後の領主、試験を受けに王都に向かう

 翌日、セージの町とパセリの村の建物の移設を始めた。

 俺とモニカが家の運搬。

 残りの仲間とクローブの町の住人で、切り株を引っこ抜いたり岩を片付けたり地面をならしたりの移設予定地の開拓だ。


 この移設には面白い仕掛けをほどこした。

 移住してきた住民たちが新たな土地にきて不安になるのを防ぐために、元の街並みをそのまま再現したのだ。

 しかも家や店の建物もそのまま。

 さすがに井戸の移設は出来なかったが新たに掘り起こし、再現度はかなりのものだと自負する。

 このアイデアを出したのはビアンカだ。

 「元の家を設置するなら街並みも再現したら面白そう」とのことで始まったこの案にみんなかなり興味を持った。

 

「町をそのまま移設か。これは面白い」

「セージの町の住人たちは間違えて自分の町に戻ったんじゃないかとビックリするぞ」

「絶対に腰を抜かす奴も出てくるな」

「どんな顔をするか楽しみね」


 要するに規模が半端なくデカいドッキリ企画だ。

 クローブの住人たちはノリノリで開拓をしている。

 娯楽の少ないクローブの住人たちにとって町の再現はとても大きなお祭りとなった。


 *


 俺は何度も往復し家や建物を移設。

 丸一日掛け、多少のズレはあるもののおおむね元の町の再現が出来た。


「こりゃすごい!」

「おいらが別の町に旅行したような気分だ!」

「町の名前は『セージ』でいいのかな?」

「やっぱり、セージそのままだと混乱するから名前は変えたほうがいいな」

「それだとややこしいから『ニュー・クローブ』の方がいいだべ」

「町の名前は住民が来てから決めたほうがいいかもしれません」

「でもよー。『バイバイン・タウン』とか『プルンプルン・タウン』とかつけられたらヤバくねーべか?」

「自分の町にそんな名前をつける奴なんていねーよ!」


 アレンさんを中心に街の有志があつまって町の名前であれやこれやと議論をしている。

 あとはアレンさんや住民たちに任せて俺と嫁は新しい町を後にした。


 *


 俺たちにはやらないとならないことがある。

 バルトさんから課されたテストだ。

 王都に行き、俺たちの実力を審査できる人の前で実力試験をしないといけない。

 たぶん学力試験なんてものはなくて、魔力測定や攻撃魔法、剣技などの実技を披露することになると思う。

 場合によってはモンスターとの戦闘なんてものもあるかもしれないが王都に連れて来れる程度のモンスター相手なら問題ないだろう。

 

 日が落ちてからバルトさんに指定された宿に向かう。

 その宿は、宿というよりもホテルに近い豪華さだった。

 建物が密集している王都の中なのに広い庭園が備えられている。

 なんという豪華な宿だ。

 部屋に入ると豪華な装飾品で飾られていて庶民代表の俺は落ち着かない。

 宛がわれた部屋はツインルームなので誰が俺と寝るかで揉めた。


「ねえ、ラーゼルさん。私はラーゼルさんと一緒に寝る機会があまり無かったので、せっかくのホテルだし今夜は一緒に寝させて貰えないかしら?」


 ラネットさんが熱い目をして俺を誘ってくる。


「ダメです!」


 メイミーだった。


「ごしゅじんさまは私を大事にしてくれると約束してくれたので今日も一緒に寝ます」

「でも、メイミーちゃん。あなたは昨日もラーゼルさんと寝てたわよね」

「昨日は昨日、今日は今日なんです」


 二人で揉めてる間にやって来た者が……。

 モニカだ。


「ラーゼル、今日は一緒に寝ようぜ!」

「あー、モニカさんずるいっす。私も嫁にしてもらったのに一度も抱かれてないので今日は私の番っす!」

「私も全然なのでタマには……」

「じゃあ、三人で一緒でいいな」


 うなずきあう3人。

 そこに猛反対するのはメイミー。


「なにわからないことを勝手に決めてるんですか! ご主人様は今夜私と寝るんです!」

「まあ、まて、ここは公平にジャンケンということで……ラーゼルもそれでいいよな?」


 ラネットさんが助けを求めるようなウルウルとした目で俺を見つめる。

 このままでは絶対に自分の出番は無いと悟ったラネットさんはジャンケンによる五分の一の確率に賭けようとしてるのだった。


「まあ、それが一番公平かな」


 ということでジャンケンで相手を決めることになった。


 *


 そしてその夜、俺と一緒に寝る相手のジャンケン勝負の勝者は……。


「なあ、ラーゼルさん。なんで俺たち同じベッドの上で一緒に寝てるんだ?」

「さあ? 俺にもわかんないです」


 一緒に寝たのはベランさん。

 もちろん普通に寝ただけで、目くるめく世界に踏み込んだりはしてない。

 断じて!

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