新たなる辺境伯は街道を作り始める
「まずは道だよな」
精霊塔の建設の手配はアレンさんに任せ、俺は自分の出来ること『精霊石の設置してある開拓街への街道づくり』をすることにした。
道なき道を進んで精霊塔工事に来てくれる人なんて誰もいないはずだ。
道がないんじゃなにも始まらない。
俺は嫁たちに斧とツルハシとスコップを配る。
「よし! 精霊塔まで道を切り開くぞ!」
「おー!」
俺たちが作ろうとしている道は豪華な四車線の道路だ。
片側に2台づつの馬車が並走できる王都の主要街道に匹敵する太い道。
さすがに人口1万人の領都の街道で対向二車線では狭いからな。
人外嫁であるモニカとヒーラとフェリが木を切り倒し、根を引っこ抜き、岩を掘り起こして道を切り開く。
俺はひたすら木と岩をアイテムボックスに回収。
ラネットさんとメイミーが穴を埋め平らに均し、ビアンカが土魔法で砂利を撒き仕上げをする。
モニカたちが頑張ってくれてるのが大きいと思うんだが、作業はかなり順調で1時間に100メトルも進んでいる。
「この調子なら一日に500メトルはいけるな」
当初の予定では1年かかると思っていた道路工事だけど、もっと早く済みそうだ。
俺に褒められたモニカは満更じゃないようで笑顔で聞いてくる。
「ラーゼル、精霊石に辿り着けるのはいつぐらいなんだ?」
「うーん、どのぐらいだろ?」
ラネットさんが暗算で教えてくれた。
「精霊石のある平原まで30キロルだから60日、2~3ヶ月ですね」
さすが元冒険者ギルドの受付嬢だけあって数字にかなり強い。
冒険者ギルドっていう言葉で思い出したんだけど、コットンさんの大凱旋はどうするんだろう?
「大凱旋ならコットンに依頼を見繕って貰っている最中ですね。サテラの街ではランクの高い依頼はあまり来ないので依頼を待ってる感じですね。週に一度、依頼が貯まった時点で受けに行けばいいと思います。それよりも先に難易度の高い依頼を受けられるようにラーゼルさんたちのランクも上げないといけません」
肝心なことを忘れていた。
コットンさんが難易度の高い依頼を用意しても、ランク不足で俺が依頼を受けられない事態になるとこだったぜ。
道路工事が終わったら毎日ひとつクエストをこなして冒険者ランクを上げないと……。
領主なのに低ランクなのはちょっと恥ずかしい。
「それにあの件はアンデッド化したケイロスたちが原因で依頼受付自体に問題が無かったというのが冒険者たちに浸透し始めたらしくて、徐々にコットンに依頼票を持ってくる冒険者が増えているから大凱旋はそれほど急ぎじゃなくていいみたいです」
もう涙で頬を濡らしているコットンさんはいなかったんだ。
そういうことならば、開拓を中心に据えてやるべきだな。
セージからの移民がクローブにやって来るとさらに忙しくなると思うし。
俺は今やれることをやるべきだ。
ということで、日没まで道路工事を続けることにした。
*
初日ということもあってみんな気合が入っていたのか1キロルほど道路工事が進んだ。
すごいな。
こんなに進むとは思わなかった。
俺がねぎらいの言葉を掛けようとする、逆にモニカがねぎらいの言葉を掛けてくる。
「みんな今日は頑張って疲れただろうから、帰りは私の翼に乗せてやるぞ」
「おー、ありがたいっす!」
で、モニカの翼に乗って今日の作業の結果を空から眺めてみた。
眼下に俺たちの作った道路が見える。
まだ始めたばかりで距離こそ短いが最初の一歩にしては頑張った。
「ごしゅじんさま、今日は結構な距離頑張りましたね」
「おおう、でもどこかがおかしくないか? どこと言われると困るんだけど、なにか違和感を感じる」
「おかしいですかね? あっ! 直線じゃなく少し曲がって変な方向に進んでますね」
「それか!」
俺たちの道路は目指すべき精霊石とは微妙に違う方向に進んでいた。
今日はまだ道路を作り始めてすぐなので訂正の効く誤差だが、これから進むにしたがって誤差はどんどん大きくなり目指すべき精霊石とは関係のない明後日の方向に進みそうだ。
「こりゃひどいっす」
『誰がこんなヘロヘロに道を作ったんだよ?』
「それは先頭で木を引っこ抜いていたモーちゃんだよ」
『私ガ原因ナノカ?』
半泣きになる竜姿のモニカを必死にみんな慰める。
「モニカさんは悪くないんよ」
「素人の工事だから駄目だったんす」
やっぱり道路工事を専門にやっている建築業者に頼まないと駄目なのかな?
目的地がわからないのが原因なんだろうけど、この距離で曲がってる道しか作れないようだと先が思いやられる。
アレンさんに聞くと道路工事に詳しい人を紹介してくれた。
この前、セージの村の住民の住居の建築で相談に行った建築工房のダイゴン工房長だ。
ダイゴン工房長は勝ち誇ったような顔をしてすぐに解決策を教えてくれた。
「これを使えばいい」
それは小さな箱のようなもので真っすぐな直線状の光が放たれている。
「魔道墨出し器だ。本来は棚なんかを作るときに傾かないように、水平な線を壁に照らし出すものなんだが、道路をまっすぐ作るのにも使えるな」
こんな便利なグッツがあるならもっと早く教えてくれればいいのに……。
これさえあれば道路工事なんて余裕だ。
そう思ったんだが思い通りには進まなかった。
「この魔道墨出し器で光が届くのはせいぜい30メトルまでだから、街道を作るのに使うのならばもっと大きい物を使わないと駄目だぞ。商業ギルドに行って相談すれば、兄ちゃんの言ってるような街道の道路工事に使えるような長距離対応の魔道墨出し器もあると思う。まずはギルドに行って相談だな」
俺はサテラの商業ギルドを訪れることにした。
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