新たなる辺境伯はまっすぐな道を作りたい
翌日、嫁たち全員でサテラを訪れた俺たち。
目的は商業ギルドなんだけど……。
「じゃあラーゼル、少し遊んでくるな」
着いた途端にモニカ、ビアンカ、ヒーラ、フェリの4人は別行動となった。
多分なにか食いに行ったんだと思う。
ついて来られても何の役に立たないどころかなにかやらかしそうなので別行動は大賛成だったりする。
別の所でなにかやらかしそうな気もするが、良識派兼突っ込み役のビアンカがいるので多分トラブルは未然に防いでくれるだろうから大丈夫だろう。
商業ギルドに着くと、ラネットさんとも別れることになった。
「じゃあ、新都市と精霊塔の建設計画を職員と詰めてくるので私もここでお別れだな。たぶん日没まで時間が掛かると思うので、他になにか用事があるなら先に済ませてから来て欲しい」
ラネットさんとも別れ、俺とメイミーだけになった。
メイミーはなんとなく嬉しそう。
「ごしゅじんさまと二人っきり! 今日は独り占めでデートなのです」
なんとなくどころかめちゃくちゃ喜んでいた。
ここまで好き好きオーラを放ちまくりのメイミー。
たまにはしっかりと二人の時間を持ってやらないとな。
「よし、仕事が済んだら二人でデートにでも行くか」
「デ、デートですか!」
「嫌か?」
「嫌なわけがあるわけないじゃないですか! やったー!」
突然のデートにニコニコと顔を綻ばせ俺に抱き着いてくるメイミーであった。
*
ギルドの受付で『魔道墨出し器』について聞いてみる。
すぐに年配の男性の職員がやって来た。
「担当のギルド職員のセルダンと申します。道路建設用の魔道墨出し器ですか。ではこちらへ」
受付奥のソファーテーブルに通された。
高額な商材の交渉なので、落ち着いた場所で商談をするようだ。
ギルド職員は資料を広げる。
「施工する距離によって色々とサイズがあるんですが、どのぐらいの距離をお考えなんでしょうか」
「30キロルぐらいかな?」
「30キロル? ずいぶんと長い道路ですね? 何の目的でそんな長距離の道路を作るんですか?」
「今開拓をしている街への街道を整備したいんですよ。できれば拠点の町から開拓街まで直線で街道を引きたいんですよね」
「山や渓谷のない平地でしたら一直線に道を作ることが出来ると思いますが、そのあたりは大丈夫でしょうか?」
たしかクローブから開拓街の建設予定地の近くまで山や谷や大きな川は無かった筈だ。
「大丈夫です」
「なるほど、そのあたりも考えて一直線で街道を引きたいのですね」
頷きながらなにかをメモしながら資料を調べるギルド職員。
「10キロルを超える距離の魔道墨出し器はこちらになるのですが、長距離用の魔道墨出し器は精霊石を魔力供給源と基準点として使います」
「基準点?とは」
「文字通り、街道の始点となる基準点です。その場所から墨出しの直線を引くということです」
「なるほど」
精霊石の置いてある開拓街まで道路を作るために使うのだから基準点が魔道墨出し器でも全く問題ない。
ギルド職員は精霊石の価格表を俺に見せながら話を進める。
「精霊石には色々とサイズがございまして、ビレッジ級以上の精霊石が有れば30キロルの墨出しは可能ですが、精度と安定性を考えるとタウン級以上は欲しいところなります。いかがでしょうか? 将来的に村から町への発展をお考えでしたら最初からタウン級の精霊石をご購入の方が精霊塔の建築を繰り返さずに済むので経済的です。墨出し器と一緒にご購入されますか?」
やたらに精霊石の売り込みをしてくるギルド職員。
まあ客へのサービスと売り上げアップでやってるんだろうけど俺は既に精霊石を持っているので買う気はない。
「精霊塔はまだ建設してないので地面に直置きですが既に入手済みです」
「そうなのですか。ちなみに精霊石のサイズはどれぐらいの物をお使いですか?」
「ポリス級です」
「えっ?」
俺からとんでもないサイズを聞いてギルド職員の思考が止まった。
聞き間違いだったとの結論に達したギルド職員の思考が再び動き始めると俺に聞き直す。
「なんとおっしゃいました?」
「エンパイア級に次ぐポリス級です」
「じょ、冗談ですよね? ポリス級といえばこのサテラの精霊石よりも大きいですよ?」
「ごしゅじんさまは嘘なんて言いません!」
職員に食い掛ろうとするメイミーを俺は必死に抑えた。
メイミーのあまりの勢いに職員は腰が引けてる。
「し、失礼しました」
職員は慌てて事務所の奥の倉庫へ行くと魔道具を取り出してきた。
60センタ角の四角い魔道具と、15センタの丸い魔道具だ。
「こちらの大きな方が長距離用の魔道墨出し器ですね。ポリス級の都市開発をするのならば一つは持っておいて損は無いと思います。設置も非常に簡単で精霊石の上に置くだけで済みます」
30キロルを照らす墨出し器なので5メトル角ぐらいのもっと大きなものになると思ったけど意外と小さい物なんだな。
クローブで見かけた魔道墨出し器とあんまり変わらないサイズだ。
最新の魔道技術は凄い。
「こちらの球状の丸い魔道具は『魔道ビーコン』です。魔道墨出し器を起動するとこの魔道ビーコンへ向けて一直線の光を放ちます。その光に沿って道を作ればまっすぐに作れますし、道以外都市建設にも使えますので大変重宝すると思います」
「じゃあ、これを貰おう」
「お値段が1000万ゴルダほどしますが、ローンに致しますか?」
「いや、ギルドカード払いでお願いします」
ギルドカードで精算する時に残高を見たんだろうけど悲鳴が上がっていた。
「な、なんだこの残高は! 盗難カードかもしれないのですぐに身元の照会をしてくれ」
「へ、辺境伯だと! しかも英雄なのか!」
担当が飛ぶように戻ってきた。
「大変お待たせしました。あなた様が辺境伯だとは知らず大変失礼いたしました。辺境伯様のお手を汚さずに済むように設置と調整に技術者を派遣しますのでお許しください」
こんな冴えないおっさん一歩手前の男が辺境伯と知ったので態度が急変。
米つきバッタのように頭を下げまくって俺をギルドから見送った。
ちなみに技術者は今からすぐに早馬車で向かわせるので明日の朝には設置作業が出来るそうだ。
ギルドを後にした俺にメイミーが心配そうに聞いてくる。
「ごしゅじんさま、ラネットさんと会う約束だったのでは?」
「あっ!」
ラネットさんの存在をすっかり忘れていた。
でも、あの職員の前に今すぐ戻るのもな。
今すぐ戻ったらクレームでも付けに戻って来たのかと思ってきっとショック死するぞ。
ここはメイミーとの約束のデートを先に済ませてしまおう。
俺たちは商業区へと向かった。
*
「ここの店ですか?」
アクセサリ店だ。
「おう。買い物デートは嫌か?」
「ものすごくうれしいです」
俺は指輪コーナーに行きメイミーに似合う指輪を見繕う。
メイミーが俺との関係に不安を持っているのは婚約の証となる物がないからだろう。
俺はメイミーに指輪という物理的な婚約の証を与えようと思ったのだ。
これならメイミーも喜んで受け取ってくれるし、俺との関係の不安もなくなることだろう。
俺はメイミーに似合いそうな指輪を選んだ。
赤や青の小粒の宝石の入った大人しめの指輪だ。
これなら家の中だけじゃなく、外でも付けて歩ける。
でもメイミーは俺の選んだ指輪ではなく、さらにシンプルな指輪に目が釘付けだ。
遠慮してそんな安そうな指輪を選ばなくていいのに……。
なんてしおらしい嫁なんだよ。
「その指輪が欲しいのか?」
「ご主人様の指輪とお揃いで素敵だなと」
「そういうことか。じゃあこの指輪を買うか。すいませんー!」
店員を呼ぶとすぐにやって来た。
「この指輪を下さい」
「この指輪ですか? 結構お高いのですが……よろしいですか?」
この指輪が高いって……冗談だろ?
どうみても2-3万ゴルダにしか見えないんだけど?
「いくらですか?」
「1000万ゴルダでございます」
「あひゃ!」
変な声が漏れた。
「この質素な指輪が1000万もするの?」
「この指輪は見た目はシンプルですが魔道具なのです」
俺が購入を断ろうとしたらメイミーが悲しそうな目で指輪を見つめていた。
そんな目をしないでくれよ。
でも俺はあえて店員に言う。
「そ、その指輪を下さい!」
メイミーが泣きそうになってるんだから断れるわけがないだろ。
おっちゃんは大奮発だ!
するとメイミーの顔に笑みが。
「ご、ごしゅじんさま……私幸せです」
なんてかわいい天使の微笑み。
この微笑みは1000万ゴルダの価値がある!
俺は指輪を買ったことを大満足だ。
指輪を嵌めて貰ったメイミーは頬ずりをしている。
「ごしゅじんさまと一緒の指輪なのです」
『幸運の指輪』
それがメイミーの手にした指輪の正体だった。
後にこの指輪が俺たちを助けてくれることになるとは、この時の俺は思ってもいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます