後の領主、師匠から課題を出される

 バルト邸に着くと、綺麗に整列したメイド執事軍団と共にバルトさんとアリエスさんが待っていた。

 連絡とかしてなかったんだけどよく気が付いたな。


「あれだけのものすごい勢いで空を飛んで接近してくるものがあれば誰でもわかりますよ」


 バルトさんに連れられて俺だけ地下室へ。

 メイミーとモニカはアリエスさんとお茶会だ。

 バルトさんと初めてダンジョンに潜ったあの部屋だ。

 地下室のソファーに着くと師匠であるバルトさんはいきなり本題を切り出した。


「お嫁さんたちの育成は順調ですか?」

「レベルを少しばかり上げました」

「少しだけですか……。それはいけませんね」


 バルトさんは肩を落とす。

 明らかに失望した感じが顔から滲み出している。


「英雄を自称するぐらいだからもう勇者レベル、少なくともSランク冒険者レベルまで上げていると思いました」

「すいません」


 俺は平謝りだ。

 いきなり勇者レベルにしろとか英雄のハードルは高い!

 ここで師弟関係を切られたらラネットさんの期待を裏切ることになる。

 なんとか師弟関係はこのまま維持したい。

 そんな俺の意志に反して、バルトさんはため息をついた。


「仕方ありませんな。師匠からの課題です」

「課題ですか?」

「なにか目標がないとラーゼル君としてもやりにくいでしょう。まずはお嫁さんたちを強くしなさい」

「どのぐらいまで強くすればいいんでしょうか?」

「先ほどいったようにSランク相当まで上げるのです。出来ますよね?」

「はい! 頑張らせていただきます」


 Aランクがレベル50なので、Sランクと言えばレベル60相当だろう。

 多くの経験値が必要だけど、まあ俺の経験値支援効果があれば上げられないこともないだろう。

 とにかくやるしかない。


「期限は一か月。まあ、これだけの期間があれば余裕でしょう。あとで本当にSランクの冒険者になれたのか試験をするのでちゃんと育成してくださいね。師匠の私の顔に泥を塗るようなことだけはしないでくださいよ」

「もちろんです!」

「試験に合格したら、私の主催で結婚式を執り行いましょう。それと同時に貴族へとなる為の爵位の授与式も執り行うように手配しておきます」


 バルトさんは更に話を続ける。


「前置きはここまでにして、これからが本題です。精霊石を与えたのですからあの広大な領地を開発して大領主となってください。期限は5年です。出来ますよね?」


 大領主とは1万人を超える領民を有する領主の事。

 クレソンが人口5000人なのでその倍の規模だ。

 あれだけ広大な魔の森が浄化された今なら十分に可能だろう。

 むしろ問題は俺自身。

 平民が大領主になって問題が起きないかそっちの方が気になる。


「平民の俺が領主なんてつとまるんでしょうか?」

「このわたくしも元は平民でした。出来ないわけがありません」

「でも俺みたいな平民が突如成り上がったりしたら、今いる貴族たちに色々と言われそうで……」

「ご安心ください。もし平民を理由にケチをつける貴族がいれば、このバルト、師匠として全力でその性根の腐った貴族を叩き潰します」


 なんとも力強い言葉。

 そして笑いながらも殺意のこもった目。

 この人は本当にやりそうだから怖い。

 

「わからないことがあれば師匠として教えられることは何でも教えますので聞いてくださいね」


 前から気がかりになっていたこと。

 なんでバルトさんは俺が勇者とかたったときに助け舟を出してくれたんだろう?


「貴族の話じゃないんですが……。なんで英雄を騙っていた俺を弟子にしてくれたんですか?」


 思い切って聞いてみた。


「前にも話した通り、ラーゼル君の将来性を感じたのでね。私がエリアスさんをお嫁さんにしたのを見よう見まねでラネットさんをお嫁さんにしていたのには正直驚きましたよ」


 俺の将来性ってそこなのかよ!

 戦闘力とか立ち回りとかを評価してくれたんだと思ってた。

 でもよくよく考えるとバルトさんの前で一度も強敵と戦ってるところを見せたことが無いんだよな。

 よく考えればわかることだった。


「私が若かりし頃に世話をして頂いたアルティヌス家からラネットさんとのお見合いを申し込まれていたのでゆくゆくはラネットさんを私の第二夫人にしないとはいけないと思っていたのですが、ラーゼル君が結婚してくれて助かりました。私はラーゼル君と違い一人の女性だけを愛しくしたいのでね」


 遠まわしに女の子を囲い過ぎだと嫌味を言われた気がしたけど気にしない。


「では、話はこんな所で。ちゃんと課題を忘れずにやっておいて下さいね」


 応接間に戻ってきた俺たち。

 メイミーとモニカはいなかった。


「ラネットさんとメイミーさんを呼んできますので、お茶でも飲んでお待ちください」


 バルトさんがオーナーのレストランで出すように、本人が出向いて仕入れてきた紅茶らしい。

 かなり香りがよく心が落ち着く。

 あまりに落ち着いて、ここ最近の疲れで寝てしまいそうになるほどだ。

 師匠の家で居眠りしそうになるとは、俺はなにをやってるんだ。


 そこにやってきたアリエスさん。

 非常に申し訳なさそうにしている。


「ラーゼルさん、ごめんね。いまモニカちゃんとメイミーちゃんはレストランに行って食べてるの。もうちょっと待っててね」

「いえいえ」


 モニカの強い希望で、バルトさんと出会ったあのレストランに行って食べてるらしい。

 モニカが食いまくって店の食材を食いつくさなきゃいいんだが。

 バルトさんが迎えに行って、後で二人を連れてくるらしい。


「ラーゼルさん、ラネットと婚約おめでとうございます」

「いえいえ。アリエスさんこそ、バルトさんとの結婚おめでとうございます」

「祝ってくれるのね。ありがとう」


 アリエスさんは俺の横に座ると肩を寄せてきた。


「でもね、私、ラーゼルさんのことが本当は好きだったんです」

「えっ?」


 そんなの初耳なんだけど?

 ラネットさんと婚約したのを伝えたら「こんなの」呼ばわりしてたのに。

 あんなことを言ってたのに俺が好きだって?

 ありえない。


「羨ましかったのよ。ラネットがラーゼルさんと結婚したのが」


 そして突然、アリエスさんは俺の両頬を押さえる!

 現役の女騎士だけあってものすごい力!

 バルトさんの元でかなり強化されたのか、弱くはないはずの俺でも身動き一つできない!

 そして俺の顔をアリエスさんの方に力づくで向ける!

 なにをする気なんだ?


「好きです!」


 そして唇を重ねてきた。

 キスだよ!

 キス!

 あまりに唐突過ぎる!


「な、なにをするんです?」

「お願い! これを最初の最後にするから! すべてこれっきりで私の思いを忘れるから! 私と仲良くなってください!」


 ラネットさんは俺の膝の上にまたがり服を脱ぎ始めた。

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