後の英雄、バルトの願いを知る

 バルトさんは今まで隠していた願いを語り始めた。


「ラーゼル君にしてもらいたい願い。それはレベル上限を上げてもらいたいのです」


 レベル上限上げ?

 そんな願いでよかったの?

 絶対に犯罪まがいというかモロ犯罪行為と思っていたんだけど……。

 でも契約の護符にその点は書いてあるからあるわけがないか。


 やはり冒険者を引退してるとはいえバルトさんもレベル上限を上げたいんだな。

 きっと冒険者に戻り咲き、更なる栄光を掴みたいんだろう。

 でもその程度の願いなら今まで隠す必要もなかったんじゃないの?

 さっきの背筋の凍るような鋭い目付きはなんだったんだ?


 うーん。


 でも、まあ、子どもをさらって来いとかのヤバい願いじゃなくてよかった。

 早速バルトさんのレベル上限を上げる作業を始めようとする。

 でも、他人のレベル上限を上げるにはどうすればいいんだろ?

 俺は数日前までへっぽこな底辺冒険者だったんだぞ。

 そんなことがわかるわけもない。


「他人のレベル上限を上げる方法ですか。簡単なことです」


 バルトさんは金庫からアイテムを取り出す。

 宝珠だ。

 きれいな布に大切に包まれていることから察するに、これも激レアアイテムなんだろう。

 あの金庫にはいったいどれほどのレアアイテムが詰まってるんだ?

 それほど大きくはない金庫だが、王家の宝物庫に眠るお宝の価値を超えるのは間違いなさそう。


「以前ダンジョンから出土したステートプッシャーにこのレアアイテム『アウエイカー』を使うのです」


 アウエイカー。

 それは魔道具に眠った本来の能力を引き出すレアアイテム。

 1ランク上の魔道具へと進化させることが出来るとのことだ。


「これを使えばステートプッシャーの眠っている力を呼び起こせるのです」


 こんな魔道具まで用意されていたのか。

 バルトさんはどれだけ用意周到なんだ?

 俺は渡されたレアアイテムを使ってみる。

 するとステートプッシャーは光り輝き新たな魔道具へと進化。


「予想通り『バフアダー』の指輪に進化しましたな」


 バフアダー。

 今までは敵の行動を阻害する悪効果のみを押し付けることが出来た。

 だがバフアダーに進化した今は悪効果だけではなく自身の持つ良効果を味方に渡すことが出来ようになった。


「レベルリミットブレイカーの効果をバフアダーを介して送り込めば、相手のレベル上限を上げることが出来るのです」


 魔道具は組み合わせて使えば単体以上の効果が生まれるのか。

 なるほどな。

 それにしてもよくこんな組み合わせに気が付いたな。

 バルトさんはダンジョンのボス前部屋に飛ぶことが出来るトレジャースティックを手に入れたことで超一流冒険者となり貴族まで上り詰めた。

 そこまで到達するには色々な魔道具を組み合わせて普通の人では実現できないことを可能にしてきたんだろう。

 それがバルトさんの才能だ。

 俺がトレジャースティックを手に入れてもアイテムの組み合わせに気が付くこともなかっただろう。

 宝箱から出たアイテムの売却益で小金持ちにはなれただろうが、超一流の冒険者にはなれたとは思えない。

 俺はバルトさんの才能に尊敬の念を抱いた。

 

 早速バルトさんのレベル上限を上げることにする。

 するとバルトさんから静止が掛かる。


「待たれい!」

「え?」

「レベル上限を上げて欲しいのは私ではない」


 え?

 そうだったの?

 冒険者に返り咲きたかったんじゃないの?


「レベル上限を上げるのはラーゼル君のお知り合いのアリエスさんです」


 なぜにアリエスさん?


「どういうことです?」

「理由は後でお話ししましょう。でも今は先にしないといけないことがあります」


 再び金庫へ向かうバルトさん。

 金庫を開けるときに悪いと思いつつ覗いてしまった。

 あの金庫はただの金庫ではない。

 中の空間が歪んでいた。

 どう見てもアイテムボックスと同じ異次元収納。

 見た目よりもはるかに容量の大きい金庫だ。


「これは『ポテンシャルリング』潜在経験値を貯めることが出来る指輪です」


 取り出してきたのはまたまた指輪の魔道具だった。

 もしかして魔道具って指輪タイプが多いのか?

 指輪タイプの魔道具が多過ぎだろ。

 持ち歩きには便利だけど、そんなに嵌める指がないぞ。


「すでにラーゼル君の潜在経験値は自分のレベル上限を上げるのに使ってしまい尽きています。そこでこの指輪を嵌めてアリエスさんのレベル上限を50まで上げられるだけの潜在経験値を稼いできて欲しいのです」


 レベル50。

 今の話でなんとなくバルトさんがアリエスさんのレベル上限を上げる理由が見えてきた。

 バルトさんはアリエスさんに悟られないように陰ながら彼女の冒険者人生を支えているんだろう。

 レベル50まで上げてAランク冒険者にランクアップさせ、国の騎士団へと加入させようとしている。

 詳しい事情はわからないが、アリエスさんの後見人みたいなものなんだろう。

 もしかすると、昔助けてもらった恩人がアリエスさんの親か親類なんてパターンもある。

 その恩返しとして陰ながら助けようとしているのかもな。

 いい話じゃないか。


 アリエスさんは命を助けてくれた恩人でもある。

 俺としても是非とも協力したい。

 頑張ってアリエスさんのレベル上限アップを助けないと!


 バルトさんはアリエスさんのレベル上限を上げる手はずを整えるので、必要な潜在経験値を稼ぎ三日後の夜にこの屋敷に戻ってくるように俺に告げた。

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