後の英雄、プロポーズをする

 ですよねー。

 つい数日前までギルド一番のポンコツで名が知れてた俺だし。

 いくら強くなったと聞いても信じられないのもわかるよ。


 ラネットさんに連れてこられたのはギルド併設のコロシアム。

 普段はここで新人の教育や熟練者同士の腕試しをしているが既にこの時間は誰もいない。

 ここでは『護身の宝珠』を身に着けて戦う。

 すべての攻撃は護身の宝珠が吸収し、一定ダメージを受けると宝珠が砕ける。

 それで勝敗を決める取り決めとなっていた。

 当然ダメージは宝珠がすべて吸収するので怪我はしない。

 ラネットさんは冒険者時代に揃えたとびっきりの装備を身にまとって現れた。

 身体のラインがあらわになったちょっとエッチなビキニアーマー。

 多数の加護により、おへそ丸出しなのに板金鎧より防御力が高いという謎仕様な防具である。

 金属アクセサリのようなものもビキニに付いていて加護でステータスをかなり上げてそう。

 剣を構えたラネットさんは俺を見据える。


「さあ、ラーゼルさん! どこからでも掛かってきていいわよ! 私の宝珠を砕けたらプロポーズを受けるわ!」


 ラネットさんのレベルは36でありステータスレベルも36。

 対する俺のレベルは16だけどステータスレベルは50相当。

 多少のステータス差ならばレベルの高い方が勝つのが常識。

 でも、さすがにこれだけのステータスレベルの差があればレベル補正なんて誤差範囲。

 間違いなくステータスレベルが高い俺が勝てる。

 俺が本気で掛かっていけば一撃で倒せるだろう。


 でもな、自信満々で本気装備を着て現れたラネットさんだ。

 一撃で倒したら納得しないだろうな。

 間違いなく八百長呼ばわりされる。

 ここは接戦に持ち込んだ上に、俺が追いつめられるのがこの試合の展開上必須。

 そしてラネットさんが最後のとどめを刺そうとした隙に、俺が勇者の奥義を発動し逆転勝利!

 という演出を経てギリギリで勝つのがいいのではないだろうか?

 これならレベルの高い彼女のプライドも守れる。

 きっと『私の慢心まんしんが勝敗を決したんだわ。くやしいけど負けは負けね』みたいなことを言って納得してくれるはずだ。


 うん、そうしよう。

 で、俺はラネットさんの隙を探っていた……隙だらけじゃん!

 斬り込んだら一撃でノックアウトだぞ!

 現役を退いて冒険者ギルドで事務職を続けていたせいで完全になまってるな。

 どこから攻めようか悩んでいたらラネットさんから動き出した。


「私の完璧な構えに怯えているのね! ならばこちらから行くわ!」


 ラネットさんから攻撃してきた。

 スピ-ド重視の連撃剣だ。

 普通の冒険者なら、あまりの速さに残像しか見えずに倒される。

 でもこれ……。

 なんだろう?

 攻撃遅過ぎね?

 まるでナメクジ。

 多分俺のステータスが爆上がりしたからそう見えるんだろうけど。

 こんな初心者相手にどう接戦に持ち込めばいいんだ?

 俺は手を出すに出せなかった。


「私の剣撃の速度に恐れて持久戦に持ち込む気なのね。ならば考えがあるわ!」


 いやいや違いますって。

 ラネットさんは思った以上にプライドが高そう。

 これは上手く決着をつけないとあとを引きそうだ。


「ラネット・アルティヌス、我が最大火力の攻撃を受けよ!」


 ラネットさんは剣を両手持ちに変え、渾身の力で切りかかってきた!

 しかも、速度を載せて! 

 彼女は一気に決める気だ。

 ならば、俺もこの攻撃を何度か受け体勢を崩した演技をし、そこで反撃だ。

 俺は接戦を演出すべく軽く剣を受け流した。


 つもりだった。

 その瞬間!


『ズバン! ズバン!』


 重い剣撃の音。

 しかも2回。

 へっ?

 ラネットさんは俺の反撃を食らった!

 なぜ?

 どうして?

 って指輪か!

 反撃の指輪を付けていたせいだ。

 

・『反撃の指輪』

 50%の確率で受けた攻撃を反射する。

 防御不要。

 

 この指輪のお陰で攻撃を反射してしまった。

 しかも『二回攻撃の指輪』の効果で回数倍返し!

 ちなみにこの指輪は防御しようがしまいが攻撃が当たると半分の確率で反撃してしまうのでたちが悪い。


 ちなみに俺は片手に8個の指輪を付けている。

 人差し指2個。

 中指3個。

 薬指2個。

 小指1個。

 流石に親指に指輪を嵌めると剣を持ちにくそうなので付けていない。

 両手なので合計16個だ。


 付けている指輪は


・『幸運の指輪』

 LUKが10倍になる指輪。

 戦闘効果は無さそうだが、幸運度のLUKが10倍になるのでクリティカル攻撃が出まくるようになる。

 今の攻撃も攻撃力2倍のクリティカル攻撃だった。


・『レベルリミットブレーカーの指輪』

・『体力の指輪』

・『敏捷の指輪』

・『魔力の指輪』

・『鑑定の指輪』

・『偽装の指輪』

・『アイテムボックスの指輪』

・『全体攻撃の指輪』

・『バフアダーの指輪』

・『慈母の指輪』

・『ポテンシャルリング』

 これらに関しては戦闘力には関係ない。


・『通常攻撃の指輪』

  通常攻撃の与ダメージが倍。


・『二回攻撃の指輪』

  攻撃が二回攻撃になる。

  つまりダメージが倍だ。


・『装備破壊の指輪』

  攻撃時時々装備を部位破壊する。

  短時間相手の防御力が0となる。

  幸運度のステータスが上がってるのでほぼ常時発動。

 しかも全体攻撃の指輪の相乗効果のせいで全身の装備が破壊される。


 2倍(幸運:クリティカル) × 2倍(通常攻撃) × 2倍(2回攻撃) = 8倍


 受けたダメージを8倍にして返した上に、全身の装備をくまなく部位破壊するオマケつき。

 なんて凶悪な反撃なんだ。

 しかもラネットさんの渾身の一撃だぞ!

 それはそれはとんでもないダメージになる。

 こんな攻撃を受けたラネットさんのご自慢の防具は粉々となり全裸の状態でコロシアムの壁に叩きつけられていた。


 ヤバい!

 これは本気でまずい!

 死んじゃないよな?

 いや、息はしている。

 宝珠が破壊される前に装備でダメージを緩和したお陰だろうか?

 ビキニアーマーよ、ありがとう!

 粉々になって塵となったが君のことは忘れない。

 命を取り留めたとはいえ、かなりのダメージを負って瀕死の重傷なのには変わりなし。

 腕や足が向いちゃいけない方向を向いてるし!

 俺はラネットさんにダンジョンの宝箱から出たハイパーポーションを口移しで飲ませた後、医務室に担ぎ込んだ。


 *


 ベッドに寝かすが医務室にはいつもは神殿から派遣されている神官がもういない。

 ヤバい!

 このままではラネットさんが死んでしまう!

 どうしよう!

 どうすればいい?

 俺が子どものように頭を抱えていると……。


「タリャー!」


 跳ね起き宙に向かい拳を突き出し攻撃を繰り出すラネットさん。

 えっ?

 意識を取り戻した?

 大事なところがプルンプルンしていたので全裸になっていることに気が付き、慌ててシーツで身を隠す。

 しかも手足は元通り治ってるみたい。

 すげーな、ハイパーポーション。


「これはいったい……もしかしてラーゼルさんに私の初めてを捧げた事後なの?」

「違う違う! なにもしてないから!」


 ブルンブルンと首を振りまくり完全否定。

 俺は再び嘘をかます。


「戦いで追い詰められた俺が英雄の奥義を放ったら、それを受けたラネットさんが怪我をしてしまい……すみませんでした」

「そんな記憶はないんだけど……。たしか攻撃を仕掛けたとこまでは覚えているんだけど、その先はさっぱり覚えてないわ」

「奥義を食らって気絶したせいで記憶が飛んだんだろうな」

「そうなのね……」

「奥義の発動が間に合わなかったら俺が負けてたかもしれないな」

「じゃあ勝負はラーゼルさんの勝ちだったのね」


 俺は答えずに頷いた。

 ラネットさんの肩から力が抜ける。


「身体の方の痛みはないか?」

「全くないわ。むしろ戦う前より元気になってるぐらいかな?」

「それはよかった」


 ラネットさんはうつむいて顔を真っ赤にしてポツリといった。


「プロポーズのことなんですけど……」

「俺のプロポーズを受けてくれるか?」

「ダメ!」


 えっ?

 なんでそうなる?

 なんでその答え?

 まさかこれから俺を倒すために修行の旅に出たりするのか?

 マジかよ!

 この流れでそれはないだろ!


「私が負けたんだからプロポーズは私からします。結婚してください」


 ラネットさんからプロポーズされたよ!

 マジか!

 答えは決まっている!


「よろしくお願いします」


 *


【ここからはイメージシーンでお楽しみください】


 ラーゼル:我は英雄ラーゼル、今からこの城を攻め落とす!

 群衆  :うおおおおー!

 ラネット:我は女騎士ラネット! 難攻不落の要塞城の城主である!

 群衆  :うおおおおー!

 ラーゼル:いくぞ!

 ラネット:来い!

 ラーゼル:破城槌!

 ラーゼル:どごーん!

 ラネット:そんな攻撃など開かずの門の前には余裕!

 ラーゼル:な、なんだと!

 ラネット:我が門を開門し攻め落とした者は今までいない!

 ラーゼル:では、これならどうだ?

 ラーゼル:バリスタだ!

 ラーゼル:岩が上空から襲うぞ!

 ラネット:ふはははは! そんな攻撃、痛くもかゆくもない!

 ラーゼル:その岩をよく見てみろ? ただの岩じゃない

 ラネット:なんだと?

 ラネット:こ、これは!

 ラーゼル:サボテンミミズだ。俗に言われる触手生物だ!

 ラネット:な、なんだと?

 ラネット:ひゃううう!

 ラネット:こんなものに攻め立てられたら身体が持たん!

 ラネット:や、やめろ! 私の大事なところを……。

 ラーゼル:女騎士と触手。相性は抜群だ!

 ラネット:ひゃううう!

 ラネット:い、息が出来ない!

 ラーゼル:今だ、門がわずかに開いたぞ! 破城槌展開!

 ラーゼル:突撃!

 群衆  :うおおおおー!


 難攻不落の要塞城は攻め落とされた。

【イメージシーン終わり】


 俺たちはその場で抱き合い一つとなった。

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