後の英雄、仲間を僧侶に転職させる
転職をしにふたりでやってきたギルド。
本来ジョブチェンジは神殿まで出向かないと出来ないがそれは上級職の話。
初級職へのジョブチェンジなら冒険者ギルドで無料でやってくれる。
さっそくメイミーの転職申請を出してみた。
転職するのは聖女の下位ジョブにあたる初級職の僧侶だ。
「狩人から僧侶ですね。簡単な講習が必要ですがよろしいですか?」
つい最近まで講習なんてものはなかったんだけど、転職したあとにろくな説明をしなかったことで基本の立ち回りがわからない初心者冒険者が増えまくったとのこと。
パーティーを組んだ冒険者たちから苦情が来まくり講習を始めたそうだ。
*
俺たちはギルド併設のコロシアムへ向かう。
ラネットさんと戦ったあのコロシアムだ。
一部壁が崩れかけていて『危険! 近寄るな!』と立て看板で警告された場所がある。
破壊した犯人に思いっきり心当たりがあるけど気にしない。
俺たちを待っていたのはダール。
元冒険者の禿マッチョ。
冒険者になりたての頃、一度だけパーティーに誘われたことがある。
あの頃の俺の未来は光り輝いていたな……なんて遠い目。
Aランク冒険者まで上り詰めたが足をハイオーガにやられてから走れなくなり冒険者を引退してギルドに就職したそうだ。
身体じゅうがツヤツヤしているのはわざわざオイルを塗りこんでいるとの噂。
そんなもの塗らなくても十分ツヤツヤしてるのに……頭だけはな!
いわゆるのうきん系の頭が足りないおっさんだ。
「ラーゼル、お前しょぼ過ぎで、ついに初心者講習を受けるまで落ちぶれたのか? ガハハハハ!」
「今日受けに来たのは俺じゃねーよ。この子だ」
「冗談だよ、冗談。その子はお前の新しい教え子か?」
「嫁だよ、嫁」
「嫁だと! 万年初心者で万年貧乏のお前がそんなかわいらしい嫁を持ったのか? 冗談だろ? 羨ましすぎるぜ!」
コケそうになるぐらい踏ん反りがえっての大笑い。
ムカつくけど今までの俺はこいつに言われたとおりだから仕方なし。
でもそれを聞いたメイミーはかなりのご立腹。
「むーっ! だんなさまは初心者じゃありません! 英雄なのです!」
「あははは、初心者が英雄か。こりゃいいわ」
「むーっ!」
頬を膨らませて怒った顔をするメイミー。
でもそれ、威嚇効果はゼロだよ。
すんごくかわいいだけだから。
「で、嬢ちゃんになにをすればいいんだ?」
「狩人から僧侶に転職するのと講習を頼む」
「僧侶か。まずは転職だな、ちょっと待っててくれ」
足をひきずりながら台に乗った大きな宝珠を持ってきた。
「これに手をかざせば転職完了だ」
メイミーが宝珠に手を乗せると宝珠が光り転職が終わった。
ちなみに神殿で転職を受けると基本職への転職でも10万ゴルダも取られる。
こんな簡単なことなのにぼったくり過ぎだろ。
「そんじゃ、一番簡単な回復魔法を使えたら講習はおわりだ」
僧侶は回復魔法さえ使えれば細かい立ち回りの授業はないそうだ。
立ち回りもあるにはあるんだが、基本下がっての回復。
まれに前に出て前衛と一緒に殴る頭の悪い僧侶もいるけど、2~3発も敵に殴られたらビビッて下がるようになるからわざわざ教えることもない。
ダールは自分の腕にナイフで浅く切りつける。
真っ赤な線が描かれた。
「よし、俺に向かって『治れ』と思いながら『ヒール』と魔法の名前を唱えるんだ。慣れたら魔法名の詠唱は要らないぞ」
腕を見ると無数のナイフ傷がついている。
講習で自ら付けた傷なんだろう。
初心者が使う回復魔法なので完全には治らなくて傷が残ったんだろうな。
「まあラーゼルと結婚するのがお似合いなお嬢ちゃんだと大声で詠唱してやっと擦り傷が治るぐらいかもな、ガハハハハ!」
本人は冗談のつもりで言ってるんだろうけど、何度も言われるこっちは結構うざい。
普段は天使のようなメイミーの目も吊り上がっている。
「さあ、お嬢ちゃん! 『ヒール』と唱えるんだ。傷が光って治ったら合格だって……うわあああ!」
ダールの傷が激しく光る。
直視できないほどの明るさ。
いったい何が起きてるんだ?
そしてダールの身体じゅうが光り始めた!
「た、助けてくれえ!」
いったい何が起こってる?
ダールの禿頭だけじゃなく、身体全体がまぶしい!
「だんなさまをバカにしたので本気で回復してみました」
ダールの輝きが収まると、腕にあった無数の傷が全て綺麗に消えている。
おまけに……。
「嘘だろ? 脚が治ってるだと?」
今まで引きずっていた足が完全に治ってる。
ぴょんぴょん跳ねても全く問題なさそう。
メイミーの回復すごくね?
さすが僧侶向きと見込んだだけはある。
「神殿の神官でも治せなかったのにどうなってるんだ?」
「ちゃんと傷を治したんだから、だんなさまをバカにしたことを謝って下さい」
土下座をするダール。
「ラーゼル、お嬢ちゃん、すまなかった」
つるっつるの頭に砂利が食い込むぐらいの深い土下座だ。
「だんなさま、やりましたよ」
メイミーは勝ち誇った表情をする。
「がんばったな」
「えへへ」
そして、メイミーはふらつくとドサリと音を立て倒れた。
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