後の領主、嫁が試合を始める
試験会場となったコロシアムを訪れた俺たちは目を疑った。
試合会場となるだだっ広い闘技場は魔力を込められた鉄柵で天井まで覆われている。
その周りには庶民に混じって特等席で貴族や大金持ちの観客が観戦していたのだ。
「これは……」
バトルアリーナ。
試験と聞いていたのに完全に興行と化していた。
バルトさんは自慢げに話す。
「どうです? これだけの観客の前で試験を行うのは? この短い日数でこれだけの人を集めるのは大変だったんですよ」
あまりにも観客が多くて緊張するというかかなりビビる。
モニカとヒーラは全く動じず手を振って大喜びだ。
「私を見にこれだけの客が来てくれたか!」
「これだけ客がいるんですから合格したら一人ぐらいはお祝いに食事会に呼んでくれるはずっす!」
「そうか、食べ放題が待っているのならば頑張しかないな」
「フフフフ!」
「フハハハ!」
二人して不気味な笑い声をあげていた。
バルトさんは話を続ける。
「多くの観客に君たちの実力を知ってもらった方がいいですからね」
俺たちの実力を見るだけならばわざわざ王都で試験を受ける必要は無かったしな。
考えればわかることだった。
歓声に交じって貴族たちの声が聞こえる。
「平民如きが英雄になろうとは……身の程を知れ」
「実力もないのに平民から成り上がろうとするのか。どうせまたやられてモンスターに食われるんだろうよ」
「今日の平民はどんな死にざまを見せてくれるのか楽しみだぜ」
平民への憎悪しかこもってない声が聞こえてきた。
メイミーは悲しそうな顔をしている。
「物凄く嫌な雰囲気です」
「俺も同じ気分だ」
ラネットさんも顔をしかめた。
「平民が英雄になろうとすると貴族たちに毛嫌いされるって話を聞いたことがあるが、まさかここまで酷いものとは思わなかった」
バルトさんが俺に諭すように話す。
「貴族になったとしてもこのような悪意を持った奴らと付き合わないといけないのです。ならば、ここで圧倒的な実力を見せつけてなにも言えないようにしてやろうじゃないですか」
そんな意図があって英雄試験を王都のコロシアムで行うことにしたのか。
なんとなくバルトさんの考えが見えてきた。
俺たちは闘技場の中央に進む。
バルトさんが俺たちの紹介をする。
魔力で拡声され、コロシアムの隅々まで声が響く。
「ここにおりますのは私こと『クオンタム・バルト』が後継者として手塩にかけて育てた弟子のラーゼルとその嫁たちであります」
『うおおおお!』
湧き上がる歓声!
俺が英雄であるバルトさんの弟子と知り、騒がない者はいない。
バルトさんは一呼吸置き、歓声がおさまるのを待って観客たちが耳を傾けるように仕向けてから話をつづけた。
「弟子をみなさまの前にお披露目すると共に公正である英雄試験の過程を見届けてもらい、みなさまに英雄を継げる実力があるのか見届けて頂きたいのです! まあ、堅苦しいことはここまでにして我が弟子とその嫁によるバトルをご堪能下さい!」
拍手がコロシアムを覆った。
そして檻に入れられたキラーフェザーが連れて来られた。
体長3メトルを超えていて予想以上に大きい。
これとメイミーが戦うんだけど、少し心配になる大きさだ。
そして司会がバルトさんからリングアナウンサーに変わった。
リングアナウンサーは観客の気分を煽り始める。
『第一試合はキラーフェザーだ! ここに連れてきたのはただのキラーフェザーじゃないぞ! 南方の辺境ダグラスト地方で7つの村を襲い住民を食らいつくした獰猛なモンスターだ! 我が国の優秀な騎士団でも、このモンスターを一人で倒せる者は数少ない!』
なんか、襲った村の数がめちゃくちゃ増えてる気がするんだが……。
盛り方半端ねー。
リングアナウンサーはメイミーの紹介を始める。
『対するはメイミー。弓をたしなむ英雄候補のラーゼルの嫁! しかも彼女は嫁の中で最弱だ! まずはラーゼルの最弱の嫁の実力を見せて貰おうじゃないか!』
メイミーが俺の胸の中に顔を
「多くの観客の前で何度も最弱といわれました……」
「よしよし、メイミーが強いことは俺が知ってるんだから気にするな。観客たちに実力を見せつけて見返してやれ!」
「はい!」
俺たちは闘技場の柵の外に出る。
メイミーと檻に入れられたキラーフェザーだけが残った。
試合開始が告げられる。
『レディー、ゴー!』
ゴングが鳴り、メイミーとキラーフェザーの試合が始まった。
檻の扉が開け放たれてキラーフェザーが飛び出してきた。
だが、直接メイミーに襲い掛かることは無かった。
自分の一番優位になる高空、つまり柵の天井へと飛び上がる。
そして急降下攻撃!
一瞬で地面に到達し、土ごとメイミーを掻っさらう。
激しく舞い上がる土埃!
そしてキラーフェザーは高空へと再び到達した。
「メイミーは?」
「後ろだ!」
ラネットさんのいうように避けていた。
土埃の中から現れたメイミー。
地面がえぐられた場所から5メトルほど離れた位置まで後退していた。
「メイミー、大丈夫か?」
「余裕です!」
ひとまずは安心と俺は胸をなでおろす。
必中のはずの自慢の攻撃を避けられたことに意表を突かれたキラーフェザー。
だが意表を突かれていたのは一瞬だ。
檻の天井を蹴り、すぐに再降下!
だが!
無数の矢がそれより早く襲ってきた。
メイミーが矢を放ったのだ!
避けたが大きな翼が災いして二本の矢が翼の羽根を檻に釘付けにする!
それを知らずに全力で降下しようとしたので翼の先端が千切れ痛みがはしる。
痛みはキツかったがその痛みのおかげで頭が冷静になった。
『地上の娘は矢を使い果たし、矢筒から矢を取り出している。今が絶好のチャンス! 勝負をかけるのならば今しかない!』
急降下するだけならば翼のケガは関係ない。
最大のチャンスとみたキラーフェザーは再び急降下を始める。
そして矢をつがえる前のメイミーを襲った。
キラーフェザーの目論見通り、メイミーが弓に矢をつがえる時間より早かった。
しかも逃げる時間さえメイミーは逃していたのだ。
メイミーはキラーフェザーの鋭い爪の薙ぎに襲われて宙に舞いあげられた。
勝負がついてしまった。
誰もがそう思ったんだが……。
「鳥に乗ってないか?」
「乗ってるな」
メイミーは地面を蹴り自ら飛び上がるとキラーフェザーの背に乗っていた。
『せ、背中に飛び乗られただと?』
今まで人間に背中を許したことなんてなかった。
しかも、こんな小娘に!
初めての経験に狼狽えまくるキラーフェザー。
だが一瞬で冷静さを取り戻す。
『このまま振り落とせばいいだけの話しだ!』
猛スピードで檻の中を旋回し、きりもみをする。
だが、まったく振り落とせない!
『なんで振り落とせない? どうなってるだ?』
それはそうである。
キラーフェザーよりもはるかに速いドラゴンに乗りなれているので振り落とせないのは当然である。
メイミーは弓に矢をつがえた。
そして頭へと狙いをつける。
『お、お前はなにをする気なんだ?』
当然矢を放つつもりだ!
『た、助けてくれ!』
メイミーは聞く耳を持たずに至近距離から矢を放ち頭を貫いた!
キラーフェザーは息絶え、そのまま地面に墜落。
俺は落ちてくるメイミーを受け止めた。
「よくやったな!」
「えへへ、がんばりました」
観客から歓声が沸き上がる!
リングアナウンサーも大興奮だ。
『うおおおー! これはすごい! すごすぎるぞ! あの獰猛なキラーフェザーをなんと30秒で倒したああ! これが英雄の最弱の嫁の実力だ! しかも僧侶だああ!』
それを聞いて観客たちが騒ぎ出す。
『僧侶なのかよ!』
『うおおお! すげー!』
『最弱の嫁がこの強さなら英雄はどれだけ強いんだ?』
観客たちは最弱の嫁のメイミーの勝利に酔いしれた。
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