後の領主、ギルドで聞き込みをする

 ラネットさんに頼まれたコットンさんの調査。

 メイミーと一緒に聞き込みをすることにした。

 ちなみにモニカとビアンカは酒場で早食い大会を開いている。

 聞き込みを始めたが冒険者たちはみんな非協力的だ。


「うぜーんだよ!」

「あっち行きやがれ!」

「てめーの顔を見てるとムカつくんだよ!」


 殆どの冒険者は俺の生存をネタにした賭けに負けた怒りで口も聞いてくれない。

 でもまれに口を聞いてくれる冒険者もいた。

 どうやら俺が生きている方に賭けて大儲けした人らしい。


「『初心者教育係』、久しぶりだな」


 俺に声をかけて来たのは『飲んだくれのジェイミー』。

 いつも酒瓶を持っているので武器が酒瓶と噂されるぐらいの飲んだくれのおっさんだ。


「戻ってこないから本当に死んだと思ったぞ」

「じゃあなんで俺に賭けたんだよ?」

「そりゃーお前、なにかの間違いで戻ってきたら大儲け出来るだろ。ギャンブルと言えば逆張ぎゃくばりが基本だべ」


 俺の生存を信じて賭けてくれたんじゃないのかよ。

 薄情なやつめ。

 ムカつくけど俺に話しかけてくれる唯一の貴重な情報源だ。

 ここは怒りを抑えて聞き込みに徹することにした。

 ジェイミーは酒をグビリと飲みながら人懐っこく話しかけてくる。


「ラーゼル、最近見かけなかったんだが、どこに行ってたんだ?」

「今は拠点をクレソンの街の方に移してるんだ」

「しょぼ過ぎでこの街にいられなくなったか」

「うるせーよ」


 面倒なので細かい話はするつもりはない。

 酔っ払いに細かいことを話してもどうせ一晩寝れば忘れるだろうからな。


「で、なんでこの街に戻って来たんよ?」

「ちょっとレベル上げをしようと思ってね。土地勘のある古巣の方が仕事がしやすいと思うんだ」

「ふーん。万年レベル13のお前がレベル上げねー。こりゃ傑作だ」


 またまた酒をグビリと飲むジェイミー。

 レベル上限が上がった話をするつもりはない。

 俺は本題を切り出す。


「コットンさんが元気ないみたいなんだけど、どうしたんだ?」

「コットンちゃんか……。あー、酔いがさめちまったよ。家で飲み直すか」


 ジェイミーはふらつきながらギルドを後にした。

 全然酔いがさめてないじゃないか。

 それを見たメイミーはあまりいい気はしてない感じ。


「ごしゅじんさまの事をバカにして失礼な人でしたね」


 失礼というかただの酔っぱらいだから。

 頭をアルコールに支配されて本能だけで話している状態だからジェイミーも怒っても仕方ない。


「それにコットンさんのこともなんか隠してるように見えました」


 確かに俺もそんな気がした。

 他の人にも聞き込みするが誰もコットンさんのことを教えてくれない。

 ギルド職員の噂話はタブーのようなものだしな。

 噂話をしているのを他の職員に嗅ぎつけられて嫌われたら仕事を貰えなくなるかもしれないし。

 話したくないのもわかる。


 こうなったら職員に聞くしかないか。

 一人だけ話を聞ける心当たりがある。


 *


 ギルド併設のコロシアムにやって来た。

 もちろん教官のダールに会うためだ。

 以前モニカの転職講習をやってもらった禿マッチョだ。


「おう、久しぶり! お嬢ちゃんの調子はどうだ?」


 メイミーは答えずにヒールを使う。

 光り輝くダール。

 新しくできた傷がきれいサッパリ消えた。

 ダールが親指を上げて感謝すると、メイミーも同じく親指を上げて返した。


「相変わらずお嬢ちゃんの回復魔法はすげーな!」

「えっへん!」


 褒められたのがうれしかったのか腰に手を当ててふんぞり返るメイミー。

 ダールも腰に手を当ててふんぞり返ってなぜか偉そう。


「で、なんの用できたんだ? ラーゼルは嫁を囲いまくってるって噂を聞いたんだが『遊び人』にでも転職しに来たのか? ガハハハ!」


 ここはあえてスルー。

 渾身のギャグを俺にスルーされダールは悲しそうだ。


「受付嬢のコットンさんが元気がないんでどうしたのかと聞きたくて……」

「あー、コットンのことか」


 俺が全部話す前にダールが話し始めた。

 こういうところは話しやすい男だ。

 でも肝心なことは一切語らず。

 ダールも口を濁した。

 俺がしつこく聞くとやっと口を開く。


「なにがあったんだよ?」

「あいつ、やらかしたんだよ」

「やらかした?」


 なにをやらかしたというんだ?

 ダールは声を潜めて話し始めた。


「5連続未帰還だ」

「あちゃー」


 5連続未帰還とは、受付を担当した依頼の失敗が短期間で5回連続続いたこと。

 しかも冒険者が戻ってくることが無かった最悪のパターン。

 実力不相応の依頼票を持ってこられた時点で拒否すべきであった。

 それが5回も続いたのでは受付嬢として欠格者の烙印を押されたのに等しい。

 普通の冒険者ならそんな受付嬢は避けるようになる。

 コットンさんが冒険者たちに避けられている理由がなんとなくわかった。

 

 この状態になると大抵の受付嬢は仕事が満足に出来なくなり職場を去ることとなる。

 普通は未帰還が2度も続けば先輩受付嬢から指導なり説教を受ける。

 でもコットンさんの場合はいつも声を掛けてくれるラネットさんが休暇でいなかったからな。

 運が悪かった。

 俺はラネットさんにこのことを報告することにした。

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