後の領主、高利貸しに話をつけに行く
俺たちはクレソンの闇の高利貸しの元へと向かう。
目的は俺がベランさんの借金を肩代わりしたことを伝える為だ。
次期領主である俺が借金を肩代わりすれば無茶な利息を掛けてくることは無いと踏んでいる。
高利貸しの事務所の中に入るのは俺とラネットさんとモニカの武闘派3人。
話がこじれたら実力行使をするつもりだ。
メイミーとビアンカは万一の場合を考えて、衛兵を呼ぶための連絡要員として事務所の外に待機させてある。
俺たちは事務所に乗り込む。
中には二人いた。
一人が高利貸しと思える俺ぐらいの歳の男ともう一人は事務員と思しき若い女の人だ。
男は俺たちが勢いよく乗り込んだことで警戒し、剣の柄に手を掛けて警戒態勢だ。
まあこちらは武闘派3人だ。
並の剣の腕なら間違いなく返り討ちに出来る。
俺は話を切り出す。
あくまでも最初は紳士的にだ。
「俺はクローブの次期領主となるラーゼルと申す者です。ベランさんの借金の肩代わりをすることになりましたので借用書の書き換えをお願いします」
「ああ、借用書の書き換えですか。わかりました」
予想と違いあっさりと書き換えに応じる男。
臨戦態勢もすぐに解除していた。
「いやー、すいません。また他の金貸しや悪徳商人の殴り込みと思いましてね」
借用書を取り出す男。
話をすると意外にも普通の人だった。
「では借用書の名義の書き換えをしますね」
結構ごねられると思ったんだけど、あっさり行き過ぎて拍子抜けだ。
「ベランさんに貸したお金は返ってくると思ってませんでしたからね。代理で返済してくれるのなら大歓迎です」
借用書を見てみた感じ、金利もそれほど高くなく良心的だった。
「高利貸しと聞いていたんですが、意外と金利が安いんですね」
「あははは! この僕が高利貸しですか!」
そこに事務をしていた女の人が説明を始めた。
「うちの社長の『フィル』さんは庶民向けの融資をしているんですよ。事情によっては無償で貸すこともある良心的な人なのです」
話を聞くと高利貸しという噂は野盗まがいの取り立てをする他の悪徳高利貸しが立てた噂だそうな。
庶民相手の融資を専門にしていて、ベランさんのように本当に困っている人には返済が出来る見込みがなくても融資しているとのこと。
「ベランさんの娘さんのヴァリスちゃんはあのまま放っておいたら死んでしまいましたからね。治療法を探すのにかなりお金を必要だったんです。最初から寄付のつもりで貸していたんですよ。ヴァリスちゃんの病状はどんな感じですか?」
モニカが胸を張り答える。
「ヴァリスなら昨日治療したぞ」
「それって完全に治ったってことですか?」
「ああ、今は元気になって歩けるようになったぞ」
「よかった」
涙ぐむフィルさん。
結構いい人だな。
「金利は払わなくてもいいんで、貸したお金は返せるときに返してください」
*
事務所を出た俺たち。
心配だったのかモニカがかけよってくる。
そしてひしっと抱き着いた。
「大丈夫でしたか?」
「ああ、ちゃんと話はついたぞ」
「よかった」
モニカがホッとしたのか抱き着く力が弱まる。
ラネットさんもホッとしていた。
「なんだかフィルさんに貸しを作ってしまった気がしますね。早めに借金を返さないといけないですね」
俺もラネットさんと同じ気持ちだった。
「じゃあラーゼル、ダンジョンに行こうぜ!」
やたらダンジョンへ行きたがるモニカだった。
*
ダンジョンに潜ったものの……。
「弱い! 弱すぎるぞ!」
やり応えが無くてモニカが憤慨している。
マンイーターのスケルトンと比べると明らかに弱い。
いや、俺たちが強すぎるのか?
今日はベランさんの把握しているダンジョンをすべて回ることにしたんだが、どれも雑魚としか思えないぐらいの強さ。
一番深いダンジョンの24階層のボスも全くやり応えが無かった。
困ったもんだ。
「もしかして俺たちって相当強くなってるんじゃないのか?」
「多分Aランク相当の実力はあると思うわ」
冒険者ギルド受付嬢のラネットさんからAランクのお墨付きを貰った。
モニカが不思議そうな顔をする。
「そのAランクってなんだ?」
「冒険者ギルドでの冒険者の強さを示すものかな? 弱い方から順にF・E・D・C・B・A・Sと順に強くなっていくんだ」
「ラーゼルのランクはいくつだ?」
「D……」
「よわっ!」
「うるせーよ!」
俺だって好きでDランク冒険者をしてるんじゃねーよ。
これでもレベル15だった頃の俺はDランクになるのにかなり苦労したんだからな。
普通、冒険者ランクと言えば
F レベル1~9
E レベル10~19
D レベル20~29
C レベル30~39
B レベル40~49
A レベル50~59
S レベル60~69
大体こんな感じだ。
レベル15だった頃にDランク冒険者だった俺はレベルから考えればかなり優秀な方だった。
Dランクになるのにかなり苦労はしたけど……。
ラネットさんが俺に気を使いながら聞いてくる。
「ラーゼルさん。そろそろ冒険者のランクを上げませんか?」
「冒険者ランクですか?」
「はい。バルトさんからの条件は仲間全員をSランク冒険者にすることだったんですよね?」
「お嫁さんも含めてSランクにすることが条件でした」
「Sランクに上がったことをどう証明するつもりなんです?」
「バルトさんが用意したテストをするらしいです」
「なるほどです」
ラネットさんが頷く。
「でも、そのテストに万一落ちた時のことを考えると、Sランク冒険者になっておいた方が強さを証明出来ていいですよね?」
確かにそう言われるとそうかもしれない。
Sランク冒険者であることがわかれば、もしかしたらテストを受けなくても済むかもしれないしな。
「それに冒険者の依頼をこなしていればお金を稼げますよ。ベランさんの借金も返済できますね」
借金も返せるのか。
やらない理由なんてどこにもない。
「よし、冒険者ランクを上げるぞ!」
俺たちは冒険者ランクをSまで上げることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます