後の領主、精霊石の扱いに困る

 クローブのお屋敷に戻って来た俺たち。

 皆にバルトさんとの打ち合わせの結果を伝えた。


「で、どうだったんです?」


 ラネットさんは興味津々に俺に結果を聞いてきた。


「色々と課題を出されましたね」

「課題?」

「一つ目は一か月後までにラネットさんたちをランクSとなるレベル60まで上げろと言われました」

「ランクSまで一か月で上げろとはずいぶんと無茶な課題ですね」


 レベルは上がれば上がるほど必要経験値が増えて上がりにくい。

 『レベル40から41』に上げるには『レベル1からレベル40』まで稼いできた全ての経験値と同じだけの経験値が必要だ。

 レベル60に上げるとなるとどれだけ経験値が必要なのか想像もつかない。

 たぶん俺の経験値5倍の支援効果があるとしても一か月戦い続けてレベル60に到達するかどうか怪しい。

 それを聞いてモニカはかなりのやる気だ。


「さあ! ダンジョンに行って敵を根絶やしにするぞ!」

「行くけどまだ話は終わってない。課題はまだあるんだ」

「まだあるのか? 早く嫁と子どもを作れと言われたか?」

「そんなこと言われてないから」

「ちぇっ!」


 モニカは産まれたばかりなのに子どもを作る気なのか?

 そんなことして大丈夫なんだろうか?

 っていうか、ドラゴンと人間で子どもなんて作れないだろ。


「もちろん作るぞ。ドラゴンは産まれた時点で20歳だから問題なく子どもが作れるんだ。もちろん人間との子供を産めるぞ」


 力説するモニカ。

 それを聞いて対抗意識を燃やすメイミー。

 俺に関わることだとどんなことでも負けたくないらしい。


「ごしゅじんさま。私ももちろん子どもを産める歳ですからね」


 モニカも産む気満々だった。

 見た目は幼くてもちゃんと成人を超えていますと、こちらも力説。

 って、俺がしようとしているのはそんな話じゃない。


「もう一つの課題は精霊石を設置しろとのことです。魔の森を浄化、そして開拓して人口一万人の大領主になれと言われました」


 ラネットさんは表情を曇らせた。


「大領主ですって? 大変な課題を与えられたのですね」

「バルトさんは5年もあれば出来るような話をしていたんですが大変なんですか」

「大領主になるのも大変なのに5年でなれといったんですか? 5年じゃ道路の敷設ぐらいしかできないから、さすがに無理だと思います」

「でも、バルトさんから与えられた期限が5年なのです」


 ラネットさんは頭を抱えてうなる。

 相当きついみたいだ。


「じゃあ、急いで開拓を始めないといけませんね。レベルを上げる前に新たなる街に精霊石の仮設置だけでも済ませておきましょう」

「この町を大きくするんじゃないんですか?」

「井戸しかないこの町に人口一万人も収容できる水資源なんてありません。第一ここに精霊石を設置したら、折角のポリス級の精霊石の広大な効果範囲が無駄にしてしまうことでしょう」


 ラネットさんは地図を広げるとクローブから30キロル程進んだ平地を指さした。


「ここならばポリス級の精霊石の効果範囲を有効に使えるし、近くに山もないので開拓もしやすいし、大きな川が流れているので水資源に困ることもないはずです」


 ここに精霊石を仮設置しておけば魔物の数も徐々に減るとのことで開拓が容易になる。

 レベル上げをする前にここに精霊石を移動しておきたいとのことだ。


「わかりました。ではすぐに精霊石を持っていきましょう」

「ラーゼルさんは持って行くって気軽に言うけど、そんなに簡単なことではありませんよ。あのサイズの精霊石だとアイテムボックスの中に入れることは出来ても取り出すときに落としてしまい割れたり傷が付いてしまう可能性もあるので馬車での移動になります。馬車を走らせるのならば道路の整備が必要だし、道路を敷設するならば森を切り開かなければいけません」


 精霊石を設置するだけなのに、色々と下準備をしないといけないんだな。

 ラネットさんは大きくため息をつく。


「30キロルの道路を造るだけで1年はかかる大工事です。悠長にレベル上げをしている暇なんてありませんよ」


 まじか?

 となると、残された開拓期間はたったの4年。

 4年で人口一万人の街を作るなんて無理だと思えてきた。


「なにを心配してるんだ?」


 レベル上げの準備を済ませたモニカだ。

 俺はこと細かに説明しレベル上げに行く暇がないことを伝える。


「そんなこと、私に任せるんだ」


 得意げな顔で胸を張るモニカ。

 任せろって……。

 ドラゴンのブレスで街道設置予定の森を焼き払う気なのか?

 30キロルも?

 そんなことをしたら山火事になって辺り一面焼け野原の大惨事になって、クローブの町まで延焼して無事じゃすまないだろう。

 モニカは部屋を出て行ったけど、あてには出来ない。

 多分すぐに戻ってくるだろう。

 俺たちは道路工事の打ち合わせを続ける。


「まずは新たな街の建設予定地までの道路の敷設作業がいりますね。でもそれにはとんでもない額の資金が必要です」

「まずはそこからか……。クレソンの領主に開発資金を工面してもらえるか相談しに行かないと。あと精霊塔の建設も手配しないと」

「精霊塔?」

「精霊石を設置する塔だ。ポリス級の精霊塔なら3億ゴルダは必要だ」

「さんおく?」


 あまりの額に声が裏返った。

 精霊石の効果を効果的に発揮させるために、高い塔を建設し設置しなければならないとのこと。それと精霊石を盗まれないようにそれ相応の防衛結界設備も必要とのことだ。


「さすがにポリス級の精霊石は私たちの手には余るな」

「ですねぇ。しかも期限付きとは」


 俺たちはとんでもないものを押し付けられたのに気が付いた。

 その時!


「設置してきたぞ!」


 モニカだった。


「なにを?」

「精霊石に決まってるだろ」

「ふへ?」


 なにを言っているのか分からない。


「だから、精霊石を地図の場所に設置してきたと言ってるんだ」

「道路もないのにどうやって?」

「そりゃ私が持って行ったのに決まっているだろ。重くて大変だったんだからな」


 モニカは竜になり空を飛んで運んだらしい。

 あまりに急いだせいか一緒に乗って行ったビアンカの顔が真っ青だった。


「よくやった!」


 俺は全力でモニカを褒めてやる。

 まさか一年かかる精霊石の設置を一瞬で終わらすとはモニカすげえ!

 頭を撫でると大喜びだ。


「も、もっと撫でていいんだぞ」


 ごしごし。

 頭を撫でられて喜ぶとはなんだかんだ言ってまだ子どもだな。

 俺はモニカの頭を撫でまくってやった。

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