後の領主、嫁におねだりをされる。

 アルティヌス領魔の森『スターカー・ワルド』。

 そこにはつい先ほどまでサテラの草原にいた少女たちがいた。

 モニカとビアンカだ。

 モニカが竜となり空をかけてやってきたのだ。

 3匹のアンデッドをマンイーターの口の中に放り込む。


『やめろ! なにをするつもりだ!』

『ケイロスさん、こいつは俺たちを餌にしようとしてますよ』

『なんだと! やめろ! 止めるんだ!』


 そんなアンデッドたちの声は完全無視だ!


「今度のは強いから、少しはおいしいぞ!」

「モーちゃん、アンデッドなんて食べさせて大丈夫なの? 腐ってるからお腹壊すよ」

「経験値さえあれば、きっとおいしいから大丈夫だ」

「なんでそんなに自信ありげなの? それ、根拠なんてないのに言ってるよね?」


 モニカは入り口にへばりついて食われるのを嫌がるケイロスたちの背中を蹴り飛ばし、マンイーターの口の中に放り込む。

 ケイロスもマンイーターも中で大暴れだ。

 辺りが地震のように揺れている。


「強すぎたんじゃない? マンイーターが死んじゃうよ?」

「それならば、とっておきのものを!」


 モニカは懐から薬を取り出した。

 いつものマナゲインとは違う薬だ。


「これなに?」

「マナエーテルだ。ラーゼルに食べ過ぎでお腹が痛いといってもらって来た」

「おなかが痛いのにマナエーテルは効かないから!」


 てきとう過ぎるモニカの言い訳だった。

 そのてきとうな言い訳でモニカに貴重なマナエーテルを与えるラーゼルもラーゼルである。


「これをじゃぶじゃぶ飲ませると元気になるぞ! さあ、マンイーターよ、スケルトンを呼び出しまくってアンデッドを倒すんだ!」

「それにこんなもの使って大丈夫なの? またスケルトンがいっぱい沸いて外まで出てきちゃうよ?」


 以前モニカがマンイーターの中でマナエーテルをぶちまけたことでスケルトン軍団が沸きまくり死にそうになったことがある。

 無茶な行動に振り回され続けるビアンカであった。

 モニカはそんなビアンカの心配も知らず、自信たっぷりに語る。


「大丈夫だ。このマンイーターは私の言うことを聞いてくれる。MPたっぷりでも外にあふれるほどスケルトンを呼び出さないようにちゃんと言い聞かせておく」

「言うこと聞くっていうけど、喋れないし全然反応しないんだけど?」

「心配するな、心で繋がっているんだ」


 根拠のないことを言うモニカに、魔の森がスケルトンで溢れかえらないか気が気でないビアンカであった。


 *


 翌朝になってもマンイーターとケイロスたちの戦いは続いていた。


「なかなかしぶといけど、大丈夫なのかな?」

「うちの子が負けるはずがない」


 モニカはマンイーターを撫でる。

 

『ブルンブルンブルン』

 

 心なしか喜んでいるように見えるけど、それはケイロスたちとの激しい戦いでマンイーターが暴れているからだろう。

 モニカは新しいマナエーテルを飲ませる。


「よしよし、元気になったか。がんばってるなー。もっと強くなるんだぞ」

『ブルン』


 マンイーターが頷いたように思えたモニカである。

 結局、ケイロスたちを消化するのにその日の夕方まで掛かった。

 

 *


 メイミーがアンデッドジェネラルのケイロスを倒した翌日。

 ラネットさんとメイミーと一緒に宿の食堂で食事をとっていた。

 宿はいつものママリアさんの宿。

 ラネットさんは少し高級目の部屋で、俺とメイミーで一部屋、モニカとビアンカで一部屋だ。

 俺の部屋は冒険者を始めてからつい最近まで使い込んだ俺専用の部屋と化しているシングルルームだけど、他の3人はダブルの部屋なのでそれほど狭苦しくは感じないはず。

 モニカとビアンカの姿が見えないのでラネットさんに聞かれた。


「ところでモニカとビアンカはどこに行ったのか知っていますか?」

「さあ? いつもなら呼ばなくても朝ごはんを食べに来るんですけどね」


 と思ったら、遅れてやってきてご飯を食べまくり。


「遅れてどうしたんだ?」

「朝の散歩に行ってきた」


 散歩か。

 いつもはギリギリまで寝てるのにな。

 珍しいこともあるもんだ。


「ラネットさん、今日はどうします?」

「とりあえず未帰還問題はこれで解決かな?」


 コットンさんの五連続未帰還の原因となった魔物は倒された。

 これで未帰還はコットンさんのミスではないことは証明された。

 ラネットさんも後輩の悪評を払拭できたので満足のようだ。


「では、俺たちもランク上げに戻りますか」

「そうですね。レベル上げをしましょう。でも、まだコットンの問題は終わっていないわね」

「どういうことですか?」


 ケイロスを倒した時点ですべて終わりなんじゃないの?


「コットンの評判を下げていた原因は取り去ったわ。でもコットンの評判は地に落ちたままなのよね。元の評価に戻るまで私たちが手助けしてあげるしかないと思うの」

「それは前に言っていた大凱旋をするんですか?」

「そうです。ただ、今のままではモニカがランク差でBランク依頼を受けれないので、しばらくはランク上げに注力します」


 *


 モニカがどうしても欲しいものがあるという。


「ラーゼル、お願いだ。装備を買って欲しい」

「武器が欲しいのか?」

「いや、指輪だ」

「指輪?」

「結婚指輪か?」

「ちがーう!」


 装備の指輪でした。

 最初に言ってたよね……装備が欲しいって。

 結婚指輪じゃないのは考えればわかることだった。

 ごめん。

 でもさ、正直モニカのステータスなら指輪なんて要らないと思うんだけどな。

 それ以上強くなってどうするんだという。


「ラーゼルの持っている、アイテムボックスの指輪がどうしても欲しい」

「なにに使うんだよ? 物運びなら俺が運んでやるぞ」

「いや、私も運びたいんだ。パ、パーティーの役に立つだろ?」


 確かにモニカの言うように俺以外のメンバーもアイテムボックスを使えた方がいい。

 でも、目が泳ぎまくって吹けない口笛を吹いているモニカの態度を見ているとなにか裏がありそうだ。

 そこにビアンカが割り込んできた。


「本当はモーちゃんじゃなくて私が欲しいんです。お願いです、ラーゼルさん」

「そうなのか?」

「使うのは私じゃないんだ。私だとMPが足りないからな」


 いや、十分あるだろ。

 前にステータスを調べた時にMPが200はあったはずだぞ。

 それだけあれば十分使えるはずだ。

 でもなんだ。

 少し引っかかることはあるけど、自分からパーティーの役に立ちたいといってきたビアンカたちを無下むげに断ることはしない。

 値段は高そうだけど、なんとかしてやりたい。


「わかった。今すぐには買えないと思うけど、なるべく早めに渡せるように検討したい」


 それを聞いたモニカは大喜びだ。


「聞いたかビアンカ! これでモンスターを運ぶのに苦労しないぞ」

「やったねっ!」

「モンスター?」

「いや、なんでもない」


 実は……。

 モニカはパーティのためにアイテムボックスの指輪を欲しがったのではない。

 マンイーターの餌やりのためにケイロスたちを運んだ時、暴れて逃げられそうになった。

 その時、墜落しそうになったので、ビアンカの提案でアイテムボックスを使いモンスターを運ぶことにしたのだ。

 これでますますマンイータの育成がはかどってしまうことになるが、俺が知るのはずっと先のことだった。

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