新たなる辺境伯の都市計画
嫁たちみんなとエキサイトして朝チュンを迎えた朝。
遅い朝食を食堂で摂っているとアレンさんとその妻のボダニカルさんがやって来た。
「昨日の夜はずいぶんとお楽しみのようだったね」
「いや、あの、騒がしくしてすいません」
「いやいや、責めるために言ったんじゃなく、その若さというか元気さがうらやましくてね。僕の若い頃でもそんなに連戦できなかったし」
そりゃ、次から次へと嫁たちが行列して待ってるんだから休ませて貰えなかったし。
ちょっと嫁を増やし過ぎたかもしれない。
それに気が付いたらボーイッシュな知らない顔の嫁が増えてたし。
どうなってるんだよ?
「話は変わるんだけど、王様から僕の家を継ぐ許可も貰ったことだし、そろそろちゃんとした結婚式をあげないとうちのラネットも悲しむんじゃないかと思うんだよ。結婚式を挙げてもらえないかな? ラネットもそう思うよな?」
「父上!」
その話に対してラネットさんが答える。
「結婚式のことなんですが、ラーゼルさんとも話し合った結果もう少し先に延ばそうと思っています」
「それはどうしてなんだい?」
「せっかく新しい街を作ることになったんだから、その街の教会で初めて執り行う式で挙げようかなと思うんです」
「それも面白い趣向かもな」
「ええ、それにこれだけの大人数ですとクローブの小さな教会では全員入るのも厳しそうですし」
「そういうことなら、これ以上の口出しはやめておこう」
食事を終えると新しい街の建設計画に移る。
アレンさんが計画図に大体のブロックを引く。
「あくまでも僕の案なんだけど、1万人の住民を抱える領地の領都を作るのならば、街の構成は基本的に王都に倣った方がいいんじゃないかと思うんだ。大抵の大都市は王都と変わらない作りをしているからね」
「確かに父上のいう通り都市の作りはどこも似通っていますね」
「王都ではないので王城の代わりに精霊塔を中央に置き、その周りに僕ら領主や役人の住む政芯区、さらにその周りに商業やギルドを中心とした商央区、そして住民の住む住街区。そして各区の間には内城壁を設ける。こんな感じで都市を設計しておいた方が精霊塔の防衛がしやすいと思う」
なるほどね。
アレンさんの博識にはいつも感心させられる。
「まるで精霊塔を守る城塞都市みたいですね」
「ポリス級の精霊石の価値は計り知れないからね。都市の外に置いた方が開発効率はいいんだけど、精霊石の防衛のためだけに衛兵を雇って警備費をつぎ込むのもバカらしいだろ?」
「私もその案に賛成です」
ラネットさんもアレンさんの案を推す。
博識なアレンさんは都市設計も詳しいんだろう。
都市設計に全くのド素人の俺が口を出しても混乱させるだけだから、ただひたすら無言で頷きまくる。
話している内容がわからなくてなにも意見できなくて『うんうん』頷いてたんじゃないからな。
「それと都市を作るのと同時に形だけでもギルドを作り、農地もある程度開墾しておいた方がいいね。働ける場所が無ければ人が集まってもすぐに去っていくことになるから」
開拓村なんて土地と住む場所さえ用意したらあとは住民が勝手に移り住むものと思っていたんだけど、結構大変なんだな。
新しい都市を作る前に既に経済基盤が形成されているクローブの開発を進めたほうがいいかもしれない。
アレンさんにその話をするとそれは止めた方がいいといわれた。
「資金の問題もあるし、時間の問題もある。開拓街が大きくなればクローブは勝手に大きくなるから心配しなくていい」
とのことだった。
確かに今の俺はバルトさんの英雄の後継者となるべく課題を課されてる状況だからな。
バルトさんに後継者として認められるまでは、他のことをする余力はない。
ラネットさんが状況をまとめ、おすすめの開発方針を俺に提示して判断を仰ぐ。
「とりあえずの目標は開拓街へのアクセスの確保と安全の確保ですね。具体的に言うと道の整備と精霊塔の建設になります。これを最優先で行いたいと思うんですが、ラーゼルさんはどう思いますか?」
「俺もそれを進めることに賛成です」
他にいい案があるのかもしれないけど、それ以外思いつかないし。
経験値100倍の神スキルを持っている英雄でも、中身の知能は平民そのままだからな。
そのあたりの実務はラネットさんやアレンさんみたいな学のある人に頑張ってもらうしかない。
大国の王様だって細かいことは全部役人まかせだし、新たなる領主となる俺もそんなもので問題ないはず。
うん、きっとそう。
*
クレソンの街の食堂。
ウェイトレスが食器を大量に持ち上げるとワッと歓声が上がる。
30枚近い皿を一気に持ち上げたんだから当然である。
しかも使っているのは風魔法。
今日は他所の町からクローブの町に移住途中に寄った者らしきグループもいて、初めて見る魔法に目を丸くしている。
料理が宙に浮いていたからみんな大騒ぎだ。
「あのねーちゃんスゲー! 料理をものすごい数運んでるぞ!」
「あれだけの風魔法を操れるウエートレスを始めてみたぜ」
するとウエートレスは笑いながら一言添える。
「私はねウエートレスじゃないの! 魔法使いなの! そこんとこよろしくね!」
ウエートレスが皿を置き席を去るとグループと町の住民で噂話が始まる。
「あの姉ちゃんは魔法使いだったのか?」
「魔法使いがなんでウエートレスなんてしてるんだ?」
「なんでも賭けに大負けしてこの店に売られて下働きになったそうだ」
「最初はすぐに転んで皿をひっくり返しまくって借金を増やしてたんだけどな。よくここまで成長したよ」
「あの娘はワシが育てた!」
ウエートレスは料理を配りつつ注文を取る。
別のグループが歓談していた内容が耳に入り心を離さない。
「さあ、俺たちの救世主のラーゼルさんが待っているクローブまであと少しだ」
「ラーゼルさんは既においらたちの家を移設してくれてるらしいですね」
「家の移設にヒドラの退治もしてくれて、あの人たちには感謝の言葉しかない」
「俺たちの救世主ですもんね」
「ヒドラを倒したモニカさんも救世主っすよ」
「でも、おいらたちがこうしてひたすら移動してるのに、それを追い越して先に家の移設なんて出来るんですか?」
「なんでもラーゼルさんが飼っている竜に乗って先に移動したらしいぞ」
「竜を飼ってるのかよ? すげーな!」
ラーゼルとモニカ?
モニカとはウエートレスに借金を負わせ最愛のビアンカを奪った女の名前だ。
モニカだけならありきたりな名前だけど、ラーゼルという珍しい名前がセットになれば話は別だ。
あの女に間違いない。
そう踏んだウエートレスはカマをかけた。
「そのモニカって男は強いの?」
「男じゃないぞ。ちっこい女の子だ」
「そのそばにフローラって子がいなかった?」
「フローラって名前は聞いたことが無いけど、ビアンカって子ならいつもそばにいたな」
間違いない、あの二人だ!
モニカが言っていたクローブの町にビアンカがいるって話は本当だったの?
それならすぐに向かわないと!
ウエートレスは決断し店長に泣きついた。
「店長、すいません! どうしても今すぐクローブに行きたいので借金返済の途中なのですがしばらくお休みを下さい。残りの借金は必ず返します!」
「借金の返済はとっくに済んでるぞ」
「えっ?」
キョトンとするウエートレス。
「いやー、使ったことのない風魔法を必死に覚えて、皿を運ぶのを真剣に取り組んでいたから、借金返済が終わっているのを言い出しづらくて……ほれ、今までの報酬だ。また良かったら働きに来てくれな」
ルナータは移民団と一緒にクローブを目指すことになった。
「待っててよ、ビアンカ! 必ずあなたを悪の手から救い出してあげるから!」
激しい思い込みを抱きながらルナータはビアンカの待つクローブへと向かう。
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