後の領主、嫁の二戦目を観戦する
モニカがコロシアムに転がっているキラーフェーザーを見つめながら俺の服の袖をツンツンと引っ張る。
「あれの収納を頼む」
「また食べるのか?」
「うむ」
「食べ過ぎてお腹を壊すなよ」
続いてメイミーも俺の服の袖をツンツンと引っ張る。
「ごしゅじんさま、あのー」
「どうした?」
「あの鳥を食べたいのか?」
「ちがいます!」
頬を膨らませて怒るメイミーはかわいい。
思わずハグしたくなるが大勢の観客の前なので我慢だ。
焼き鳥を食べたいんじゃないなら、なんなんだ?
「頭を撫でてください」
なでなで。
目を細めて喜んでいた。
「大勢の観客の前でごしゅじんさまに撫でられると、ものすごく興奮します」
大勢の前で俺に頭を撫でられることで承認欲求が満たされたのか、息を「スーハースーハー」しててちょっと怖い。
メイミーとイチャラブをしているとバルトさんがやって来る。
「初戦はなかなかの滑り出しでしたね。2戦目の準備の方はいいですか?」
「次はどんな敵ですか?」
「今度は強敵ですよ雷狼ヴァナルガンド。神狼の末裔と呼ばれている魔族です」
魔族なのかよ。
だんだんと敵の強さがエスカレートしてきて怖いんだけど。
最終戦には神か悪魔のどちらかのとんでもない敵が出てきそうだ。
「第二回戦は二人のお嫁さんで戦ってください」
するとラネットさんが歩み出た。
「その試験、私一人だけで戦わせて貰えないでしょうか?」
バルトさんは心配そうに聞き返す。
「こちらとしては一人で戦ってもらっても構わないんですが、相手は強敵の魔族ですよ? 本当にいいんですか?」
「メイミーの大活躍を見せられた後だと一人で戦わないと領主の娘として見劣りしますからね」
「そこまで言うのならば……わかりました。死なないように頑張ってください」
ラネットさんの試合相手が連れられてきた。
体長7メトルの巨大な狼だ。
雷狼だけあって電気たっぷりで身体の毛が時々光り輝き小さな稲妻を放っていた。
リングアナウンサーが観客を煽り始めた。
『これは凄い! 大物の魔族の登場だああ! 雷狼ヴァナルガンド! 北方の魔の地を棲みかとしている雷狼族だああ! 剣で斬り付けると感電死するほどの電圧を身体に秘めているぞ!』
触れたら感電するの?
剣じゃ戦えないじゃないか。
『対するのはラーゼルの婚約者であり、魔の森の浸食から王都を食い止める辺境伯アルティヌス家の一人娘、ラネットだああ! 剣士であるラネットが斬りかかれば感電するヴァナルガンドとどう戦うのかが見ものだぞ!』
触れたら感電する敵が相手じゃ勝ち目がないじゃないか。
絶対に勝てるわけがない。
どうすんだよ?
ラネットさんにはなにかいい策があるんだろうか?
「策ですか? ありますよ」
ふー、よかった。
弓か魔道具で遠隔攻撃して戦うのかな?
「根性です! 根性で耐えきります!」
ちょっと!
それは策でもなんでもない。
単なる根性論じゃないか!
「だってそれしかないですよね? 痺れるって今さっき聞いたばかりだし、いきなり聞かされても対処のしようがありません」
「じゃあ、これを渡しておきます。危険な時に飲んでください」
「ハイパーポーションですか。ありがとうございます」
俺はラネットさんにハイパーポーションを3本ほど渡した。
*
『レディー、ファイト!』
試合が始まった。
『おっと! ヴァナルガンドがいきなり走り始めたぞ! 距離をとる作戦か?』
いや違った。
ヴァナルガンドはその場に留まらず、ラネットさんの周りを高速で移動する。
遠隔攻撃を避けるのと、死角から隙を狙って襲うためだ。
あまりにも早くて、残像が見える気がするほどのスピード。
目で追うのが大変なほどだ。
だがスピードならラネットさんも負けてはいない。
ヴァナルガンドを追いかける、いや追い越したぞ!
「その程度の速さで私から逃げられると思うなよ!」
『ちっ!』
ヴァナルガンドは走るのを止め、爪の攻撃に変更。
雷撃を込めた鋭い爪がラネットさんを襲う。
だがラネットさんはその爪を避けずに剣で受け止めた。
雷撃を込められているのに大丈夫なのか?
「こんな爪攻撃など! アベルベブバー!」
『おっと! ラネットは雷撃で痺れまくりだ!』
ダメじゃん!
思いっきり痺れてるし。
観客たちは大笑いだよ。
ブルブルと震え身体中から汗とか変な汁とか出ているし!
視線はあらぬ方向を向き、口からはよだれを垂らしてアヘ顔に。
これでダブルピースでもされたら完全に事後だ。
根性論で耐える作戦は完全に崩壊している。
あまりの痺れっぷりにヴァナルガンドは身体を震わして怯えていた。
いや、肩を揺らすほど笑っていた。
『あははは! 口ほどにもないんよ!』
電撃が終わり痺れから解放され、肩で息をするラネットさん。
かなり効いているようだ。
剣技だけでなく雷撃も使ったヴァナルガンドに全力で抗議だ。
「汚いぞ! 私が剣で挑んでいるんだから、お前も正々堂々と爪で、アベロベブバー!」
『あははははは、超うけるんよ!』
ヴァナルガンドはラネットさんを痺れさせるのを楽しんでいる。
ラネットさんは肩で息をするのと、痺れて身体中から変な汁を垂らすのを繰り返している。
まるで俺との事後のように汗だくで見ていられない。
『あんたに勝てれば私の望みが叶うんよ! だから絶対に負けるわけにはいかないんよ!』
「こっちにも旦那のラーゼルさんを英雄にするという目的があるんだから、絶対に負けるわけには、アブベロブバー!」
ヴァナルガンドよ、ラネットさんに最後までセリフを言わさせてやれよ。
『この辺りでとどめを刺すんよ。遊びすぎるたら負けフラグが立つんよ』
ヴァナルガンドは片手を掲げると最大最強の雷撃を放った!
『これで死ぬがいいんよ!』
『これはすさまじい雷だ! 今までの最大の雷撃だああ!』
辺り一面が真っ白に染まるほどの雷撃がラネットさんに落ちた。
脳天から足まで
やばい!
これは死ぬんじゃないだろうか?
体中からプスプスと音を立て香ばしい匂いまでする。
「ラネットさん、大丈夫か!」
『ラネットは耐えられるのかああ! それとも!』
だが生きていた!
身体は黒焦げだったがハイパーポーションを飲み即回復だ。
『なんで生きているんよ? あたしの最強の雷撃なんよ?』
「それは、根性です!」
『なんなんよ、それー!』
口をあんぐりと開けて呆然としているヴァナルガンドは切り伏せられた。
『うおおおー! ラネットがヴァナルガンドを切り捨てたぞおお! ラネットの勝利だあああ!』
なぜラネットさんは最強の雷撃を受けていたのに生きていたのか?
理由は簡単だ。
けっして根性で勝ったのではない。
何度も雷撃を受けて色々な汁を出しまくったラネットさんは汗だくとなり服を濡らした。
その結果雷撃は身体を流れずに汗だく汁まみれとなった鎧の下に着こんだインナーと下着に流れた。
結果として感電することはなかったのだ。
最初から最大の雷撃を使っていれば結果は違ったものとなっていただろう。
ヴァナルガンドは自分の力に溺れていたことを後悔しながらあの世へと旅立ったのだった。
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