後の英雄、ダンジョンの宝箱について知る

「悲観されなくともいい。そろそろ新しい宝箱が復活した頃ですよ」


 あれから3分ぐらいしか経ってないのにもう宝箱が復活しているだと?

 ダンジョンの宝箱はすぐには復活しないはずなんだけど、ずいぶんと早いな。

 仕組みはわからないがダンジョンの宝箱は開けると消え、時間が経つと再び現れる。

 ダンジョンの宝箱の再出現リポップは冒険者の一般常識。

 でも開けられた宝箱が復活するのはよくよく考えると不思議なものである。

 俺も宝箱のリポップの現場に何度か出くわしたことがある。

 誰かが中身を補充しているわけじゃない。

 霧が集まって宝箱を形作るのだ。

 ダンジョンの宝箱って再生するまでに一週間ぐらい掛かるものと思ってたんだけど、そんな短時間で再生するものなのか?

 俺の疑問に関してバルトさんは答えを教えてくれた。


「ダンジョンボスを倒してしまうとダンジョンのあるじが不在となり宝箱のリポップまで時間が掛かります。でもボスを倒さなければすぐにリポップするのです」


 バルトさんは「あくまでも持論ですが」と前置きの上、説明を始める。

 宝箱とは冒険者をダンジョン誘い込んで喰らうための撒き餌とのこと。

 冒険者を引き寄せる餌が無くなったことに気が付いたダンジョンが新しい餌を補充するらしい。

 そう考えるとダンジョンは一つの大きな生物なのかもしれない。

 なるほどね。

 長年の疑問がとけてスッキリ。

 俺たちは光に包まれて再びダンジョンへと向かう。


「どうです?」


 バルトさんのいったように新しい宝箱が現れていた。


「では開けましょう」


 今回は残念なことに両方とも素材だった。

 金貨20枚の価値のミスリルインゴットと金貨30枚の魔晶石だ。

 金策として考えるのならば大当たりだが俺が求めるのはお金じゃない。

 あくまでも俺が欲しいのはレベルリミットブレーカーの魔道具。

 レベル上限の呪いを解きたい!

 だが、なかなか目的の魔道具は出なかった。

 あまりの魔道具の出なさに俺は心配になるが、逆にバルトさんは段々と表情が明るく。

 なんでそんなに笑っていられるんだろう?

 20周目にしてやっと当たりの指輪が出た。


「素材が続くのでそろそろ出るとは思ってたんですが、これは大当たりですね」

「大当たり?」


 レベルリミットブレーカーはプラチナのような銀色の指輪だけど、これは金色に近い色の指輪だ。

 埋められている宝石のサイズは小ぶりで似た感じだけど色が違う。

 デザインも違う。

 レアアイテムに疎い俺が見てもレベルリミットブレーカーと違うのがわかるレベルだ。


「この指輪はレベルリミットブレーカーじゃないですよね? それなのに当たりなんですか?」

「おっしゃる通り、これはレベルリミットブレーカーではありません。『ステートプッシャー』と呼ばれるレア魔道具です。今回の計画に必要な魔道具です」

「どんな効果なんですか?」

「主にバッドステータスを外部に強制的に押し付ける魔道具です」


・『ステートプッシャー』

 自身に掛けられた悪い効果の状態異常を敵に移し替える指輪。

 移し替えるのは悪い効果だけで、いい効果は移せない。


 自分の喰らった毒状態や暗闇状態などのステータス異常を敵に押し付ける魔道具とのこと。

 使い方によっては凶悪な効果をもたらす。

 通常は悪効果を付けられないような状態異常耐性の高い敵に対しても耐性を無視して悪い効果押し付けられるのだ。


 その後は魔道具が出始めるけど目的のレベルリミットブレーカーはなかなか出ず。

 さすがは伝説級レジェンダリーの魔道具。

 ダンジョンの宝箱から掘り起こすのは結構大変なのかもしれない。

 この調子だと、数か月ダンジョンに潜り続けても出ないんじゃないかと不安になる。

 でも大丈夫だ。

 バルトさんは取り乱す様子もなく落ち着き払っているからな。


「ボスドロップではなくボス前部屋の宝箱のドロップですからね。いつもこんなものですよ」


 運気が変わり始めたのは『幸運の指輪』が出てからだ。


 ・『幸運の指輪』

  運気が上昇する。

  効果は元のLUK値の10倍。

  宝箱の中身にも影響する。


「その指輪を嵌めてみてください。これでやっとレアアイテム掘りのスタート地点に立てますよ」


 バルトさんはホッとしたように笑顔を浮かべた。

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