後の英雄、サビアに初めてを奪われる

 エレネスは俺をベッドの上に押し倒していた。


「いいか? やるぞ、やるからな!」


 俺の上に跨ったエレネス。

 完全に男女の立場の形勢逆転。

 情けないことに男の俺は女のエレネスに食われようとしていた。

 エレネスは自分の服に手を掛けると……。


【ここからはイメージシーンでお楽しみください】

エレネス: ギューイーン!

ラーゼル:「敵機襲撃!」

ラーゼル:「ヤバい! 上につかれた!」

ラーゼル:「機体の性能はこっちの方が上だ! 緊急回避!」

エレネス:「逃がさねーよ! 俺の方が経験はずっと上、一度狙った獲物のお前を逃がしゃしねーよ!」

エレネス:「俺の弾幕を食らいやがれ!」

エレネス: ダダ!

エレネス: ダダダダ!

エレネス: ダダダダダダダダダ!

ラーゼル:「くそ! ケツを取られた!」

エレネス:「逃がさねーよ!」

ラーゼル:「なんとしても逃げる!」

ラーゼル: ギュギュイーィィン!

エレネス:「ふふふ、私から逃げられると思うな!」

ラーゼル:「に、逃げられないだと!」

エレネス:「とどめだ!」

エレネス: バス! バス!

ラーゼル: ミサイルだと!

ラーゼル: バアン!

ラーゼル:「被弾! 被弾! 我操縦不能! 操縦不能!」

エレネス:「ふふふ、私の勝ちだな!」

ラーゼル:「ぐああああ!」

【イメージシーン終わり】


 結果から言おう。

 俺はただされるがままエレネスに好き放題された。

 やはり体力が同程度でも、経験者と童貞では勝負にならない。

 事後のエレネスは俺に向かい満足げな笑みを見せた。


「ラーゼル、なかなかよかったぞ」

「俺はされるがままで何にもできなかったけど……」

「まあ、初めてなんてみんなそんなものさ」


 なんか女の人に慰められてるんだけど……。

 男としてのメンツは全くない。

 終始完全にエレネスのペースだった。

 あまりに情けなくて目じりが潤む。


「こんなに積極的に攻めたのもラーゼルが初めだ」

「そうなのか?」

「好きな人とするのってこんなに気持ちいいものなんだな。初めて男と肌を合わせることがいいと思ったよ」


 俺の初体験としては非常に残念な感じだったけど、エレネスが満足してくれたならそれでいいかな。

 これからエレネスと練習を繰り返して経験を積み、ラネットさんを満足させられるぐらいの男になるぞ。


「約束のことなんだけど……」

「ああ、レベル上限を上げるのと、サビアからの解放だったな」


 俺はサビア契約を破棄してレベル上限も上げる。

 エレネスはレベル48へと上がった。


「はあ、はあ、はあ、これがレベル開放の痛みなのか」

「結構苦しかったろ。がんばったな」


 そっと髪を撫でてやる。

 エレネスは気持ちよさそうに目を細めた。

 普段は強い冒険者でいるエレネスだけど、俺の前だけで見せてくれる女を思い起こさせるエレネスもいい。


「ラーゼル、私のレベルを上げてくれて本当に感謝してる。ありがとう」

「おう、気にすんな」

「おまけにサビアまで開放してくれて……なんて感謝の言葉を言えばいいんだろう。愛してるって言葉じゃ足りないよな?」


 感極まったエレネスは俺の胸の中で泣いた。

 俺はエレネスにそっと言葉を掛ける。


「もしよかったら、今まで通り一緒にいてくれないか? 今までのサビアと主人としての関係とは違って、恋人どうしとなるんだけど……」


 エレネスから返事が返ってくる。

 キッパリとした彼女らしい返事だ。


「それは無理だ!」

「へ?」


 この流れで、その答え?

 嘘だろ?

 お前も俺のことを好きと言っていたんだから、恋人になるのが普通だろ?

 なんでそうなる?


「サビアから解放されレベル上限も上がったんだ。こんなとこになんていられない!」


 マントをひるがえし、エレネスは俺の元を去った。

 ですよねー。

 サビアを解放されたら、元主人のとこに居続けるサビアなんていないしねー。


「くそ! くそ! くそが!」


 俺は恋人のように思っていたエレネスに捨てられて、一人寂しくベッドの上で泣きじゃくった。


 *


 実は……。

 エレネスは殺された父と母の復讐へと向かったのだ。

 外国の元国王であった父と母。

 大好きなラーゼルを巻き込まない為に一人で故郷へ向かうエレネス。

 すぐに戻ってくるつもりだったが、その願いはかなわなかった。


 このことを俺が知るのはかなり先の事であった。

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