」

「それって大丈夫なんでしょうか?」

「もちろん問題がありますよ。今のまま回復魔法を使うことは彼女の命を削ります」


 命を削るだって?

 俺が僧侶に転職を勧めたことでとんでもないことになってしまった。


「MPが凹むということは彼女の命を削るということ。一回や二回なら打撲程度のダメージと大差なく問題はないですが、気絶するほどの打撲を何度も受け続ければ寿命が削られるように、上位の回復魔法の使用は確実に彼女の寿命を蝕みます」


 メイミー、すまん。

 俺のせいでそんなことになっていたなんて。

 悔やんでも悔やみきれない。


「原因はわかっています。彼女の持つスキルが本来使えないはずのMP消費の大きい上位の回復魔法を利用可能としてしまいました。消費MPの大きな『ヒールズ』が発動しないように必ず魔法は詠唱して使うのを心掛けるのと、出来るのならば『ヒールズ』の使えるレベル25に上がるまで回復魔法を使う事を止めた方がいいと思います」


 俺がスキルだけを見て転職を勧めたのがメイミーが倒れた原因だ。

 もうすこしスキルの効果を調べてから転職を勧めるべきだった。

 それを聞いて涙目になるメイミー。


「せっかくごしゅじんさまのお役に立てると思ったのに……」


 クレリアさんはメイミーを励ます。


「あなたはとても優秀な聖女になれる素質を持っているの。焦ることはないわ。レベルが上がればMPの最大値も上がって普通に回復魔法を使えるようになるから、長くても2~3年の我慢よ」

「はい……」


 ちょとまてよ?

 問題はレベルだけなのか?


「レベルが上がれば問題ないんですか?」

「ええ、問題ないわ。正確にはレベルというよりもMPね」


 それなら俺の経験値支援5倍のスキルが役立つ。

 俺とパーティーを組み雑魚を倒してメイミーのレベルを25に上げれば済む話だ。

 よし、レベルを上げまくるぞ!

 俺は雑魚討伐をすることにした。


 *


 受けた依頼は『街道警備』。

 レベルを上げるだけなら依頼なんて受けずに街の外で雑魚を狩りまくるのが一番だ。

 でも……すまん。

 今の俺は笑えるほど金を持っていない。

 宿代ならマーリーさんに頭を下げて待ってもらえばどうにかなりそうだけど、食事代にツケはきかない。

 なので経験値を稼ぎつつお金を稼げる依頼を受けたというわけだ。


 街道警備の依頼の内容は簡単。

 ひたすら街道を歩いて、道に穴が開いていたら馬車の車輪が取られないようにスコップで埋め、モンスターが居たら追い払うだけ。

 大量発生とは無縁の依頼なので俺の立ち回りでもメイミーを守ることが可能だ。

 モンスターといっても強そうな敵は街道沿いに生える植物系捕食モンスターのサボテンミミズぐらいだ。

 あとは弓矢を射って脅せば一撃で仕留めるか大抵どこかへと消えていく。

 弓矢とスコップさえあれば誰にでも出来る簡単なお仕事だ。

 メイミーは俺の腕に抱きつきかなり喜んでいる。


「えへへ。ごしゅじんさまと二人で歩いているとデートみたいですね」

「お、おう」


 デートならこんな草原や荒野を歩かないと思うんだけど。

 満面の笑みのメイミー。

 彼女が嬉しいならそれでいいか。

 サボテンミミズがいたら俺が倒し、ホーンラビットやゴブリンがいたらメイミーが弓矢を射る。

 弓矢を射ると倒しきれずにたまに怒って反撃してくる血気盛んなモンスターがいたけど俺が返り討ち。

 経験値うまー!

 倒すたびメイミーは大喜びだ。


「さすが、ごしゅじんさまです! カッコいいです! すごいです!」

「ど、どうも」


 全力で褒められるので少し照れる。

 俺はメイミーとの旅を満喫した。

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