後の領主、英雄試験を受ける

 ベランさんと朝チュンを迎えた朝。

 ベランさんとの夜は熱かったぜ!

 正確に言うと暑苦しかったんだが。

 おっさんと二人で同じダブルベッドで寝るなんてレアイベントはこれからの人生の中で二度と経験出来ないだろうなというか、もうこんな経験は御免被る。


「そういうな、ラーゼルさんよ。俺だってそっち系の趣味は無かったから結構辛かったんだぜ」


 そういいつつ、ベランさんが大いびきを掻いて爆睡していたのは忘れない。


「でもさ、俺と寝れて幸運だったかもしれないぞ。今日は試験なんだろ? 朝まで嫁とイチャイチャしていたら寝不足で疲れ果てて試験に影響が出たかもしれんぞ。最悪の場合それが原因で不合格になった、なんてことになるかもしれん」


 確かにそれはあるな。

 王都に来たのは遊びで来たんじゃない。

 あくまでも試験を受けに来たんだ。

 試験の結果次第で俺の人生が大きく変わる。

 試験に合格できれば英雄としての実力を認められ後々貴族としても認められ、順風満帆な領主生活を始められる。

 だが万一試験に落ちでもしたら英雄となれず、貴族になるのは白紙へと戻る。

 当然ラネットさんとの婚約も無かったことに……。

 そうなればラネットさんとも別れ、大食らいな嫁を養うことも出来なくなりモニカとも別れ、メイミーもそんな不甲斐ない俺に愛想を尽かせて離れていくかもしれない。

 俺は以前のようにさえない冒険者に戻り、ずっと平民としての生活を続けないならなくなるだろう。

 今の嫁たちとの幸せな生活を手放したくない。

 そんなのは絶対にお断りだ!

 俺はなんとしてもこの地位と生活を守り続けるんだ!


 そんなことを考えていたら、バルトさんがやって来た。

 もちろんアリエスさんも一緒だ。

 彼女は前に会った時よりも垢抜けて高貴な貴族夫人としてのオーラを放ち始めている。

 バルトさんが早速要件を切りだす。


「おはようございます、ラーゼル君。朝食のご案内と今日のスケジュールのことをお話するためにやってきました」


 バルトさんと一緒に入ってきたメイド軍団が俺たちを着替えさせてくれて顔や髪も整えてくれる。

 俺たちはバルトさんに連れられて特別室にやって来た。

 特別室は貴族のお屋敷の食堂そのもので庶民代表の俺にとって居心地がすこぶる悪い。

 既に集まっていたメイミーの横に座る。


「ごしゅじんさま、ベランさんとの夜はどうでした? 私はごしゅじんさまが男の人と仲良くなっても気にしませんから……」


 メイミーを見るとなぜか涙目になって唇を噛みしめている。

 完全に誤解だから!


「ちょっ! そんなことしてねーから!」


 メイミーに男色と誤解されたら、俺の方が涙目になってしまう。

 バルトさんも席に着いた。


「うちの宿の朝食は気に入ってもらえますかな?」


 朝から食べきれない量の料理が並ぶ。

 どれも豪勢で朝食とは思えないしっかりとした料理。


「これは美味いっす!」

「早い者勝ちだから早く食べないと無くなるぞ!」


 ヒーラもモニカも大喜びで貪るように食っていた。

 どこでも大食いを貫くブレないモニカである。

 手が届かなかったのか机によじ登ってすごいテンションで食べているモニカをビアンカが必死に止める。


「モーちゃん、机の上に乗って食べるのははしたないから! 早く降りて!」


 こんな豪勢な食堂で大食いすんじゃねーよ!

 俺たちはみなドン引きだ。

 ラネットさんがさっきの言葉になにか引っかかることがあったのかバルトさんに聞き返す。


「先ほど『うちの宿』と言われていましたが、ここの宿はバルトさんがオーナーなのですか?」


 それにはエリアスさんが答えた。


「そうよ、ラネット。正確に言うとここは宿ではなくてクーちゃんが昔王都に住んでいた時のお屋敷なの」


 どうりで庭園が豪華すぎると思った。

 装飾品もバルトさんのお屋敷の雰囲気に似ているな。


「英雄を引退してから王都には殆ど顔を出さなくなったので、王都を訪れる賓客ひんきゃく用の宿泊施設として使っているのです」


 迎賓館みたいなものか。

 俺たちはとんでもないとこに泊まったもんだ。

 やばい、やばい。

 もし昨日の夜に女の子全員を集めてイチャイチャしていたら、この迎賓館の汚点として未来永劫みらいえいごう語り継がれることになるとこだった。

 バルトさんは話を元に戻す。


「本日の英雄試験ですが、場所はコロシアムで行います。時間は今から2時間後です」


 やはり試験の科目は実技試験だけだそうだ。

 スライムやゴブリンの種類とか答える英雄候補はシュールすぎるからね。

 しかも間違えたらめちゃくちゃ恥ずかしいし。

 学科試験が無くてよかったわ。


「英雄なんてものは頭でっかちなものには出来ませんよ。あくまでも力あっての英雄です」


 それには俺も納得。

 冒険者にも知識だけ飛びぬけてすごい奴がたまにいるけど、大成したのを聞いたことが無い。


「試験の相手は誰になるんでしょうか?」

「モンスターです」


 モンスターなのかよ?

 どこぞの流派の武闘家の実力者が出てきて模擬戦闘でもするのかと思っていた。

 モンスターじゃ手を抜いてくれるわけもなくて、ガチの戦いになるな。


「どんなモンスターなんですか? まさか災厄級のモンスターなんてことは無いですよね?」


 そんなの連れて来られてもバルトさんにしか倒せません。


「ははは。ラーゼル君も英雄の弟子を自称するのならば災厄級の魔獣ぐらい一人で倒せないと駄目ですぞ。うちのアリエスさんなら時間こそ掛かりますが災厄級ぐらい一人で倒せます」


 ちょっ!

 どんだけ嫁を強化してるんだよ!

 災厄級のモンスターを一人で倒せるってちょっとした国の軍隊並みの火力じゃないか!

 短時間でそこまで強くなるって、この夫婦怖い。


「さすがに災厄級の魔獣は王都まで連れて来られないので、キラーフェザーと戦ってもらいます」


 キラーフェザーだと?

 キラーフェザーとはランクAの6人パーティーで獰猛どうもうな鳥系のモンスター。

 その大きさはコカトリス並みで体高2メトル体長3メトル、鷹に似ている鋭い爪とくちばしを持つ飛行系モンスターだ。

 屈強な戦士でも背後からの急降下攻撃を食らえば、掴みあげられて高空から地面に叩きつけられ瀕死になるという凶悪な技を使う獰猛なモンスターだ。


「しかもただのキラーフェザーじゃなく、このバルト自らが捕まえてきた生きのいい個体です。先月も村一つを滅ぼしたらしいですよ」


 ちょっ!

 そんな強敵を試験相手にしちゃダメだろ!

 でも、まあ、こっちは6人だ。

 うまく連携を取れれば十分に勝ち目がある。

 さっそくみんなで作戦を相談だ。

 そう思ったんだが……。


「キラーフェザー戦では一人で戦ってもらいます。お嫁さんを一人出してくださいね」

「一人ですって?」


 村を全滅させたような強敵相手に一人だと?

 これはキツイを通り越してヤバイんじゃないのか?


「ええ、一人で戦ってもらいます」

「そんな、無茶な!」

「英雄の嫁なら、これぐらいの敵は一人で倒せないと仕事で留守中の英雄の家を守れません」


 まいったな。

 誰を選べばいいんだよ?

 ここは俺たちの中で総合力が一位のラネットさんか、火力だけはぶっとんで最強のモニカのどちらかだな。

 ラネットさんに相談してみた。


「嫁を対戦相手に指定してきたのを見ると、今回の試験はこの一試合だけで済む気がしない。そうなると最大火力のモニカの出番はとっておいた方がいい」

「そうですね。じゃあ初戦はラネットさんにお願いします」

「わかった」


 すると声を張り上げる者がいた。


「ごしゅじんさま、私にやらせてください! 私もごしゅじんさまのお役に立ちたいのです!」


 メイミーだった。


「私なら弓を使えるので空を飛ぶ敵相手に有利です」

「相手は相当強いモンスターだぞ? 大丈夫なのか?」

「弓だけじゃなく魔法も使えるので大丈夫です」


 そう自信満々に胸を張るメイミー。

 ここまで自信満々だと断るわけにもいかない。


「わかった。キラーフェザーはメイミーに任せた」

「やった!」

「でも一つだけ約束だ。俺がダメそうだと判断したら即棄権するからな」

「はい!」

「お前を失うわけにはいかない。俺の大切な人だから……」

「ご、ごしゅじんさま!」


 メイミーは涙を流すぐらい俺の言葉に感動していた。

 キラーフェザーはメイミーが戦うこととなった。

 頑張れメイミー!

 キミならきっと勝てる!

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