後の領主、騒動の後始末をする

「これで大丈夫ですよ」


 毒に冒された執事とメイド、そしてベランさんはメイミーによってみんな回復した。


「ふはー! 死んだかと思ったぜ!」

「私も天国の死んだ妻が見えました」

「私は死んだおばあちゃんが見えたね!」


 さっきまで猛毒でピクピクと痙攣けいれんしていた3人が嘘のように元気に。

 メイミーの回復魔法はスキルの適正もあって本当にすごい。

 今は僧侶だけど、そろそろ聖女に転職させた方がいいんじゃないだろうか?

 でもこれだけ回復能力に優れていると回復してもらった人々から本当に聖女様と呼ばれそうだな。

 そして祭り上げられて俺の手の届かないところに行ってしまいそうで少し怖い。

 うん、転職は止めた。

 俺がメイミーに見合う英雄になるまでメイミーの転職はしない。

 なんて身勝手なことを考えていたらモニカがやってきた。

 モニカは倒したヒドラの首根っこを持って引きずっている。


「これを収納できないか?」

「こんな大きな物をか?」

「うん、頼む」

「いいんだけど、これをどうするつもりなんだ?」


 ギルドに素材として売るつもりなんだろうか?

 ヒドラクラスのモンスターなら討伐依頼が出てなくとも素材として間違いなく受け取ってもらえるだろう。


「餌にする」

「これをか?」


 マジか?

 この毒蛇を食うのかよ。

 モニカの食欲が極まってこんな物まで食うようになったのかよ。

 ドン引きだぜ。

 毒でお腹を壊したりしないんだろうか?

 この前はコカトリスを食っていたし、レアモンスター食いの悪食に目覚めなければいいんだが……。

 ビアンカも必死に止めてる。


「モーちゃん、こんなのあげたら絶対にヤバいから! お腹壊すじゃすまないよ」

「大丈夫だ。マナゲインと一緒に食べさせれば絶対に大丈夫だから」


 自信満々に胸を張るモニカ。

 まあ、倒したのはモニカだし好きにさせてやろう。

 最悪腹痛になって顔を真っ青にして泡を吹いている状態でもメイミーの回復魔法があればどうにかなる。

 俺はアイテムボックスにヒドラを取り込む。

 さすがにこのサイズは少し厳しいかな?と思ったんだけどあっさりと収納できた。

 レベルが上がってるせいかな?

 俺のアイテムボックスはスゲーな。


 *


 ヒドラによって貯水池の水が紫色になっているのに気が付いた村の住人たちが次々にやってきた。


「これ、毒じゃないのか?」

「毒々しすぎる色だ」

「この猛毒じゃ畑は終わりだな」

「畑だけじゃなくこの村も終わりだろうよ」

「せっかく村の生活が軌道に乗ってきたのになんてこったい」


 村人たちが騒ぎ始めたが、マイオール村長が騒ぎを収める。


「みんな、村を救ってくれた英雄の前だ。失礼だろ、静かにしてくれ」


 若い村民たちはマイオールの話を聞いてすぐに静かになった。

 俺たちはマイオールに連れられて村長宅へと呼ばれた。

 そこで俺たちはマイオールに全てを話す。

 

 ゴリオールがセージの町を去ったこと。

 セージの町をマイオールに託すと言ったこと。

 パセリ村を潰すためにヒドラを送り込んだこと。


 それを聞いたマイオールは深々と頭を下げる。


「うちの父親がとんでもないことをしでかしてしまい、みなさまにご迷惑をお掛けしました。申しわけございません」


 村の滅亡の危機になっても俺たちを気遣う気持ちを忘れないマイオールは凄いな。

 村長のかがみだ。

 俺が同じ目に遭っていたら『この村の終わりだ! この毒をどうする? どうすればいいんだよ?』とうろたえて大騒ぎしていたはずだ。

 

 ところが……。

 頭を下げていたマイオールの目から涙がこぼれ始めた。

 今まで自分の感情を見せないように必死に耐えていたようだ。


「せっかくみんなと一緒にここまで村を育ててきたのに……もうこの村は終わりですね」


 まあ、そうなるのは間違いないんだけど……。

 ヒドラの猛毒は簡単に抜けない。

 一度土地に染み付いたら元の状態に戻るには10年単位の時間が掛かる。

 でも、今回は運がよかった。

 ゴリオールがセージの町の権利を放棄してくれたお陰でこの村の村民たちはセージの町で再建をする事ができる。

 でも、マイオールはその計画を否定した。


「セージの町も猛毒に冒されて終わりですよ」


 その言葉に嘘は感じられなかった。

 でも、遠く離れているセージがなぜ猛毒に冒されるのかがわからない。


「歩いて2時間も離れている町が猛毒に冒されるんですか?」


 マイオールがセージの町が遠く離れているのを知らないわけもない。

 俺にわかるように説明を始めるマイオール。


「1年2年は問題ないでしょう。でもヒドラの毒は消えることのない猛毒です。毒は地面に染みこみやがて地下水に到達、やがては10キロル離れている下流のセージの町にも届くことでしょう。あの町の畑も毒で冒されて今のような収穫は出来なくなるはずです」


 俺がベランさんの顔を見るとうなずいた。

 マイオールの話は本当のようだ。


「どこかに移り住める場所があればいいんですが……」

「あるじゃないか」とベランさん。

「どこです?」


 そんな都合のいい土地なんてあるのか?

 俺が聞き返すとベランさんはニコリとほほ笑む。


「どこですって、アルティヌス領だよ。大領主になるために開拓民の絶賛募集中だろ?」


 なんという幸運!

 そうだった。

 マイオールは移住先を求め、俺は開拓民を募集している。

 なんというウィンウィンの関係!

 俺はマイオールに全住民の移住の計画を持ち掛けた。


「よろしいのですか?」

「ああ、俺たちとしては大歓迎だし、無茶な重税は絶対に掛けないのを約束する」

「ありがとうございます」

「ただ、まだ開拓が始まりもしていないので当面はクローブの町に住んでもらうことになると思う」

「ありがとうございます。このパセリ村の住民もセージの町の住民もきっと受け入れてくれると思います」


 俺は初めての開拓民を受け入れ大領主への道を歩み始めた。

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