後の英雄、初老の紳士の計画を知る

 ダンジョン攻略を一瞬で済ませたことは凄いことだ。

 素材も一瞬で手に入り、金策効率も半端ない。

 でも……。

 これが俺のレベル上限を上げるのに何か関係があるんだろうか?

 それを聞いてみるとバルトさんは笑う。


「出るんですよ」

「出る?」

「レベル上限突破の魔道具が」

「そんなものがあるんですか?」

「ええ、手に入れたことがありますので間違いありません」


 そんなものがこの世の中に存在していたんだ。

 信じられない。


「それさえ手に入れられればラーゼル君のレベル上限を上げることが出来ます」

「それはすごい!」

「ただ、私には使えない代物でした」

「使えない?」

「ええ、全く使えませんでした」


 バルトさんは金庫の中から一つの指輪を取り出した。

 小さな宝石が埋め込まれたシンプルな指輪だ。


「これは『レベルリミットブレーカー』と呼ばれるレベル限界を突破する魔道具です。経験値の限界を突破するために経験値をにえとして必要とするのですが、限界を1レベル突破するのにそれまでの成長に必要だった経験値と同じ量の経験値を必要とするのです」


 バルトさんが言うにはレベル上限を1レベル上げるには、いままで稼いだ経験値と同値の経験値を必要するという。

 

 例えば、1レベルアップごとに100ずつレベルアップの必要経験値が上がるとする。

 レベル1→2 100

 レベル2→3 200

 レベル3→4 300

 レベル4→5 400


 レベル1→5のレベルアップの必要経験値は合計1000だ。

 ここでレベル上限が5だったとしよう。

 レベル上限を5→6に上げるとすると1000の経験値が必要となる。

 まだレベル5なので1000で済むが、これがレベル35だとかで考えて欲しい。


 この例でいうのならば

 レベル1→2 100

 レベル2→3 200

 レベル3→4 300

 レベル4→5 400

 :

 :

 :

 レベル33→34 3300

 レベル34→35 3400

 レベル36への限界突破の必要経験値は59500。


 実際にはこんなにフラットな感じに次のレベルへの必要経験値が上がるわけじゃない。


(レベル0→1 100)

 レベル1→2 100

 レベル2→3 200

 レベル3→4 300

 レベル4→5 500

 レベル5→6 800

 レベル6→7 1300

 レベル7→8 2100

 レベル8→9 3400

 レベル9→10 5500

 レベル10→11 8900

 レベル11→12 14400

 レベル12→13 23300

 レベル13→14 37700

 レベル14→15 61000

 次のレベルへの必要経験値 = 前レベルの必要経験値 + 前々レベルの必要経験値


実際にはこんな感じで急激に増えていくので限界突破の必要経験値はさらに莫大な量が必要だ。

噂ではある程度必要経験値が増えるとそれ以上必要経験値が増えなくなるらしいが、実際に自分で見たことじゃないので本当かどうかはわからない。


「ラーゼル君も気づいたようですね。レベル上限突破に莫大な経験値が必要なことに」

「ええ。これは大変ですね」

「でも、経験値100倍のスキルを持つラーゼル君なら、この経験値を稼ぐのも容易いことでは?」


 そうだ、そうだった!

 俺は経験値100倍スキル持ちだ。

 このぐらいの経験値を稼ぐのは容易いこと。

 俺なら出来る!

 出来るはずだ!

 目の前にあるこの指輪を使わせてもらえば……俺が長年悩み続けたレベル15の上限の呪いともおさらばだ!


「その指輪を貸してもらえませんか?」

「これはお貸しできません」


 なんでなんだよ?

 それさえあれば俺のレベル上限が上がるというのに!

 契約の護符に俺のレベル上限上げをしてくれるって約束してくれたじゃないか!


「実はこの指輪、『一代継承』の属性付きなのです」

「一代継承?」

「レジェンダリー級のレアアイテムによくある属性なのですが、最初に手に入れた者にしか効果が現れず譲ることも出来ないのです」


 マジか?

 目の前に俺の長年の苦しみから解放してくれるアイテムがあるというのに使えないだと?

 なんという生殺しプレイ。

 一代継承なんて属性は初めて知った。

 そんな属性もあるんだな。

 レアアイテムと無縁な生活をしている俺には知らぬ世界であった。

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