新たなる領主の誕生

後の領主、師匠に会いに行く

 俺はドラゴンを倒し?一連の騒動を解決した。

 正確にはモニカが倒したんだけど、モニカは俺が育てたので俺が倒したといっても過言じゃない。

 たぶん、そう。

 違うかもしれないけど、そういうことにしておく。


 *


 もうなにも心配するようなことはない。

 俺の仕事はもう終わった。

 ラネットさんとの婚約も……。


 バルトさんのお土産の精霊石により、広大な魔の森が開拓地に出来る普通の森へと浄化された。

 一人娘のラネットさんと俺が結婚するとなれば、将来の大貴族となるのが約束された広大な開拓地を持つアルティヌス家を平民の俺が継ぐことになる。

 さすがに平民出の俺が大貴族になるとなれば、他の貴族たちが黙っておらず出自を問われることになるだろう。

 そうなればラネットさんにも迷惑が掛かる。

 幸い、ラットさんとは婚約状態で結婚はしていない。

 ここはラネットさんの幸せを祈りつつ、俺は身を引きここから静かに退場するのが双方にとって一番の幸せのはず。

 辺境の貧乏貴族ならともかく、大貴族の次期領主など俺に務まるわけもない。


 *


 その日、メイミー、モニカ、ビアンカに声を掛け、そっと屋敷から抜け出そうとした。

 ドアを開けようとするとラネットさんが俺の前に立ちはだかった。


「どこに行こうとしてるのです? ラーゼルさん!」


 ラネットさんに見つかってしまった。


「ごめん。婚約を解消しようと思う」

「婚約解消ですって! 私のなにが不満なのですか?」

「ラネットさんに不満なんてひとかけらもないです。ただ、大貴族の家を継ぐなんてことは平民の俺には出来ないから……。街に戻って冒険者を続けるよ」


 それを聞いたラネットさんは涙を流した。


「私が付いていてもダメなんですか?」

「いや、そんなことじゃなくて……ラネットさんはもっとふさわしい人と結婚した方がいいと思う」

「私はラーゼルさんじゃないとダメなの……」


 ラネットさんは崩れ落ちると俺のズボンのすそを掴み泣き崩れた。

 そんな彼女を置き去りにして屋敷から出るわけにもいかず……。

 気が付くと、アレンさんとボダニカルさんまで来てお願いされた。


「どうか娘と一緒に領主をしてください」

「娘に至らない点がありましたらわたくしたちも全力で協力しますので」


 どうやらご両親もラネットさんに説得されたそうだ。

 ここまで頼まれたんじゃ、やらないわけにはいかない。


「わかりました。ラネットさんを俺に下さい。必ず幸せにして見せます」


 俺はラネットさんの旦那と、アルティヌス領の領主となる決意をした。


 *


 その夜、ラネットさんが俺の部屋にやってきた。


「ラーゼルさん。この家を継いでくれると決意してくれてありがとう」

「いや、こっちこそ勝手に屋敷を抜け出そうとしてすいませんでした」

「これで私たちの結婚も認められたし……早く子どもが欲しいな」


 ラネットさんはそういうと服を脱ぎ生まれたままの姿となった。


「初めてじゃないんだけど……よろしくお願いします」

「おおう。こちらこそよろしく」


 俺たちはとっても仲良くなった。


 *


 翌朝。

 目が覚めると昨日のバルトさんの言葉を思い出した。


 そういえば、別れ際にバルトさんが来いと言っていたな。

 精霊石のお礼もちゃんとしないといけないし、一度顔を出すか。

 俺はもっそりと起き上がる。


「さてと、朝飯を食ったら出掛けるか」

「ん? どこに行くんだ?」


 そういったのはモニカ。

 よく見ると、メイミーもビアンカも俺たちのベッドの中に入ってきていた。


「な、なんでお前たち?」

「昨日の夜はだんなさまと仲良くなるのをラネットさんに譲りましたけど、ごしゅじんさまと寝るのは譲れませんから」

「ラーゼルと寝ると癒されるんだ」


 嫁たちに好かれるのは嬉しい。

 でも大きめのベットと言えど一つに5人は狭くね?

 遠慮がちなビアンカが足元の方でベッドから落ちそうになってるし。

 モニカが目をキラキラさせている。


「今日はなにをする? レベル上げか?」

「今日は用事があるのでレベル上げは出来ない」

「行かないのかよ。もっとレベル上げをして母上を一撃で葬り去るぐらい強くなりたいのに」

 

 お前は実の母親を殴り殺す気なのかよ。


「今日はなにをするんだ? 魔の森の開拓か?」

「いや、さっきも言ったとおりにバルトさんのとこに顔を出さないといけないんだ」


 それを聞いてラネットさんが顔を曇らせる。


「バルトさんのお屋敷ってサテラですよね? また5日ぐらい会えなくなるんですね」


 そこで得意げな顔をするモニカ。

 なにか案がありそうだ。


「なら私が連れて行ってやろう」


 *


 準備を済まし庭に出るとモニカが待っていた。


「ラーゼル、準備はできたか?」

「おう、バッチリだ」

「ところでなんてメイミーもいるんだ?」

「この前、どこぞのドラゴンが俺と旅したのが羨ましくて今回は着いてくるそうだ」

「まあ、いいか。落ちたら痛いけど我慢しろよ」

「落ちる?」


 不穏なことを口にするモニカ。

 俺の言葉に答えずに真っ赤なドラゴンに変身した。

 かなり小ぶりなドラゴン。

 とは言っても体高5メトルはあるのでワイバーンよりずっと大きい。


『ドウダ? 驚イタカ?』

「すごいです、本当に竜なのです」


 驚いた。

 始めてモニカの竜の姿を見た。

 そういえば、モニカって竜の子どもだったんだよな。

 帽子が真の姿と思ってたぜ。


『行クゾ!』


 モニカがはばたくと突風のように空を駆ける。

 馬車で丸二日かかった道程を、たった20分でバルト邸に着いた。

 ドラゴン凄いな。

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