後の領主、移民の住居を考える
ギルドでバルトさんと出会ってしまったせいで、試験の日取りが大幅に早まってしまった。
それまでに猛特訓してレベルを少しでも上げようかと思ったんだけどラネットさんに止められた。
「慌てて訓練しても疲れていい結果は残せないわ」
確かに疲れが残っていたら実力を出し切ることが出来ず、いい結果は望めない。
「それにダンジョンで迷って試験の時間までに戻れない可能性もあるわね」
俺たちがダンジョンを結構な勢いで攻略できたのはダンジョンの難易度のランクが低かったっていうのが大きい。
難易度が低いダンジョンに入ったつもりがとんでもなく強いマンイーターで、出るまでに3日も掛かったら試験に遅れてシャレにならない。
ここはゆっくりと身体を休ませて試験を受ける。
そして試験に合格した後にコットンさんの大凱旋の続きをすればいい。
俺はみんなを連れてアルティヌス領に戻ることにした。
*
「戻って来たぜ、アルティヌス領」
別に実家というわけじゃないんだけど屋敷に戻ってアレンさんとボダニカルさんの顔を見るとなんかホッとするね。
サテラの宿屋でマーリーさんの笑顔を見てホッとする感じに似ている。
モニカはヒドラを出してくれと俺にせがむ。
さっきギルドの酒場で食ったばかりなのにもう腹が減ったのかよ。
「食い散らかして毒を撒き散らすんじゃないぞ」
「大丈夫だ、まかせろ」
ヒドラを頭の上に担ぐと、ビアンカと一緒に森の中へと消えていった。
さてと、俺もやれることを始めるかな。
まずは移民たちの住居をどうにかしないとな。
アルティヌス領の領主でありクローブの町長でもあるアレンさんに相談だ。
セージの町で起こったことを報告し、住民を移民させることとなった経緯を話す。
「次の領主は君なんだから好きにやってくれ。助けがいるなら相談に乗るぞ」
「ではお願いなのですが、クローブの住人たちに移民がやってくることを伝えて欲しいのです」
「いきなり来たらびっくりするだろうからな。住民には私から説明しておく。あと食料の備蓄も増やしておいた方がいいな。手続きは任せてくれ」
事務仕事だとやたら頼りになるアレンさんである。
次は仮設住宅の建設地の相談だ。
「セージからの移民は精霊石のある魔の森奥の中央都市に住んでもらう予定なんですが、街の建設が終わるまで仮設住宅をクローブに建てたいと思うのですがいいですか?」
「森側ならなにに使ってもいいと思うよ。どうせ誰も近寄らないだろうし」
アレンさんは広げた地図を指さした。
クローブに隣接している森で平地だ。
仮設住宅の建設にはうってつけの場所である。
「この辺りなら文句を言う者もいないと思う」
「では、そこを仮設住宅地にします」
土地の確保は出来た。
明日は仮設住宅の建設の依頼をしないとな。
*
夕飯をとりながらラネットさんと明日の予定の打ち合わせをしていると、モニカが綺麗なお姉さんを連れてやって来た。
誰なの?
このお姉さん。
やたらお胸がバインバインなうえに、やたらエッチい衣装を着ていて目の毒なんだけど?
「ラーゼル、お前の新しい嫁を連れてきたぞ!」
「なっ! 嫁?」
メイミーは狼狽えた。
新しい嫁の出現というあまりのショックなイベントの発生に『バキン!』と両手で持ったティーカップを割ってしまうメイミーだった。
俺もビックリだわ。
なんで初対面のこんな綺麗な人が嫁になるのかがわからない。
「誰だよ、その女の人は?」
「お前の嫁になりたいそうだ」
「名前は?」
「ヒドラ、いやヒーラっす! お願いっす、ラーゼルさん! お嫁さんにしてくださいっす!」
横に座っていたメイミーが俺のズボンをぎゅっと握ってくる。
その震える手からメイミーの言いたいことがわかる。
『私を捨てないで』
俺がメイミーを捨てるわけがない。
もちろんキッパリと断った。
『新しい嫁はもうとらない』
だがな、敵はただ者じゃなかった。
敵はあり得ないぐらいに柔らかいものを押し付けてくる。
人生史上最高のふわっふわだ。
「私じゃダメっすか?」
「ダメっていうか……」
やばい!
この柔らかさはなんという魅了効果だ!
男を惑わすふわっふわな魔道具の前では俺の決意なぞ無いに等しく無力!
俺の決意は一瞬で打ち砕かれた。
だが、その時。
『ポタリ……』
メイミーの目から零れた涙が割れたカップを打つ音が聞こえた。
俺は一瞬で魅了が解け正気に戻った。
優柔不断のせいでまたしてもメイミーに涙を流させてしまった。
なんていうクズ野郎なんだ!
俺はキッパリと断った。
「すまない。君は魅力的だと思うが嫁をこれ以上増やす気はないんだ」
すると、お姉さんはボロ泣きをし始める。
いや、ボロ泣きというよりも激泣き。
目から滝のように涙を流す。
「それは困るっす! ラーゼルさんと結婚しないと死なないといけないんす」
どういうこと?
結婚できないと死ぬって……わけがわからないんだけど?
俺と結婚出来なければ生きていても仕方ないから命を絶つってことなのか?
そこまで俺が好きって意味?
でも、このお姉さんと会ったこともないんだけど?
「なんで結婚出来ないと死なないとならないんだよ?」
「エサにされるっす。マンイーターのエサっす」
マンイーター?
その言葉に心当たりのある奴が一人いる。
モニカだ。
見るとこそこそと後ずさりして逃げようとしていた。
「モニカ!」
「ひっ!」
「マンイーターって、お前また何かやらかしているのか?」
「なにも悪いことはしてないから!」
「お姉さんをマンイーターのエサにすることは
人間をエサにするって……さすがはドラゴン。
人間とは考えることが違う。
俺はモニカを仲間と思っていたが、モニカは人間を仲間とは思ってないらしい。
モニカは人間と敵対する意思を示している。
ドラゴンを信じた俺がバカだった。
モニカは悪あがきでわけのわからないことを言い始める。
「そいつは人間じゃない。だからエサにするのは悪いことじゃないんだ」
「このお姉さんのどこが人間じゃないと言うんだよ? どこからどこを見ても人間だろうが!」
俺がモニカを怒鳴りつけると、お姉さんが遠慮がちに……。
「私、ヒドラっす」
ヒドラ?
「見ててくださいっす」
お姉さんは窓から外に出ると、ヒドラとなった。
えっ?
さっきまで人間のお姉さんだったのにどうなってるんだ?
「ヒドラは私の一存で殺すのを止めたんだ。人化も覚えさせた。もう悪いことは絶対にさせない」
「悪いことはしないと約束するっす!」
「だから頼む! ラーゼルの嫁にしてくれ!」
二人して頭を下げられた。
「こいつを逃がして野に放つわけにもいかないから、ラーゼルが結婚してくれないのならばこいつをマンイーターのエサにするしかないんだ」
小さな声が聞こえてきた。
「いいよ」
メイミーだった。
「また嫁を増やしていいのかよ?」
「結婚を断れば命を奪うこととなるのならば嫌とは言えないです」
メイミーらしい答えだった。
そんな優しい答えを導き出すメイミーが好きだ。
メイミーは俺の目を見つめる。
「ただし、お願いがあります」
「お願い?」
「私のことを今まで以上に愛してください」
「約束する」
「ありがとうございます、ご主人様!」
こうして俺は新たなる嫁を貰い、さらにその夜俺はメイミーとの愛を深めた。
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