新たなる辺境伯の嫁たちの買い物

 ラーゼルと別れたモニカたちである。

 大きな街にやって来たので珍しい物を食べられそうなヒーラはやたらテンションが上がっていた。


「さあ、どこに食べに行くっす? この街はおいしそうなものが売っている屋台がいっぱいっす!」

「この街には食べ物を買いに来たんじゃないぞ」

「えっ? あの食欲だけが歩いているモニカさんが食べ物に興味がないんす? なにかの病気っすか?」

「おい!」


 ポカリ!


「あだっ!」


 ヒーラが頭を引っ叩かれて痛みにうずくまっていた。

 そりゃドラゴンに殴られたら痛いに決まっている。


「今日は物をスッと仕舞えるあれを買いに来たんだ」

「物をスッ?」

「なんなんよ? それ?」


 ヒーラとフェリは、なんのことだかわからず。

 ビアンカが答えを二人に教えた。


「アイテムボックスだよ」

「あー、ラーゼルさんがよく使ってる手から物を吸い込むあれっすね。でもそんな物を買ってどうするんす? あっ! わかったっす! アイテムボックスに食べ物を詰め込んでいつでも食べられるようにするんすね!」

「ちがーう!」

「違うんすか?」

「マンイーターのエサを詰め込みたいんだ。あいつ最近栄養失調で元気がないからな。いつでもモンスターを与えられるようにしたいんだ」


 毎朝ゴブリンを大量に与えてるのに栄養失調は無い。

 そう思うヒーラであった。


「あと、元気の素のマナゲインもアイテムバッグに沢山詰め込まないとな。そういえばビアンカは薬を作れたよな?」

「簡単な薬なら作れるよ」

「じゃあ、訓練をしてマナエーテルを作れるようになってくれ」


 もちろんマンイータに使うつもりだ。


「マナエーテルを作るのは大変だよ? 材料も高価なものが必要だし」

「材料は私が大量に用意するから心配しないでくれ」

「そこまで言ってくれるなら……まだスキルレベルが低くてマナエーテルは当分作れないけど、作れるように頑張ってみるよ」


 ということでアイテムボックスの指輪を買いにやって来たアクセサリ店。

 モニカは早速買うことにした。


「おっさん、アイテムボックスの指輪をくれ。金はある」


 大食いで手に入れた金貨袋を店員に見せつけるようにドンと置く。

 金貨袋を見た店員は顔を綻ばせた。


「どのぐらいの大きさのアイテムボックスがご入り用ですか?」

「大きさか。少なくともゴブリン100匹は入れたいな」

「ゴ、ゴブリン100匹ですか? それだけの大きさですと5000万ゴルダはしますぞ」

「高いな」

「魔道具ですから非常にお高いものでして。でも、この値段でも相場よりはかなりお安くなっていると思います」

「でもなー、さすがにそんな大金は持ってないし。500万ぐらいで買えるものは無いのか?」

「500万ゴルダですと、ゴブリン5匹ぐらいですね」

「五匹かよ。ずいぶんと少ないんだな」

「そう申されましても、みなさんが普通に使われているバケツ三杯ぐらいの容量のアイテムボックスと比べるとかなり大きい方ですよ」

「仕方ない、今は金が無いからそれをくれ」


 ということでモニカはアイテムボックスのリングを手に入れた。

 でも自分の指には嵌めず……。


「ビアンカ、これを使え」

「モーちゃんのお金で買ったのにいいの?」

「薬を作ったり、出来た薬をしまうのに要るだろ?」

「そっか。じゃあ、ありがたく使うね」

「うむ」


 店を出るモニカ一行。

 お腹を空かせたヒーラがモニカを店に誘う。

 もちろん目的地は料理屋だ。


「で、モニカさん。これから食べ歩きですよね?」

「いや、まずはお金を稼ぐ」

「さっき使った分を稼いで食べまくりするんすね」


 で、今度は冒険者ギルドにやって来た。

 『食事はあとだ』といいながらお腹を空かせた私のためにギルド酒場に来るモニカは優しいなと思いながらヒーラは酒場に飛び込む。


「ギルドの酒場はどこもメニューが似通っててあんまりおもしろくないっすね」

「おーい! ヒーラ、なんで酒場に居るんだよ。こっちにこーい!」

「えっ? 食べないんす?」

「まずは稼ぐんだ」


 全然モニカは優しくなかった。

 マンイーターのこととなるとやたら真面目になるモニカである。

 モニカは受付嬢に話しかけた。


「依頼を受けたい。ものすごくお金の稼げる依頼がいいな」


 かなり強引に依頼を紹介してもらおうとするモニカ。

 でも強引な冒険者には慣れている受付嬢は冷静に対処をしている。


「まずはギルド証を見せてください」

「これか?」


 モニカとビアンカはギルド証を出すが、最近仲間になったばかりのヒーラとフェリは持っているわけもない。


「Dランクですか。ギルド証を持っていないお二人はギルド登録からですね。まずはギルド証を作るために鑑定を行います」


 鑑定板を額に宛がわれる。

 表示を見て受付嬢のお姉さんは首を傾げる。


「あれ? 『ジョブ:ヒドラ』と『ジョブ:ヴァナルガンド』ってなんなんでしょう?」


 何度、鑑定板を額に当てても鑑定結果は同じ。

 鑑定板が壊れたんじゃないかと変えてみるけどやはり結果は同じ。

 こんなトラブルは初めての受付嬢はわけがわからない。


「モーちゃん、偽装、偽装!」

「あっ!」


 二人の首根っこを捕まえてギルドの壁側まで連れていく。


「お前たち、なんでステータスの偽装をしない?」

「偽装しないと駄目なん?」

「ダメに決まってるだろ! ヒドラやヴァナルガンドは種族名であって職業じゃない! 偽装しろ、偽装!」

「あ、すまなかったっす。ここは人間の街ですもんね」


 そう説教した元『ジョブ:ドラゴン』でラーゼルに怒られたことのあったモニカである。

 再びカウンターを訪れる二人。

 偽装したので準備は万端だ。


 再びステータスの測定を受ける。

 今度は職業欄に種族じゃなく職業が表示された。

 でも、またまた受付嬢が首を傾げた。


「あれ? まだジョブの欄がおかしいですね。『モニカの子分』と『ラーゼルさんの嫁』ってなんなんでしょう?」

「ちょっ! おま!」


 再び首根っこを掴みギルドの隅に。

 

「おい、バカ! お前ら真面目にやってるのかよ?」

「やってるっす。でも間違いじゃないですよね?」

「確かに間違いじゃないが、ここには冒険者としての職業を書くんだ」


 そう説教する元『職業:ラーゼルの嫁』のモニカであった。

 結局、全ての項目をビアンカが事細かに指定することになった。

 職業は二人とも『ジョブ:戦士』とし、ステータスはすべてビアンカと一緒だ。

 これなら問題ないはずだ。

 三度みたびカウンターを訪れる。


「職業は二人とも戦士ですね。やっと表示が普通になりました」


 で、ギルドカードを貰い、講習も受けて晴れてFランク冒険者デビューだ。

 ちなみに初心者講習では戦士の『剣と盾の使い方』の講習があったが担当教官のダールが一撃もヒーラとフェリに攻撃を入れられなくて泣いていた。

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