後の英雄、サビアとダンジョンへ潜る

 エレネスとダンジョンに潜ることにした。

 もちろん目的は潜在経験値。

 アイテム目当ての金策ではないので敵はなんでもいい。

 潜ったのはサテラの街から歩いていけるバニラのダンジョン。

 11階層と比較的浅く、特に目ぼしいアイテムをドロップする敵はいない。

 表層で初心者が経験値目的の狩りをしているだけで、5層以上は狩りをしているのをほとんど見かけたことがない。

 ほぼ貸し切り状態なのがこのダンジョンを狩場に決めた理由だ。

 他のパーティーとの取り合いを避けるために無理に深い階層を潜らなくて済む。


 俺が拠点にしているサテラの街はバニラのダンジョン攻略のために作られた宿場町が始まりだ。

 初めはバニラのダンジョンしかなかったのだが、冒険者が増えるとともにその冒険者を食らうかの如くサテラの街の周辺に次々とダンジョンが出現。

 気が付くと大陸有数のダンジョンの探索拠点として栄えていた。


 エレネスは俺の思っていた以上に強かった。

 戦士だが大ぶりな大剣や両手斧は使わず身軽な短剣の両手持ち。

 まるで速度で倒す盗賊のようなスタイルだ。


「仲間に回復を頼っていたら命がいくつあっても足りないからな。一人で先手必勝一撃必殺、これが私のスタイルだ」


 俺の見立て通りレベル25パーティーのケイロス3人よりもはるかに強かった。

 ケイロスたちが苦労して倒していたケーブクローラーを一撃で倒す。

 完全に雑魚扱い。

 しかもノーダメージで倒し続けていた。

 まあ、今の俺もステータスが激増したのでケーブクローラーならば完全に雑魚だ。

 エレネスはやたら感心していた。


「レベル15の割にはなかなかやるな!」

「お前もレベル42のわりには相当なもんだぜ」


 互いをたたえあう俺たち。

 俺はずっとソロで冒険者をしてきた。

 パーティーに入っても俺はゲスト扱いで仲間としては見てもらったことがない。

 互いを尊敬しあえる仲間とこういう冒険がしたかった。

 いつしか俺はエレネスをサビアというよりも冒険の友として見ていた。


「買ってよかったろ?」

「ああ、大当たりだ」


 戦闘能力については間違いなく大当たりだ。

 ただ、エレネス自体が本当に大当たりかはまだわからない。

 エレネスがリターナとなったのは主人による性暴行にブチ切れたのが原因。

 でもサビアとなった原因は違う。


『故意によるパーティー全滅』


 仲間を見殺しにしたのがサビア落ちした原因だ。

 それも一度ではないので偶然ではない。

 故意と判定されるぐらいの回数を繰り返してのことだ。


 もしかすると俺はエレネスに殺されるかもしれない。

 エレネスを買ったときに危険な女なのは十分承知している。

 でも、彼女以上の戦力になるサビアがいなかったので選択肢はエレネス以外になかった。

 それにこのダンジョンなら置いてきぼりにあっても生き延びられる自信がある。

 エレネスに襲われたとしても逃げきれる自信もある。

 万一俺が死んだら契約の護符を交わしているのでエレネスも死ぬ。

 少なくとも今は問題は起こらないだろうなという楽観的な見込みもあった。


 *


 一日目の夜。

 狩りは予想以上に順調で予定の5層を超え10層に到達する。

 潜在経験値集めも順調で予定の半分の潜在経験値が貯まった。

 残り半分、大きなトラブルに合わなければ期限までに十分貯めることが出来るだろう。


 俺たちは焚き火を起こし、キャンプを設営する。

 キャンプではエレネスと一つのテントで寝ることとなった。

 女の人と一つのテントで寝るのは初めての経験だ。

 今回の狩りの支度の時、テントを二つ用意しようとしたら「アイテムボックスの魔力維持がキツイから一つにしろ」とエレネスに止められた。

 それに『サビアと主人が一つのテントで寝るのは当然だ。それに無理やり私を襲うつもりはないんだろ?』と、信頼しきった目で見られたのもある。

 さすがにそんな目で見られたらいくら魅力的な肢体の持ち主でも襲うわけにはいかない。


 見張りは『哨戒の護符』に任せ寝ることにした。

 万一敵がやってきても20万ゴルダもした『結界の護符』も使っているので破られることもないだろう。


 でもな。

 やはりというか、全然寝れない。

 綺麗な女の人が横に寝ていたらドキドキしまくり。

 寝れる方がおかしい。

 かといって下手に手を出したら何をされるかわからない。

 きっとエレネスのことだ。

 従順の首輪が付いていようが契約の護符で死のうが俺に反撃してくるだろう。

 サビアに好き放題出来るのは性的サビアだけの話で、戦闘サビアにするのはチャレンジャーだけだ。

 それにしても惜しい。

 目の前にとてもおいしそうな料理がいい匂いを奏でているのに食べられない。

 そんな感覚に近い。

 俺のサビアなのに……悔しい。

 まあ、今は我慢。

 そのうち信頼関係が結べたらガッツリと食べたいと思う。

 エレネスもまだ寝てないようなので横になりながら話をする。

 俺が気がかりだったこと。

 なんでパーティーメンバーを全滅させまくったかについてだ。


「別に全滅させる気なんてなかったんだよ」

「じゃあなんで、何度も全滅したんだ?」

「気が付いたら逃げていたんだよ」

「逃げた?」

「ああ、私だけ置いてきぼりさ」


 まるで、ケイロスに置いて行かれた俺みたいだな。


「私はどうしても強くなりたくて焦っていた。だからボスを倒してお宝が欲しかったんだ。命を天秤にかけてギリギリ行ける深い階層にガンガン潜っていたら金策したいだけのパーティーメンバーたちと意見が対立してな。朝起きたら私を残してメンバーたちが消えていたって話さ」


 仲間の装備を多数所持していたのにも理由があった。

 逃げたものの主戦力のエレネスを欠いたパーティーではモンスターを倒せなかった。

 当然負けて屍と化した。

 金になりそうな装備が転がっていたので回収した。

 ただそれだけの話だった。

 でも、一つだけ腑に落ちない点がある。

 逃げられたのは一度だけじゃないという過去。

 そんな何度も逃げられることなんてあるのか?


「そうなんだ。三度も連続で逃げられた」

「そんな偶然、あるのか?」

「あったんだから仕方ない。大方、逃げたのは私の悪い噂を聞いていたんだと思う。ギルド職員に弁解しても誰も信じてもらえなくてな」

「でも審判の宝珠を使えば嘘か真実かわかるだろ?」

「私に掛けられた呪いのせいで、宝珠は使えないんだ」


 過去を思い出し怒りを顔に浮かべるエレネス。


「呪いって?」

「ちょっと過去に色々とあってな……」


 どうやら触れられたくない過去があるようだ。

 俺はここで話を止めることにした。

 目を閉じて寝ようとしていると、エレネスがポツリとつぶやく。


「お前は前の主人みたいに無理やり襲ってこないんだな……」

「襲えるわけないだろ」


 もし襲ったら命が無くなるんだし。


「お前なら私を力でねじ伏せて好き放題に出来ると思うぞ」


 いやいやいや、エレネスさんを力でねじ伏せるとか絶対無理だから!

 でも、待てよ?

 もしかしてさそってるの?

 襲っちゃっていいの?

 でも、騙されないぞ!

 その言葉を信じて襲ったら絶対に反撃してくるよな?

 レベル15の俺じゃいくらステータスが高くてもレベル差で間違いなく負ける。

 間違いなくぼこぼこにされて半殺しだ。

 ハニートラップに近寄らずに完全回避してきた童貞歴=年齢のこの俺様をなめんなよ。


「いや、今日はやめとくよ。お前を物として扱いたくないし、無理やりとか好きじゃないし。それにお前のこともよくわからないし」


 エレネスはそれには返事はしなかったが心の中で思った。

 サビアを買う奴なんてみんなゴミと思ってたけど……。

 隙を見せても襲ってこないんだな。

 思った以上にいいやつかも。

 エレネスの中で好感度爆上がりのラーゼルであった。

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