後の英雄、二度目の童貞を卒業する

 いい歳した男が顔をぐちゃぐちゃにして枕に顔をうずめて泣きじゃくる。


「うわわーん!」

「女なんて! 女なんて!」


 俺の鳴き声がうるさかったのか、宿屋の女将さんのマーリーさんがやってきた。


「いい歳した男が大声で泣き叫んで……どうしたんだい?」

「うっくうっく」


 ちなみにこの女将さんとは16になってこの街に出てきてからの付き合いだ。

 いつも優しくめんどうを見てくれて、今では本当の母親みたいに感じている。


「初めて女の子を連れ込んだと思ったら泣きじゃくって……初体験で役に立たなかったのかい?」

「ちがう!」


 立ったから!

 思いっきり役に立ちまくったから!


「じゃあどうしたんだい?」

「俺を愛していると言ってくれたのに、サビアから解放したとたんに逃げられたんだよ」

「そんなことで泣いていたのかい」

「そんなことって……俺はあの子のことを本気で愛してたんだよ」

「そりゃ酷い女に引っかかったね。運が悪かったんだよ。女なんてこの街には掃いて捨てるほどいるさ。新しい女を作ってその女以上に愛せばいいじゃないか」


 ううう……。

 でもマーリーさんの言うことは正しい。

 俺は女に裏切られた。

 愛していた女に……。

 ただ運が悪かっただけ、それだけだ。

 きっとこの世には俺を愛してくれる女がまだいるはず!

 そう!

 俺にはまだラネットさんがいた!

 ラネットさんを俺の恋人、いや嫁にしてやる!

 その為には、サビア商館に戻りあの子を買わねば。

 あのおしとやかそうなあの子を!

 あの子なら俺がすべてをリードして事を済ませられるはずだ!

 俺にはあの子が必要なんだ!

 自信を取り戻すにはあの子しかいない!

 俺は三度みたびサビア商館へ戻った。


「いらっ……、お客様どうされました?」

「サビアをください。さっきの子を」

「あの子?」

「おしとやかそうな、確か名前は……メイミーです!」

「申し訳ありませんが、メイミーはただ今商談中で」

「なんだと!」

「申し訳ございません! お客様が断られたのであの子の申し出で格安に処分することが決まりまして」

「俺はあの子じゃないとダメなんだ!」

「と、言われましても……」

「まだ商談中なんだよな? 売れてないんだよな?」


 店員に金を握らせて無理やり商談室に乗り込んだ。


「メイミー!」


 だが遅かった。

 メイミーはぼってりとした腹のおっさんに買われた後だった。

 どこぞの商人のようだ。


「俺にその娘を売ってくれ! 俺はメイミーじゃないとダメなんだ! メイミーがどうしても欲しいんだ!」

「私じゃないと?」


 俺の告白まがいの要求に、反応したのはおっさんじゃなくメイミー。

 熟しまくったトマーラの実のように顔を真っ赤にする。

 だが、それを見ていたおっさんは鼻で笑った。


「残念だったな坊主。この娘はワシが買った後だ」

「いくらで買った?」

「100万ゴルダだ。他のサビアは500万ゴルダする中、かなりのお買い得だったぞ」

「受け取れ!」


 俺は金貨袋を叩きつけた。


「これはなんだ? 銅貨袋?」

「俺の全財産だ! それでメイミーを俺に売れ!」

「こんなはした金で……うおっ! なんだこの大金は! 銅貨袋じゃなく金貨袋じゃないか!」

「3500万ゴルダ以上ある筈だ。俺にとってこの娘はそれだけの価値があるんだ!」

「しゃんじぇんごやくまん? 私にそんな大金の価値が?」

「売ります! 売りますぞー!」


 全財産と引き換えに俺はメイミーを手に入れた。


 *


 宿屋に戻ってきた俺。

 女将さんが笑顔で迎えてくれた。


「新しい彼女を見つけたようだね」

「おう! とびっきりの娘をな」


 *


 【ここからはイメージシーンでお楽しみください】


 先生  :それでは雑巾縫いの実習を始めますよ。

 先生  :男子と女子でとペアになって実習をしてくださいね。

 先生  :余った人は先生とやることになりますよ。

 生徒たち:わーわー!

 生徒たち:先生とは組みたくねー!

 ラーゼル:一人で寂しそうにしているあの子。

 ラーゼル:すごくかわいいし、あの子に決めた!

 ラーゼル:一緒に実習してください!

 メイミー:でも私下手だし。本当にいいんですか?

 ラーゼル:君がいいんだ!

 メイミー:ぽっ! よろしくお願いします……。


 ラーゼル:針に糸がなかなか入らないね。

 メイミー:私も初めてでよくわかんないの。ごめんね

 ラーゼル:こうかな?

 メイミー:こうかも?

 ラーゼル:あっ!

 メイミー:入った!

 ラーゼル:やった!

 メイミー:やったね! じゃあ、これから雑巾縫うよ。

 ラーゼル:おう! 頑張ろう!

 メイミー:ぷすっ! いたっ!

 ラーゼル:自分の指を縫っちゃダメじゃないか。

 メイミー:てへへ。ごめんね。こんな感じかな?

 ラーゼル:だね。なんかうまく縫えると楽しいね。

 メイミー:うんうん。できたー!

 ラーゼル:やったー! 完成だね!

 抱き合って喜ぶ二人。


 【イメージシーン終わり】


 その日、俺はメイミーと男と女の関係になり、二度目の童貞を卒業した。


 *


 メイミーと肌を合わせ、俺は男としての経験値を十分に積んだ。

 自信も十分に持てた。

 あとはラネットさんを攻略するだけだ。

 初夜を終えホッとしたのと事後の疲れで眠ってしまった俺。

 目覚めたのに気付いたメイミーが声を掛けてきた。

 既に服も着て、食堂から夕食も運んで来てくれていた。


「ごしゅじんさま、お目覚めですね」

「メイミーのお陰で無事男になれた。ありがとう」

「どういたしまして」

「約束だったな。サビアとレベル上限の解放をしないとな」


 俺はメイミーをサビアから解放。

 レベル上限の解放後はたぶん気絶するだろうから事前に話すべきことを説明をしておいた。


「これからレベル上限の開放をするが、激しい痛みが襲ってくる」

「なんだか怖いです」

「やめておくか?」

「いえ、お願いします」


 怖いのか、ベッドの上でぎゅっとスカートを握り締めるメイミー。

 そんな仕草の一つ一つがすべてがしおらしい。

 サビアから解放して俺の元から去るのは惜しいけど、約束だから仕方ない。


「痛みで気絶はするだろうけど死にはしないので安心してくれ」

「はい」

「あと無一文で放り出されても困るだろうから、お金も渡しておく」

「こんなにですか?」


 俺は手持ちの金貨10枚、10万ゴルダを渡した。

 これだけあれば冒険者を再開できる装備を買えるだろう。

 俺の所持金は端数の8000ゴルダぐらいしか残らないけど気にしない。


「目が覚めたらお前は自由だ。この金で装備を買って冒険者を再開するといい。レベル上限が上がっているからきっと優秀な冒険者になれるはずだ」

「ありがとうございます」

「じゃあ、始めるぞ」


 俺はうつぶせになったメイミーの背中に手を当てる。

 そしてレベル上限を解放。

 メイミーは悲鳴を上げると身体を弓ぞりにして気絶した。

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