後の領主、モンスター嫁たちの戦いを見届ける

 モニカはコロシアムで息絶えていたヴァナルガンドを指さす。


「ラーゼル、これの収納も頼む」

「これも食うのか?」

「うむ」

「狼なんて食べたら腹を壊さないか?」

「大丈夫だ、問題ない」


 ということだったが間違いなく腹を壊しそうなのでハイパーポーションとマナエーテルを3本づつ渡しておいた。

 モニカと入れ替わりに真っ黒になった顔を洗ったラネットさんが戻ってきた。


「ラーゼルさん、私は活躍できたと思いますか?」

「大活躍でしたよ」

「じゃあご褒美に……」

「ダメです!」

「なっ!」


 メイミーだった。


「まだなにも言ってないのに……」

「今夜は私が予約済みなのでごしゅじんさまは絶対に渡しません!」

「…………。私も頑張ったんだからハグぐらいいいだろ?」

「まだラネットさんは結婚してないんですからハグもダメです」

「くうっ!」


 やたら攻撃的なメイミー。

 今日はどうしちゃったんだ?

 ラネットさんがまだ結婚していないことを指摘されると涙目になっている。


「結婚はこの試験でラーゼルさんが英雄として認められないと出来ないんだ……」


 メソメソと泣き始めるラネットさん。


「泣くな! ハグぐらい何度でもしてやるから」


 俺はラネットさんを抱きしめる。

 チラッとメイミーの方を見ると泣いていた。

 しかもガチで泣いている。


 うは!


 これはマズイ。

 慌ててメイミーも抱きしめる。

 

「ご、ごしゅじんさま? いきなりどうされました?」

「もちろんメイミーも大切だからな」


 嫁二人を抱いているとバルトさんがやって来た。


「昼間からお盛んですな」

「いや、これは!」


 やべぇ、またイチャイチャしているところをバルトさんに見られた。

 慌てて二人を放す。

 バルトさんは慌てて取り繕う俺を見なかったかのように話を続けた。


「2回戦目も安定の勝利でしたね」

「領主の娘と言っておきながら地味な試合ですいませんでした」


 そう言ってラネットさんはバルトさんに頭を下げる。


「いえいえ、雷がバチバチと飛び交いかなり派手でしたよ」

「そういう意味じゃないんだけど……ラーゼルさんはどう思いました?」

「いい試合だと思います」

「そうですか」


 俺の言葉に満足したのかラネットさんは頬を赤らめてモジモジしている。

 あの試合はラネットさんがひたすら痺れてアヘ顔しているだけで地味だったな。

 あまり見せ場が無かったのは事実。

 でも、それを指摘するほど俺は子どもじゃない。

 ここは自然な感じでスルーだ。


「本当は5人のお嫁さんで戦ってもらうことを予定していたんですが、これだけの結果を残しているとなると三回戦は残りの3人のお嫁さんでいいですか? ちなみにその次はラーゼル君の試験となります」

「次の敵はなにになります?」


 モンスター、魔族と来たんで次は魔獣かな?

 なんて思ってたら……。


「魔獣『デッドリートータス』です」


 って、本当に魔獣が来たぞ!

 バルトさん、期待を裏切らなすぎ。

 悪い意味でなんだけど。

 モニカが次に出場するから魔獣でもどうにかなりそうな気がするけど、このコロシアムに魔獣なんて放ったら観客にも被害が出ないか?


「このコロシアムを覆っている柵は『魔道防護檻』という物で通常級の魔獣の攻撃ぐらいではびくともしませんし、いかなる攻撃も外に漏らすこともありません」


 それを聞いてホッとしたんだが、ラネットさんはそうでもないらしい。


「デッドリートータスなんですか? それはマズいですね」

「デッドリートータスってどんな魔獣なんですか?」

「異常に硬い甲羅を持つ巨大な陸亀で動きは鈍い。特技は硬質化のスキルだけで基本は踏みつぶし攻撃だけしかありません」


 なんだ、魔獣の割に大したことないじゃないか。

 距離を取ってビアンカの魔法で攻撃してたら余裕で勝てるんじゃね?

 楽勝だな。


「いや楽ではないです。あのコロシアムの中では避ける場所が限られてますからね」

「動きを先読みして避けないと駄目ということですね」

「それだけじゃないんです。硬質化の過程で蒸気を吹き出すんだけど、その蒸気の温度は500℃を超えるんですよ」


 ダメじゃん!

 そんな蒸気を食らったらモニカやヒーラはともかくビアンカは丸焦げだぞ!


「硬質化が始まったら距離を取れば問題ないんだけど、檻の中では距離なんて取れませんしね」


 しかもあの防御柵は攻撃を逃さないから、当然蒸気も逃さない。

 熱が篭もって大変な事になりそうだ。

 ここはビアンカは下げてモニカとヒーラだけに戦わせるべきなんだろうか?

 本人たちに聞いてみた。


「ビアンカは魔法が使えるからどうにかなるだろ」


 と、モニカ。


「それに硬質化を使う間もなく私が倒すから心配しなくていい」


 ということだった。


 *


 そして試験が始まった。

 コロシアムから地響きが聞こえる。


 ゴゴゴゴゴゴ!


『なんだ? この音は! 地響きは! うお! これは! コロシアムの地面が二つに割れてその中から巨大な亀の魔獣『デッドリートータス』が現れたぞ! この大きさは半端ない! コロシアムの面積のほぼ全てを覆う大きさだ! その巨体で10の村が踏み壊された凶暴な魔獣だ!』


 相変わらず盛に盛った情報を流すリングアナウンサー。

 それにしても大きな魔獣だな。


 コロシアムの檻の直径は80メトルぐらい。

 そこに50メトルを超える魔獣がリフトで地下から上がってきたのだ。

 ほぼコロシアムを埋め尽くされてると言っても間違いない。

 デッドリートータスはモニカたちを見つけるといきなり踏みつけてきた!

 ビアンカを抱えて飛び避けるモニカ。


「よしヒーラ! お前の毒であの亀をやっつけろ!」

「それは駄目っす!」

「なんでだ?」

「毒で倒したら食べられなくなるっす」

「それはマズいな。毒は封印だ、いいな?」

「了解っす!」

「モーちゃん、こんな状況なんだから食べることなんて考えないでよ!」

「でも、あの亀おいしそうだぞ。ヒーラ、ビアンカを頼む」

「了解っす!」


 モニカはヒーラにビアンカ託し、デッドリートータスの背に乗る。

 そして渾身の攻撃だ!


「どりゃー! くたばりやがれ!」


 カキン!

 モニカの拳撃が弾かれた!


「嘘だろ?」


 自慢の拳が効かずに狼狽えるモニカ。

 そこにビアンカの声が響いた。


「モーちゃん! 亀の甲羅は固いの」

「それぐらい知ってる」

「柔らかい足とか頭を攻撃して!」

「その手があったか!」


 本当に忘れていたらしい。

 モニカは巨大な尻尾にとりつくと、引っこ抜いた!


 ブチン!


「やったぞ! 残りも全部引っこ抜いてやる!」


 モニカが残りの足に取りつく。

 だが、デッドリートータスもバカじゃない。

 頭と手足を引っ込めた!


「うお! 甲羅に閉じこもったから攻撃できなくなったぞ!」

「再び出てくるのを待てばいいっす」

「そうか。じゃあ千切った足でも食べて待ってるか。ビアンカ、魔法でこの足を焼いてくれ」


 なんて悠長なことを言っていたら……。


「なんか、あの亀赤くなってないっすか?」

「すごい湯気が出始めたな」


 俺はモニカをどやしつけた!


「なにのんびりしてるんだよ! 亀が硬質化する蒸気だ。それを食らったらビアンカが焦げ死ぬぞ!」

「なんだと!」

「モーちゃん、私死んじゃうの?」


 震えるビアンカにモニカは胸を張る。


「私が守るんだから絶対にビアンカは死なせない」

「モーちゃん頑張って!」

「でも、この亀をどうやって倒せばいいんだ?」

「私を守るアイデアを全然持ってないじゃない!」


 そこにヒーラ。


「私に任せるっす!」

「任せて本当に大丈夫なの?」

「時間がないので私の言うとおりに動いて欲しいっす! まずはモニカさんは亀が出てきたリフトを壊してくれっす!」

「わかった!」


 リフトの金属板を引っぺがすモニカ。

 ドゴンと音がしてリフトが剥がされ大穴が出来た。

 穴に足を取られた亀が穴に落ちた。


「やったか?」

「でも蒸気はまだ止まってないよ」

「それでいいっす。次はビアンカっす。あの穴に魔法で水を注ぐっす! たぷんたぷんになるぐらい、たっぷり注ぐっす!」

「わかった! 『アクアライズ』!」


 どどどど!

 とんでもない量の水が大穴に注がれた。

 穴は水であふれそうだ。


「次はどうするの?」

「待つっす」

「待つの? 他になにかすることがあるんじゃないの?」

「ないっす」


 穴の水はぐつぐつと煮え立った。

 すると辺りにいい匂いが漂い始める。

 観客たちが騒ぎ始めた。


「なんだ? このいい匂いは?」

「とってもおいしそうな匂いがするな」

「ウミガメのスープみたいだ」


 デッドリートータスの蒸気でリフトの水が沸騰している。

 そして10分後、デッドリートータスの煮込みの出来上がりだ。


『うおおお! デッドリートータスを倒して料理してしまったぞ! これはおいしそうだ! 勝者はモニカとその仲間たちだ!』

『うおおお!』


 歓声がコロシアムを覆いつくした。

 モニカが俺の袖をツンツンと引っ張る。


「後で食べるんだな?」

「うむ」


 俺は大亀の煮込みを取り込んだ。

 観客たちが俺を見て大騒ぎだ。


「うおお! あの大亀が消えたぞ!」

「消えたんじゃない! アイテムボックスに取り込んだんだ!」

「あの巨大な大亀をアイテムボックスに取り込んだのか?」


 巨大なアイテムボックスを褒める歓声で俺は鼻高々だ。

 でも歓声はそれで止まらなかった。

 正確には歓声じゃなく罵声なんだが。


「あのおいしそうな大亀を独り占めする気か?」

「なんちゅう酷い奴だ!」

「試験で倒したんだから普通は観客にふるまう物だろ?」

「昼飯前に飯テロなんてしやがって、許せねー!」


 全観客から嫌われて、俺へのヘイトが爆上がりのデッドリートータス戦であった。

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