後の英雄、サビアを買うことにした

 確かアリエスさんの現在レベルは41。

 当然レベル上限も41である。

 50まで上げるには結構な量の経験値が必要だ。

 今の俺はステータスが上昇しているのでケイロスたちが倒していたレベル25のパーティー向きの経験値単価の高い敵でも余裕で倒せるだろう。

 ただ、稼ぐ必要のある潜在経験値の量が半端ないので経験値100倍スキルを持っている俺でも一人では数週間掛かりそうだ。

 そのことを相談するとバルトさんがほほ笑む。


「そんなことを心配していたのですか。戦力が足りないのならばお金で買えばいいじゃないですか」


 バルトさんはここ数日で集めた素材の売却予定価格の半分を俺に渡す。

 4000万ゴルダ?

 なにこれ?

 ありえないんだけど?

 10年ぐらい贅沢して遊んで暮らせそうな金額だ。


「そのお金で生きのいい戦闘サビアを買ってみてはどうでしょうか? 知り合いのサビア商を紹介しますよ」


 サビアとは犯罪や借金で市民権を剥奪され、道具として売られている者たちの総称だ。

 バルトさんは俺に紹介状を渡す。


 『宵闇よいやみのフェアリー』


 なんとなく如何わしい匂いのする店名だ。

 フェアリーってとこがどう見ても風俗店。

 まあ、でも。

 紹介されているのに断るのも悪いので店に行くだけ行ってみよう。

 

 *

 

 そしてやってきたサビア商。

 俺の予想通り思いっきり見た目が風俗店だった。

 入り口にはネオンみたいな看板もあるしね。

 見た目重視の綺麗な女の子ばかりを取り扱うたぶん夜のお供向けのサビア商なんだろう。

 今は昼だからそれほどでもないけど、夜になったらネオンが光り輝き怪しさが半端ない。


「いらっしゃいませ」


 出迎えたのは20前後の若い店員の女性。

 薄着じゃないのにいやらしさが半端ない。

 歓迎の言葉を口にしつつも舐めるように俺を見つめ客か冷やかしか見定める。

 まあ、サビアを買えるとは思えない粗末な身なりだから疑いの眼差しで見られても仕方ないっていえば仕方ない。

 サビアを買うほどの金を持ってる見た目じゃないしな。

 バルトさんの紹介状を渡す。

 中をあらためた途端に態度が急変した。


「これはバルト様のご紹介のお客様でしたか。大変失礼いたしました」


 担当が店主の婦人と変わり、俺は奥の部屋に通される。

 バルト邸に負けず劣らず豪華なインテリアの部屋だ。

 庶民の俺にはものすごく居心地が悪い。

 

 すぐにサビアが連れてこられた。

 5人だ。

 すべて成人になりたての若い女。

 そして全員がとびっきりの美人。

 布面積を極限まで少なくした服というかどう見ても紐としか思えない服を着ている。

 ある者は自分の自慢のボディーを強調させる姿勢を取り、ある者は恥ずかしそうに身体のラインを隠す。


「この者たちは私の一押しの娘たちです。すべて生娘で夜の生活も充実することでしょう」


 店主に似顔絵入りのプロフィールの書いてある書類を渡された。

 全員処女とのこと。

 パラパラと書類をめくるがどれも戦闘向きとは思えず。

 みんな綺麗で優しい目をしていて一緒にいたら楽しい毎日を送れそうだけど、俺が今買いに来たのは戦闘サビアだ

 もっと刺すような目つきをしたサビアが欲しい。


「いかがでしょう、お客様」

「すまないな。俺が欲しいのは夜のお供じゃなく戦えるサビアなんだ。戦闘サビアを見せてくれないか? とにかく強いのを」

「これは失礼いたしました。バルト様のご紹介なので……勘違いをしました。すぐにご用意します」


 性的サビアを買いに来た客と間違われるって……バルトさんこの店で何やってるの?

 すぐに新たなサビアが連れてこられた。


「これがうちで一番強い子たちです」


 獣人が連れてこられた。

 すごい強そう!

 こりゃすごいね。

 でも……。

 たしかに強そうなんだけど、この子たち言葉通じるの?

 牛みたいなのとか、熊みたいなのとか。

 四つん這いでやってきた虎みたいなのまでいるし。

 言葉じゃなく唸り声を上げていて猛獣そのもの。

 強さは半端なさそうだけど、反抗されたら止める自信がない。

 即、事故死コースだ。

 これは無理。

 チェーンジ!


「もう少し人間ぽい人はいませんか?」


 再び書類の束を渡される。

 なにこれ?

 どのページを見ても猛獣さんしかいないんですけど?


「うちで扱っている戦闘サビアというとコロシアム用の猛獣ばかりで……」


 いま猛獣って言ったよね?

 それ女の子じゃないよね?

 渡された書類の中で一人だけ人間タイプがいた。

 褐色の肌と紫色の髪を持つ異国を思わせるエキセントリックな娘。

 顔付きも凛々しく目付きも鋭くかなり強そう。

 そうそう、俺が求めていたのはこんな感じのサビアだよ!


「この娘を見せてくれ」

「この娘はお勧めできませんが……」

「そこをなんとか!」


 金貨袋を見せびらかして強めにお願いするとその娘を連れてきた。

 ただし、鎖でぐるぐる巻きにされている。

 なんで鎖?

 おまけに逃走防止用の護符みたいなのが何枚も張られてるし。

 会話が成立するだけで、ヤバさは牛娘と同レベル。

 むしろ牛娘が可愛く見えるレベル。

 鑑定の指輪を使い能力を覗き見する。


 名前:エレネス

 ジョブ:戦士

 レベル:42/42

 HP :763/763

 MP :78/78

 攻撃力(ATK):432

 耐久力(DEF):386

 魔法力(INT):48

 幸運度(LUK):48

 スキル:不明


 レベルは42で上限だったが、能力はレベル50越えといったところ。

 この書類のサビアたちの中で一番強かった。

 俺よりもレベルが高いのでスキルまでは鑑定出来なかったが戦士なので多分剣技系のスキルだろう。

 戦士系のステータスなのでレベル以上に実力を発揮しそうな感じだ。

 でもなんで鎖でぐるぐる巻きにされてるの?

 なにをしたらこんな扱いになるの?

 ちょっと怖いんですけど。


「この娘はなぜにこんな拘束を?」

「強いのですが、リターナでして」

「リターナ?」

「問題を起こして出戻りになったサビアです。値段はかなりお安い上に、近いうちにコロシアムの最終ボスとして売却することにしているぐらいの強さなのですが、性格に問題があるのでおすすめはしません」


 俺は渡されたプロフィール書類を見る。

 エレネス。

 26歳。

 元冒険者でパーティ―リーダー。

 職業戦士。

 全滅して死んだ仲間の装備を多数所持していたとのことで、故意による全滅と犯罪認定されサビア落ちした。

 一度サビアとして売却されるが、主人に暴力を振るいリターナとなる。

 近々コロシアムに売却処分予定。

 俺は彼女に質問をする。


「なんで主人に暴力を振るった?」

「弱いくせに無理やり私を襲ってきたからだ」

「襲うって?」

「決まってるだろ! 性的にだよ!」


 店主のコメントが入る。


「主人に暴力を振るわないように従順の首輪で拘束していたんですが、身体あらための儀でそれを引きちぎって暴行を働いたようです」


 身体あらための儀って買ってきたサビアを味見するあれか。

 まあサビアといえど合意もなく無理やり襲う主人の方が悪い。

 それにしても従順の首輪ってものは簡単には壊わすことが出来ないはずなのに、それを壊すってどれだけの怪力なんだよ?

 おまけに壊すときに激痛が走ると聞いたんだけど、それでも壊したの?

 半端ないな。

 どんだけバイオレンスなんだよ。

 戦力として十分期待出来るのは間違いない。


「俺がお前を無理やり襲わなければ、暴力は振るわないか?」

「もちろんだ」

「俺が死ぬとお前にも死がもたらせられる契約の護符を結んでもらうが構わないな」


 エレネスは頷く。


「俺のために戦ってくれるか? 三日以内に依頼人のレベル上限を41から50まで上げるだけの経験値を稼がないといけないんだ。出来るか?」


 それを聞いたエレネスは目をギラつかせる。

 俺はとんでもない失言をしていたことにこの時気が付かなかった。


「もちろんだ! お前のために全力で戦うことを誓う」

「よし、お前を買う」


 俺は代金の100万ゴルダを支払いリターナの娘を買った。

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