後の領主、過去の遺恨と戦う

 目の前にはアンデッド化したケイロスとガダリとベングがいた。

 かつて俺をめて殺そうとした犯罪者パーティーのメンバーたちだ。

 ラネットさんも心当たりがあったようだ。


「ラーゼルさんを回収した後に、ケイロスたちの死体を探しに行ったんですけど見つからないのでモンスターにでも食べられたのかと思ってたら、アンデッド化してたのね」

『ラーゼルーッ! テメーだけは許さねえ、許さねえ! 許さねえ!』


 ラネットさんを完全無視で俺だけを襲ってくる。

 アンデッドなのに生前よりも剣技の切れが増している。

 しかも一発一発の攻撃がやたら重い。

 アンデッドなので理性のタガが外れ身体が壊れようがお構いなしに攻撃してるようだ。


「どうやら、ラーゼルさんに殺された激しい恨みでアンデッド化したみたいですね」


 いや、退治したのはアリエスさんで俺はケイロスなんて殺してない。

 多分、ケイロスは誰に殺されたのかもわかってないみたいだ。

 あの時はやられ放題だったのでむしろこっちが恨みたいぐらいだぜ。

 そんなのとばっちりでしかない。


「ここは私に任せて!」


 ラネットさんはケイロスの剣撃をぬって斬りかかる。

 ラネットさんの速さを乗せた攻撃だ。

 ケイロスは頭から真っ二つにされる。

 そして動かなくなった。

 ラネットさん強いな。


「やりましたね」

「アンデッドは頭が弱点です。破壊すれば動かなくなります」


 でも……。

 ケイロスはすぐに立ち上がる。

 頭を真っ二つにされたままで……。

 冗談だろ?

 全然やれてなかった。

 すぐに傷口が繋ぎ合わさり、なにごともなかったかのように復活する。

 なにこの超回復!

 なにこの無敵状態!

 ありえねえ!

 俺も切り刻んでみるが細切れになった身体はすぐに繋ぎ合わさり即復活だ。


『アンデッドジェネラルとなった俺は何度も復活できる! すなわち無敵! 永遠の命を手に入れた俺はお前なぞ敵ではない!』


 大きな口を叩く割には俺に細切れにされまくってるんだけど。

 しかも俺に攻撃がかすりもしない。


『ラーゼル、てめえだけは許せぬ、許せぬ! 許せぬうううう!』


 俺は奴を細切れ肉にする。

 切りつけるたびに腐臭がするので鼻が曲がりそう。

 腐ったお肉はなんど倒しても即復活だ。


「アンデッドになるものは無念が原因となるが、ラーゼルにここまで執着するとは相当なもんだな」


 ケイロスがアンデッド化したのって俺のせいなの?

 奴とはあのパーティーが初対面で、そこまで恨まれる原因とかないと思うんだけど?

 でも俺が恨まれているのならば俺が決着をつけないといけないんだろうな。

 仕方ない。

 俺はアンデッド化したケイロスに戦いを挑んだ。

 ケイロスにとどめを刺すべく襲い掛かる。

 奴は仲間を盾にして俺の攻撃を避ける。


『ぐはっ! ケイロス様』

『酷いっす!』

『黙れ! 眷属けんぞく分際ぶんざいわめくな! あるじを守れたことに感謝しろ!』


 ガタリとベングは眷属にされていた。

 眷属とは従者というかサビアみたいなもんだ。

 二人はケイロスの力により復活したんだろう。

 行動もすべて自分の意思に反してケイロスの思うままだ。

 二人に同情したくなる。

 ちょっとだけだけどな。


 ケイロスは隙を見せた俺を攻撃してくる。

 ぬかった!

 俺はケイロスに袈裟切りにされて……。


「あれ? キレてない!」


 怪我どころか切り傷もついてない。

 なんだこりゃ?


「ラーゼルさんが強くなり過ぎたんですね」


 アンデッドジェネラルと言えばBランク冒険者パーティーでも手を焼く強敵だ。

 Aランク冒険者の獲物といっていい。

 そのアンデッドジェネラルの攻撃を食らって無傷って俺すごくね?

 ケイロスは俺に大ぶりな攻撃を放ち続ける。

 でも俺は涼しい顔。

 ケイロスの顔に怒りが浮かんだ。


『ラーゼルのくせに生意気だ!』


 メンタルを崩壊させちゃったみたいで子どもの喧嘩の悪口みたいな情けないセリフ。

 俺はお返しに細切れにしてやった。

 ケイロスは起き上がると同時に顔に笑いを浮かべた。


『本気を出さないと駄目なようだな。食らえ必殺技だ!』


 いや、今まで本気じゃなかったの?

 あんなに細切れにされてるならもっと早く本気出せよ。


『眷属召喚!』


 大量のモンスターを呼び出した。

 もしかしてアンデッド系のモンスターの大量発生ってケイロスのせいだったの?

 でも呼び出したのはアンデッドワーム。

 なんでこんな雑魚を呼び出すんだ?

 呼び出すならマンイーターのスケルトンの強い方ぐらいの敵を呼び出して欲しい。

 眷属はラネットさん一人で片付けてしまった。


『俺のとって置きの必殺技が効かぬだと?』


 ケイロスは思ったよりも雑魚だったようだ。

 ラネットさんもあきれ返る。


「こいつは倒しても際限なく復活するし、恨みを晴らさせて浄化させるしかないんじゃないでしょうか?」

「恨みを晴らさせるってどうすればいいんです?」

「ラーゼルさんに勝てれば満足して浄化出来るかもしれないわね」


 まあ、俺がボコボコにやられてもハイパーポーションを飲めばどうにかなるだろう。


 俺はケイロスの前に座る。


「煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

『いい覚悟だな、ラーゼルゥゥ!』


 ケイロスはありったけの攻撃を俺に叩きこむ。

 でも無傷!

 こいつは弱すぎる!

 でもここは演技だ。

 奴が満足すれば浄化する。


「ごめん・なさい」

「ゆるして・ください」

「もう・しません」


 俺の迫真の演技の棒読みにだまされたのか、ケイロスは上機嫌だ。


『ふははは! 俺の恨みはこんなものじゃない! お前だけは許せぬ!』


 完全にマウントを取ったと思ったケイロスの口が軽くなる。

 言っちゃいけない事もカミングアウトし始めた。


『俺は冒険者じゃない。隣国グレステイアの士官候補生だ!』

「グレスティアの士官だと?」


 ラネットさんの眼光が強まる。


『俺はこの国の冒険者のもつレアスキルを強奪に来たんだ! 俺の『スキルテイカー』の能力でな。ラーゼルの『経験値100倍スキル』を持ち帰れば士官となれるはずだった……なのに、なのに、許せん!』


 さらに続けるケイロス。


『お前を探しに初心者の篭もるダンジョンを探しまくっていたのに、どこに逃げ隠れしていたんだ! こんなに手間をかけさせたお前は絶対にタダではすませない!』


 ケイロスが俺を恨んでいる理由がわかったけど完全に逆恨みじゃないか。

 俺は演技をしまくりケイロスの溜飲りゅういんを必死に下げる。

 だがケイロスの恨みは相当根深いようで簡単には消えそうもない。

 俺は小声でラネットさんにつぶやく。


「相当しつこい恨みで土下座ぐらいじゃ満足してくれそうもないんですが」

「神聖魔法で浄化するしかないわね? 神殿の高司祭ならアンデッドジェネラルを浄化できるかもしれないわ。呼んでくるまで持ちこたえられますか?」

「大丈夫です」


 というか、ノーダメージなので一晩は間違いなく余裕です。

 たぶん一週間ぐらい熟睡していても問題なさそう。


「じゃあ、急いで呼んでくるからそれまで耐えきって下さいね」


 ラネットさんが高司祭を呼んでくるまで、ケイロスの怒りを治めるか。

 バッチバチに俺を殴りまくる三人組。

 俺は必死に懇願の演技を続ける。


「ごめんなさい」

「ゆるしてください」

「もうしません」

「それ以上やられたら死んでしまいます」


 そこに女の人の声が……。


「ご、ごじゅじんさまになにをしてるんですか?」


 ベランさんに連れられたメイミーとコットンさんとモニカだった。

 俺がやられているのを見たメイミーの怒りは頂点に達し『ゴゴゴゴゴ!』と地鳴りのような恐ろしい魔力の凝集音が聞こえる。


「メ、メイミーさん? なにをしようとしてるんですか?」


 これはマズいんじゃないか?

 巻き添えを食らったら俺でも大ケガしそうだ。

 俺は必死に逃げ出した。

 そしてメイミーの魔力が解放された!


『ズワッシュ!』


 あり得ないぐらいの太さの裁きの矢!


 『ゴッデスホーリーアロー』。


 辺り一面が聖なる光で真っ白になる。

 すべてを浄化し吹き飛ばした。

 ケイロスは塵も残さず浄化された。


 俺にかけよるメイミー。


「ごしゅじんさまー!」

「おう、助かった」


 本当にしつこい敵だったからな。

 とどめを刺してくれて助かった。


「お怪我はありませんか?」

「メイミーが来てくれたので無事だ」

「よかったです!」


 メイミーは俺の胸の中で泣き続けた。


 *


 その夜、闇の中で蠢くものがいた。


『許さぬ! 許さぬ! 許さぬぞラーゼル!』


 メイミーのゴッデスホーリーアローの直撃を食らい残渣ざんさとなったケイロス。

 眷属たちも吹き飛ばされ浄化されてしまった。

 だが、ケイロスはダンジョンから逃げ出しごくわずかな魔力で思念をギリギリ保っていた。


 もうあきらめるか……。


 そう思うがラーゼルのことを思い出すとはらわたが煮えくり返り、魔力の大量回復を起こす。

 ケイロスは手に入れた魔力で新たな身体と力を手に入れる。

 力は元の力の数倍に強化されていた。

 すかさずガダリとベングの眷属を召喚する。

 その姿は筋骨隆々。

 やはり眷属も大幅にパワーアップしていた。 


『フハハハハハ! 俺はラーゼルを倒すまで何度でも復活する! さあ、ラーゼルのとどめを刺しに行くぞ!』

『へい!』


 そこに二人の少女が現れた。

 なんでこんな場所にこんな時間に?と思う、ケイロス。


「この辺りに昼間の強そうなのがいそうなんだけどなー」

「モーちゃん、危ないことは止めようよ」

「いや、やめない。昼間見たアンデッドが大幅パワーアップして復活してるはずだ」


 それを見てほくそ笑むケイロス。


「ちょうどいいにえが現れた」


 この少女を食らい更なる進化を遂げよう。

 そう思ったんだが……。


「みっけ!」

『えっ?』


 ケイロスたちは少女に首根っこを物凄い力で掴まれ捕まってしまった。

 その後、魔の森に棲むマンイーターの腹の中に収まることも知らずに……。

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