後の英雄、サビアの執着を知る
努力の結果、潜在経験値が貯まった。
思ったよりも経験値を貯めるのは楽だったのが正直な感想。
俺の経験値100倍のスキル効果とエレネスの戦闘力の高さの相乗効果だろう。
予定の3日を2日で済ませ街へ戻ることになった。
帰り際、ボス部屋が目の前にあることを知ったエレネスがどうしてもボスを倒していきたいという。
今は潜在経験値を集めるのが目的でダンジョンに来た。
死ねば経験値を失うのがダンジョンボスだ。
たぶん俺たちの実力ならば倒すことは可能だが、万一ということもある。
極力危険なことは
エレネスも潜在経験値を貯めに来たことは知っているはずだ。
それなのに潜在経験値を失うかもしれないボスと戦いたいと、なんで言い出すんだ?
「ボスを倒してお宝が欲しいんだ」
お宝ってここのダンジョンは初期ダンジョンで難易度は低く、今では初心者向けダンジョンと言われてるぐらいだ。
ボスはろくなものをドロップしない。
「ここのボスはろくなものをドロップしないぞ。何のお宝が欲しいんだよ?」
「レベル上限を上げる魔道具だ。ボスドロップの報酬として存在するって噂は聞いている」
たしかエレネスのレベルは上限に達していた。
強さにこだわる彼女なら上限を上げたいのは間違いない。
きっと今までもそうだったんだろう。
レベル上限を上げるために無理やりボスに挑もうとしていた。
多分サビアになる前もそんなことだったんだろう。
強引にボス部屋へ進もうとして、仲間を結果的に死に追いやってしまった。
こんな感じだったと俺は予想する。
エレネスは俺の胸倉を掴むとしがみ付いてきた。
「なあ、レベル上限の上げ方を知ってるんだろ?」
「えっ?」
なんでそれを知ってる?
おれはレベル上限を上げられるとエレネスに一度も言ったことはないぞ?
「だって今稼いでる経験値はレベル上限を上げるためのものだって私を買う時に言ってたよな!」
そういえば……。
エレネスを買ったときにそんなことを言ってしまった気がする。
ここまでレベル上限解放にこだわってるとは知らなかったから、まずいことを言ってしまったな。
完全に俺の失言だった。
「どうやっても私はレベル上限を上げたいんだ。方法を知っているなら教えてくれ! 頼む!」
真剣な眼差しで涙を流しながら懇願するエレネス。
レベル上限を上げる方法なら俺は知っている。
でも今はアリエスさんのレベルの上限を上げるのが最優先だ。
これは契約の護符で結ばれた契約なので破ることはできない。
エレネスのレベル上限を上げるのはまだ先になるだろう。
あまりにも真剣な顔をするエレネスにいますぐにその望みをかなえられないことを伝えることは出来なかった。
「なあ、知っているんだろ?」
「そんな魔道具があると聞いたことがある」
俺は彼女の真剣な問いには答えずにはぐらかす。
いつから涙を流す女を前にこんな嘘を平気で言えるようになったんだよ。
薄汚れた心の大人なったもんだ……。
「どうしてもレベル上限を上げる魔道具が欲しいんだ。ボスと戦わせてくれ!」
「ここのダンジョンじゃドロップしない。それにボスと戦って負けたらどうなるかわかってるのか?」
「わかってるさ。でもダンジョンの道中と違って死んでも命は取られない。経験値を失って地上に送り返されるだけだろ?」
「今は負けると失う、その経験値を貯めに来てるんだよ」
主人である俺の意思が固いことを知ると、それ以上はボスのことは口にしなかったエレネス。
でも俺から見てもわかるぐらい不服そうな顔をしている。
「そうだったな」
「今はダメだけど、仕事が片付いて一段落済んだらまた来ようぜ」
それを聞いてエレネスは一瞬で表情が明るくなる。
「ほんとうか?」
「嘘をつくわけがないだろ」
「約束だからな!」
エレネスはその言葉でどうにか納得してくれた。
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