後の英雄、一世一代の大勝負を賭ける
俺は街の外で雑魚敵を狩りまくってレベルを一つ上げると、ラネットさんの待っているギルドへと向かう。
時刻は既に夜。
空の色は深い赤から藍色へとすっかり変わってしまった。
ギルドの営業時間は終わり、冒険者は酒場へと移動して既に人影はまばらだ。
仕事を終えたラネットさんが、一人で受付の片づけをしていた。
俺が戻ってきたのに気が付いたラネットさんの表情が明るくなる。
どうやら俺が戻るのを待ち構えて、この時間でも残っていたようだ。
「ラーゼルさん、いきなりいなくなってどうしたんですか?」
俺は一世一代の勝負を賭ける!
嘘とハッタリでラネットさんを手に入れてみせる!
やれる!
バルトさんの実演を見たあとだ。
やり方は解ってる。
できるはずだ!
「そのことについてちゃんと説明をします。でも、その前に俺のステータスを測定をしてもらませんか? 測定を終えないと説明できないんです!」
質問を流して別の話題にそらす。
バルトさんの得意技だ。
俺の強い要望に沿って測定の準備をしぶしぶ始めたラネットさん。
「ラーゼルさんのステータスって、この10年変わってないですよね?」
意味のないことをさせられて不機嫌になっているのが言葉尻に出ている。
そりゃそうだ。
俺は10年以上ずっとレベル15のままだった。
レベル上限が急に上がるなんて思いもしないだろう。
俺がラネットさんの立場だったら再測定をしろと頼まれても断ったと思う。
ギルドカードを渡し魔道具に触れるとすぐに測定が始まる。
「ステータスを測ったら、バルトさんの連絡先を教えてくださいよ」
すぐに測定が終わった。
測定結果が書き込まれたギルドカードを見るラネットさん。
無駄なことをしたなとうんざり気味。
「ステータスはいつもの通り、LV16? えっ? なんでレベルが上がってるの?」
「静かに!」
俺はラネットさんの後ろに立ち口を手でふさぐ。
辺りで誰かが聞いていなかったかを見回す。
我ながら臭い演技だ。
ラネットさんの耳元で静かな声で話した。
「ここでは話せないので、会議室に移動しましょう」
俺の腕の中で頷きまくるラネットさん。
ラネットさんは無言で会議室へと移動。
扉を閉めると
「なんでレベルが上がってるんですか!」
「どうやったんですか!」
「なにが起こったんですか!」
俺に逃げられないように壁際に追い詰め矢継ぎ早に質問攻めにする。
レベル上限が上がるというありえないものを見たためか目が真剣過ぎて怖い。
おまけにラネットさんは身体全体で俺を壁際に押さえつけられて息もできないし!
豊満な双丘と密着しているので喜ばしいけど、そんな気は全く起きない。
俺はラネットさんの両腕をつかみ少し距離を取る。
「ちゃんと説明するから、落ち着いて」
「ご、ごめんなさい」
知り合いといえ自分が非常識なことをしていたのに気が付いたのか、ラネットさんは気まずそうにうつむく。
「上がったのはレベルだけじゃないんですよ。ステータスも見てください」
ギルドカードのステータス欄を確認するラネットさん。
信じられないほど上がったステータス。
Aランク冒険者、つまりレベル50超えのステータスだ。
驚きのあまり青ざめた顔になる。
「熟練冒険者並のステータスになってるじゃないですか! 一体どうしたんですか?」
俺は大勝負を賭ける!
ここからは嘘とハッタリの世界だ!
少しでも気を抜いたら嘘だとバレる。
「実は俺、英雄の力を手に入れたんです」
そんなものは当然手に入れてない。
でも、ラネットさんの手の中には俺のギルドカードのステータスという物的証拠があった。
嘘が真実味を帯び始める。
だがまだ信じ切れないラネットさん。
確信を持つために後ろを振り返って審判の宝珠を確認しようとした。
まずい!
審判の宝珠は真っ赤!
つまり大嘘ということを示している!
見られたらこのハッタリも俺の冒険者人生も一巻の終わりだ。
俺は心の中では焦りつつ表情には出さないようにしてラネットさんの両肩を押さえる。
「目をそらさないで! 今は大切な話をしているんです!」
「はい!」
いつもと違い俺が強気に出ているので動揺しまくりだ。
これはバルトさんが自分に不都合な話題が出たときに度々使っていたテクニックだ
「俺はバルトさんから英雄の力を継承しました」
これでもかと真っ赤に光る宝珠。
でも気にしない。
ラネットさんの視線は俺の瞳に釘付けだ。
「英雄となった俺はレベル上限が上がったのです!」
「うそ? 『英雄の称号』は功績に対して王様が授けるものよ! あくまでも称号。英雄の力を継承したなんて話は聞いたことないわよ!」
「王が授ける英雄の称号は英雄伝説に
「そうなの?」
もちろん大嘘だ。
俺は嘘を嘘で塗り固める。
もし神が存在しているのなら、裁きの
「嘘だと思うなら、後ろの審判の宝珠を見てください」
一呼吸してさらに続ける。
「俺がレベル上限を上げられるのは事実。審判の宝珠の色が何よりの証拠です」
両肩を解放されると振り向くラネットさん。
審判の宝珠は青く光っていた。
「本当だ……宝珠が青い」
ふー。
やばかった。
実は審判の宝珠は俺の大嘘の連続で爆発するんじゃないかってぐらいに真っ赤に光っていた。
嘘がばれるかと思って心臓がバクバクしまくり。
でも最後の『俺がレベル上限を上げられる』という言葉に反応して青く光った。
そのタイミングで宝珠を見せて嘘に信憑性を持たせたのだ。
やればできるじゃん! 俺。
頑張ったよ、俺!
張り裂けそうになった胸をなでおろす。
再び振り向かせて嘘を続ける俺。
「英雄には特別な能力があるって知っていましたか?」
「特別な能力が?」
「実は英雄には仲間を強くする能力があるのです。それが何かわかりますか?」
ラネットさんが質問を答える前に俺が答える。
話の流れの主導権を確保するためにな。
「レベル上限を解放する能力です」
「うそ?」
意外過ぎる答えにラネットさんの表情が明るくなる。
そして一番気がかりだった点を聞いてきた。
「仲間とは私も含まれるのかな?」
「どうでしょう? 俺が聞いた話だと嫁や息子なら間違いないみたいです」
俺はすかさずラネットさんにプロポーズをする。
ラネットさんに考える暇を与えない!
ためらったら話の勢いが消えお終いだ!
「俺はラネットさんを守りたい! だから結婚してください!」
別にラネットさんのレベル上限アップに結婚は関係ない。
でも、ここまで来たんだ。
結婚まで漕ぎ着けてやる!
「いいわよ」
あまりにもあっさりとした答え。
もしかして元々俺に好意を持っていた?
ハッタリなんて要らなかったかもしれない。
でも、そんなことはなかった。
次の言葉が続いた。
「ただし、本当に強いのか私自身の剣技で確かめさせて欲しいの」
えっ?
マジで?
俺はラネットさんと戦うことになってしまった。
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