後の英雄、仲間と名物を食べる

 夕方、クレソンの街に着いた。

 モニカとは街の入り口で別れて冒険者ギルドへと向かう。

 ついてきたそうだったけど、そこはキッパリとお別れすることにした。

 俺の危険回避センサーによるとモニカと一緒にいると厄介ごとを起こしそうな予感がしたからな。

 あまり関わらない方がいい気がした。


 冒険者ギルドで片道分の依頼達成報告だ。

 依頼達成で成功報酬として2人で10万ゴルダを貰った。


「いっぱいお金貰いましたね。おいしいものをいっぱい食べれます!」


 いい稼ぎだと思うけど、バルトさんと一緒にダンジョンに潜ってた頃なら宝箱を一つ開けただけで余裕で稼げた金額だ。

 ずっしりとした金貨袋が懐かしい。

 とはいったものの10万ゴルダもあればちょっとぐらい贅沢しても大丈夫。

 さっそくメイミーと食事をとることにした。


「なにか食いたいものがあったらいってくれよ」

「そうですねー、屋台で見かけたオムラパン食べたいです」


 お金あるのにそんなものでいいの?

 俺に遠慮してるのかな?

 でもまあ、メイミーが食べたいというので早速買ってみた。

 トマーラで味付けしたパスタを卵でくるんだものを具材として挟んだクレソンの街の名物パンだ。

 噛むとトマーラのソースがあふれ出す。


「うまっ!」

「ジューシーでおいしいです」 


 味が濃くて身体の疲れを吹き飛ばす。

 メイミーも大満足。

 店で普通の料理を食べるよりもよかった。


「おいしいですね」

「ああ、うまい!」

「噂に聞いていたオムラパンをごしゅじんさまに買ってもらってうれしいです」


 俺が食べていると、足に何かが纏わりついた。

 そして……。


『ぐぎゅー!』


 見ると、モニカが俺の足に縋り付いている。


「このままでは死んじゃいます……」

「どうしたんだよ?」

「おなかが空きました。二日も荒野をさまよっていて餓死寸前なんです」


 二日も迷子になってたのかよ!

 どんだけ方向音痴なんだよ。

 ありえねぇ。

 どうりであんなとこでサボテンミミズに捕まってたわけだ。


「そこでパンでも買えよ」

「依頼も受けないで迷子になってたんですから、お金を持ってる訳がないじゃないですか」

「仕方ないな……」


 俺はパンを三つ買ってモニカに渡す。

 モニカはすさまじい勢いで食らいつく。

 頭の帽子にも食べさせてるけど帽子もパンを食べるのか?

 最近の魔道具はスゲーな。


「こ、これは、もぐもぐ、とても貴重な魔道具で、もぐもぐ、燃料の食べ物が必要なんです」


 よく見みると、帽子が二個もパンを食べてる。

 燃費悪いな。


「とってもうぐぐっ!」


 すごい勢いで食べているので、お約束のようにのどに詰まらせてむせた。


「はー、はー。メイミーさん、お水ありがとうございます」

「どういたしまして。慌てて食べたらだめですよ」

「はいです。パンと水を恵んでもらったお礼にこの身体でお返ししたいと思います」


 そういって俺を挑発してくるモニカ。

 モニカは普通に発育がよくメイミーよりもずっと肉付きがいい。

 さっきはだけてた服からのぞかせていたお胸の辺りはかなりボリューミーだった。

 きっとベッドの上は楽しいことになるな……。

 ちびっこ体型でありスレンダーな感じのメイミーとは全く違うタイプだ。

 なんてゲスなことを考えていたらメイミーに思いっきり見つめられた。

 やば!

 鼻の下を伸ばしてたのがバレたか!

 俺は必死に弁明する。


「いやいやいや、お嫁さんは十分に足りてるし」

「お嫁さん?」


 メイミーがキョトンとしてるが気にしない。

 モニカの身体つきはちょっとえっちぃけど既に二人もお嫁さんがいるしもう要らないよ。

 若くないから2回戦が限界だしね。


 それを聞いたか聞いてないのモニカは目をキラキラと輝かせてアピールしてきた。


「私の魔法はきっと役に立ちますよ!」


 そっちかよ!

 身体で返すって夜のお供の話じゃなかったのね。

 心の汚れた大人でごめん。


「いかがでしょう? 今ならご飯代と宿代だけで火力担当の仲間が増えます。仲間にするなら今しかないですよ!」


 期待を込めた目でめっちゃ売り込んでくるモニカ。

 頭の帽子も上機嫌なのかブンブンと羽を振っている。


 でもなぁ。

 魔法の使える仲間は魅力的だけど、サボテンミミズも倒せないような足手まといなんて要らねーよ。

 しかもかなりの方向音痴っぽいから依頼を受けたら間違いなく出先で迷子になって足手まといになる。

 野良犬の泣き顔にほだされて餌をやったら思いっきり懐かれてしまったパターン。

 しかも全く鼻の利かないへっぽこ犬。

 これは面倒なことになるぞ。

 間違いなく関わらない方がいい案件だ。

 俺は一目散に退散することに。


「じゃ、これで!」


 俺が逃げようとしたのを察したモニカも諦めない!


「うわーん! 捨てないでくださいよー! 身体でご奉仕しますからー!」


 俺の袖をこれでもかと引っ張る!

 魔法使いなのに力つぇぇ!

 袖がもげるから止めて!

 騒ぎを聞きつけて人垣が出来始める。

 すげー数の人に見られてるんだけど!

 恥ずかしいからやめてくれ!


「あのおっさん、女の子をもてあそんで捨てようとしてるぞ」

「あれは女の子とエロいことして遊ぶだけ遊んだのにお金を踏み倒して逃げようとしてるんだ」

「マジかよ!」

「とんでもないおっさんだ! 通報しないと!」

「衛兵さーん! 変態さんはここですー!」


 ち、違うから!

 お、俺、無関係だから!

 って、エロいことしてお金ってなんだよ?

 パンを3個もくれてやったのにどうしてそうなる?

 でも世間は俺の弁解なんて聞いてくれない。

 く、くやしい!

 このままではタイーホ?

 それだけはヤバイ!

 モニカを抱え宿屋へと逃げ込んだ。

 俺はとんでもない疫病神に憑りつかれてしまったようだ。

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