後の領主、サテラの冒険者ギルドに戻る

 毒で満たされた貯水池に応急処置を施すことにした。

 このままでは毒が広がってしまうので放置はできない。

 そこで貯水池の毒水をアイテムボックスの中に取り込み海に捨ててこようと考えた。

 俺のアイテムボックスの容量はかなり増えてる。

 かなりの毒水が入るはずだ。

 どのぐらい取り込めるかやってみないとわからないが、やるしかない。

 一度では無理だろうが2~30往復もすれば貯水池を空にできるんじゃないだろうか?

 早速、アイテムボックスに貯水池の水を取り込んでみた。

 直径100メトルぐらいの貯水池なので貯めている水も結構な量だからかなり厳しいな。

 俺は全力で水を取り込む。

 

 ズズズズズ……。

 

 って、全部取り込めちゃったよ。

 俺スゲー!っていうか、アイテムボックスの容量がおかしくなってないか?

 貯水池の毒水だけじゃなくヒドラの死骸も入ってるんだけど?

 既に毒が土にしみこんでしまっているので、毒水を無くしたからと言ってこの村の滅亡自体を防ぐことは出来ないが、セージの町より下流にあるサテラなどの街に影響が出るのは防げるだろう。

 俺が貯水池の水を取り込んでいるのを見たマイオールが深く感謝をする。


「父の後始末までしてくださいまして、本当にありがとうございます」


 でもマイオールが悪いわけじゃない。

 悪いのはゴリオールで、そのゴリオールも俺たちがセージの町に現れなかったらパセリ村にヒドラを放つようなことはしなかったのかもしれない。

 俺はマイオールたちが開拓を始めたら出来る限り協力して報いたい。


 *


 サテラのギルドに戻ってきた俺たち。

 帰りはモニカが竜とバレているのでモニカの翼で帰った。

 ドラゴンの翼は速くて最高だぜ!

 けして馬車に乗りたくなくてドラゴンに乗って帰ったんじゃないからな。

 ギルドの受付はラネットさんだった。


「ゴブリン退治なのにヒドラが出たの? それは大変な目に遭ったんですね」

「ええ、大変でしたよ」


 メイミーとモニカがいなかったらみんな死んでたかもしれない。


「倒したヒドラは換金する?」

「いや、あれはもうないです」

「そっか、いいお金になると思ったのに……」


 ないというか、正確にはモニカの腹の中に納まる予定。

 確かに開拓やベランさんの借金の返済にお金が必要なのは事実。

 でもそれを理由にしてモニカが倒した食材を取り上げるわけにもいかないしな。

 それこそゴリオール並みの横暴な男になってしまう。


 そいえばモニカのドラゴンの姿がサテラの住人に見られたのがセージの町の依頼を受けるきっかけだったんだけど、あの後どうなったんだろう?

 俺はラネットさんにそのことを聞いてみた。


「ドラゴンの騒動なんですが、その後どうなりました?」

「ああ、あれね。バルトさんが来て助けてくれたのよ」

「師匠がまた助け舟を出してくれたんですか?」


 バルトさんにはいつも助けてもらっていて感謝してもしきれない。

 でも、どうやってごまかしてくれたんだろう?

 ドラゴンなんてどうやっても見間違いしようもないし。


「バルトさんの飼っているワイバーンの見間違いってことにしてくれたの。それを印象付けるために、わざわざこのギルドの周りを低く飛んでもらってすごい迫力だったわ」


 街の中を曲芸みたいに低空飛行したのかよ。

 不出来な弟子にそこまでやってくれたのか。

 ありがたい。

 後でお礼に行かないと。

 なんてことを考えていたら……。


「ラーゼル君、サテラに戻ってきたのに師匠の家に顔を出さないとは水臭いですね」

「バ、バルトさん?」


 いつの間にか俺の後ろにバルトさんが立っていた。

 この人はいつもいきなり出てきて俺をビビらせる。


「ドラゴンの件はありがとうございました」

「いえいえ、気にしなくていいですよ。単に試験の前に話題を持っていかれるのが嫌だったので……。ところでラーゼル君のレベル上げの方は順調ですか?」

「ええ、順調です。あと少しでSランク相当のレベル60と言ったところにまできました。期限までにはなんとか上げられると思います」

「ほー、それは凄い。絶対に無理だと思ったから課題として出したのに本当に上げてしまったのですね」


 えっ?

 今なんと?


「あの短期間ではSランクには到底上げられなくて私に頭を下げこれから真摯しんしに英雄としての勉強をしていく、私が書いたのはそういうシナリオだったのですよ」


 なんですと!

 こんな必死にレベルを上げる必要なんてなかったの?

 そういう展開が用意されていたとは思いもしなかったぜ。

 やっちまったな、おい。


「そうとなれば新たなシナリオを書き起こして……うん、これで行きましょう」

「新たなシナリオ?」

「ええ、これは面白い展開です。ラーゼル君たちのテストを今週末に行います」

「今週末って……3日後ですよ? 俺たち、まだレベル60に到達していないんですけど」

「だからこそ面白いのですよ」


 バルトさんはなにやら悪だくみを考えているようだった。

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