後の英雄、女騎士の悩みを耳にする
「アリエスはBランクに上がったし順調に冒険者人生を
「それが……」
俯き突如涙をボロボロとこぼすアリエスさん。
どうしたんだ?
「私も……ついにレベル限界が来てしまったんだ」
「そうだったの?」
「うん……」
悲しい目をするアリエスさん。
「Bランクに上がってすぐのギルドカードの更新でステータスチェックをしたらわかったんだ」
「レベルいくつで上限が来たんですか?」
「41だ」
41か……。
中堅冒険者としてはかなり上の方だけど、さらにその上を目指すにはかなり物足りないレベルだ。
Aランク冒険者になるにはレベル50は必要。
たぶんアリエスさんの冒険者人生はBランクのまま終わることだろう。
まあ、俺から比べればずっと高いレベルなんだけど。
逆にそこまで上がったのにレベル50目前で限界が来てかなり悔しいんだろうな。
「Aランク迄上げて騎士団に所属するのが子どもの頃からの夢だったのに……」
そんな夢があったんだな。
親友のラネットさんはアリエスさんの落ち込み具合を見て掛ける言葉もないみたい。
俺は慰めの言葉を掛ける。
「僕なんてレベル限界が15なんですよ……経験値100倍のスキルを持っているのに」
「えっ?」
アリエスさんは目を丸くする。
「経験値100倍のスキルを持っていて、レベル限界が15?」
「ええ。冒険者を始めて2週間ぐらいで限界が来てそれ以来ずっと15のままなんです」
「なによそれ?」
「笑えるでしょ? あはは」
「うんうん」
間抜けな話を聞いてアリエスさんは大笑いだ。
今だと俺も笑えるが当時は毎晩涙で枕を濡らしたものだ。
俺の持っているスキルは経験値100倍のスキル。
天職の儀で数十年に一度出るか出ないかのこのレアスキルを持っていることがわかった時は皆大騒ぎだったね。
神官や冒険者たちに『神童』と持て
敵を倒すと経験値が100倍入り、パーティーを組んだメンバーにも5倍の支援効果まで付く優れもの。
パーティーの経験値が5倍って凄いよね。
一日戦えば一週間分近い経験値が入るんだから。
当然、熟練冒険者パーティーへの参加や有名冒険者チームへの加入依頼が殺到した。
でも、俺はすぐに相手にされなくなった。
経験値増加の支援効果はすさまじいものだが一つの欠陥がある。
経験値100倍のスキル効果は俺がレベル上限に達するまで。
レベル上限の15に達した途端効果が切れた。
支援効果の影響もパーティーメンバーがレベル15になるまで。
経験値支援効果目的で初心者パーティーに誘われもパーティーメンバー全員がレベル15に達した時点でお役御免。
大抵追い出される。
数えきれないほどパーティーを追い出されて、もうパーティーの追放には慣れた。
こんなのに慣れたくないけど。
ふー。
冒険者の間では『初心者育成請負人』との二つ名で陰口を叩かれている程だ。
それ冒険者じゃないじゃん!
冒険者ギルドの職員じゃん!
ラネットさんがいつもの話題を俺に振る。
「ラーゼルさん、そろそろあの話を受けてくれませんか?」
「あの話?」
なんの話か分かってる。
冒険者を辞めて冒険者ギルドの職員として就職する話だ。
でも確認の意味を込めて敢えて俺からは答えなかった。
するとラネットさんが『わかっているくせに』といった感じで見つめてくる。
付き合いの長い彼女は俺の心の中をお見通しだったようだ。
「冒険者ギルドの職員になる話ですよ」
「あー、その話ね」
結構前から、冒険者ギルドの職員にならないかとラネットさんから勧誘されている。
俺の経験値5倍の支援効果は初心者冒険者講習にうってつけだからな。
講習で初心者をみっちりしごけば短期間でレベルが15まで上がる。
それだけで、新人冒険者が初心者冒険者となり即戦力となるし、その後の事故死率も大幅に下がることだろう。
ラネットさんが酒場で俺の愚痴に付き合ってくれていたのも俺の勧誘が目的だったんだと思う。
勇者になる夢をもう少し見ていたかったので、ギルド勧誘の話は断り続けていた。
なにかの間違いでレベルの上限が解放し一流冒険者に返り咲く。
そして英雄に……。
そんな夢を見続けていた。
でも10年経っても夢のようなイベントには出会うことはなかった。
今回の事件で『冒険者を引退しギルド職員になるのもいいかな?』と心が傾きかけていた俺である。
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