後の英雄、新天地のパーティーで狩りをする

「次の獲物を連れて来たぞ」

「おうよ!」


 俺がキャンプに新しい獲物を連れてきたことを報告すると威勢のいい返事が返ってきた。

 返事をしたのはリーダーであり剣士の『ケイロス』。

 モンスターと戦闘中なので敵から視線をそらさずに返事をした。

 俺が連れて来た敵を戦士の『ガダリ』が俺の背丈を超える巨大な両手斧で打ち付け注意を引き付ける。

 ガタリも威勢よく俺に返事をする。


「すぐに次の敵を連れて来ていいぞ」

「ベングは休憩なしでいけるのか?」


 詠唱中の僧侶の『ベング』が親指を突き上げる。

 さすがに詠唱中の僧侶は喋る暇はないようだ。

 ベングに代わりガタリが答えた。


「MPはたんまりあるからあと10戦はいけるぞ!」


 ガダリが戦闘をしながら胸を張る。

 器用な奴だな。

 思わず笑みがこぼれてしまう。


「俺たちを誰だと思ってるんだよ? Aランクを目指す新進気鋭の冒険者チーム『強風の剛剣』だぞ! こんな雑魚、100匹まとめて掛かってきても余裕だ!」


 俺は釣り役として金策目的の素材狩りのチームに参加していた。

 チームと言っても盗賊でリーダーのケイロスと、両手斧戦士のガダリ、僧侶のベングの三人組のこじんまりとしたDランクチーム。

 さすがに3人では素材狩りはきついらしく、野良の俺も釣り役として参加している。

 俺より5歳ぐらい若い今年20歳過ぎの元気の有り余ってる青年たちだ。

 冒険者としての経験と実力を積み自信も持ち始め、今が一番勢いがあって楽しい時期なんだろう。

 3人は朝からずっとテンションが高くておっさんに一歩手前の俺はついていくのがやっとだ。


 釣り役とは狭いダンジョンの中で戦いやすい安全な場所に作った自陣、すなわちキャンプに陣取ったパーティーの元へ敵を運んでくる役目のことだ。

 敵に矢を打ち込んで怒らせ連れてくる。


 ただ敵を連れてくればいいというわけじゃない。

 連れてくるのは一匹だけ。

 大量に敵を連れて来てしまったらパーティーが全滅する可能性がある。

 それだけは絶対に避けなければならない。


 戦闘中に新しい敵を連れて来まくって、戦闘相手を3匹以上にするのはダメなこと。

 当然、戦力が足りなくなり全滅の危機となる。

 逆に倒してすぐに新しい敵を連れてこないと戦闘の間隔が空いてしまい金策効率に響いてしまう難しい役目でもある。


 そして釣りの途中で敵に追いつかれたら確実に死ぬ、死と隣り合わせの役目でもある。


 実際、釣りに失敗し敵に襲われて死ぬ釣り役が後を絶たない。

 そんな厳しい仕事なので報酬はかなり高めだと思いきや、今回はたったの2万ゴルダ。

 試験採用ということもあるが、宿代一泊分に今日の食事代を払うと、あとは1万ゴルダちょっとしか残らない薄給。

 なんで割に合わないこんな安い仕事を受けたかというと、冒険者として使えない俺にはこれしか受けられる仕事がなかったからだ。


 冒険者ギルドの受付のラネットさんの勧めもあってこの募集を受けた。

 彼女はこんな不甲斐ない俺をクビからかばってくれているらしいからな。

 いつも頭が上がらず、感謝の気持ちしかわかない。

 中堅冒険者の平均レベルが35と言われている中で、歳だけ中堅冒険者の27歳なのに初心者同然のレベル15の俺には受けられる仕事がこれしかなかった。

 俺だってこんな仕事をしたくて冒険者を目指した訳じゃない。

 ドラゴンを倒すような一流冒険者を夢見て冒険者を始めたはずだったのに。


 でも、現実は厳しかった。

 俺のレベル上限がたったの15しか無かったこと。

 それが俺の弱さの全ての元凶だ。

 15歳になってすぐの成人式、『天職の儀』でレアスキルの『取得経験値100倍』を引き当てた時が俺の人生のピークだった。

 レアスキルを得たにも関わらず、あっという間にレベル上限のレベル15に達し失意のどん底に叩き落とされたのは今でも忘れられない。


 *


 俺は群れからはぐれている芋虫『ケーブクローラー』を見つけた。

 はぐれの敵は格好の狩りの獲物であり、ケーブクローラーとはダンジョンに棲む毒蛾『ケーブモス』の幼生の芋虫。

 肉食で冒険者の肉を好み、毒攻撃と体当たりが主な攻撃手段だ。

 離れていれば毒攻撃も体当たりも届かず無害なうえ、足も遅いので楽に釣れる敵である。

 俺は狙いを定めて弓を引き絞る。


『ビシュッ!』


 矢が空気を切り裂き敵に突き進む。

 小気味いい音がダンジョンに響いた。


『ブスリ!』


 そして矢は腹のあたりに軽く突き刺さった。

 当然、格上の敵へはダメージどころか致命傷にもならず、かすり傷。

 でも、この矢の攻撃は俺の出来る最強の遠隔攻撃手段である。


 だが、かすり傷でも突如襲われたことで我を忘れ怒り狂う芋虫。

 芋虫は毒液を振り撒きながら敵に襲い掛かる。

 当然、矢をった主の俺が敵であり標的だ。

 俺はそのまま逃げてパーティーの元へと戻る。

 キャンプに戻りさえすれば芋虫はパーティーメンバーが倒してくれる。


 はずだった……。


 パーティーがいるはずの自陣に戻ったが、そこには誰もいない。

 キャンプはもぬけの空だった。


「嘘だろ?」


 なんで誰もいない?

 俺だけ置いて行かれた?

 俺が釣りに行っている間に、自陣が敵にでも襲われたのか?


 マジかよ!


 理由はどうあれ、あの芋虫を俺一人で倒さないといけないのか?

 ヤバい!

 マズイ!

 とんでもないことになった。

 さすがにパーティー戦に合わせた強さの芋虫を格下の俺一人で倒すのはキツイ。

 キツイぐらいで済むならいいが、多分倒すのは無理だ。

 確実に死ぬ。


 俺のレベルは15。

 他にいたパーティーメンバーの3人は全員レベル25。

 10もレベルに開きのあるレベル25の3人で倒せる敵を俺一人で倒せるわけもない。

 俺はすぐさま決断をした。


 逃げよう!


 荷物が全て持ち去られて襲撃の痕跡がないことから考えるに、パーティーメンバーたちは既に安全な場所に逃げているはずだ。

 俺も逃げることを決意した。

 でも俺一人だけでこのダンジョンから逃げられるんだろうか?

 いや、何としても生き延びねば!

 たった日給2万ゴルダで死ぬのは死んでも死にきれない。


 俺のひとりぼっちの孤独なダンジョン脱出劇が始まった。

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