後の英雄、初老の紳士と取引をする
送迎用の馬車に乗って訪れた街の郊外に佇む手紙の主の屋敷。
それは小さな街ならばすっぽりと収まるぐらいの広大な土地に建つ豪邸だった。
バルト邸に着くと、執事とメイドらしき人々が玄関の前で列を作り待っている。
屋敷が大きいだけじゃなく執事軍団までいるのかよ!
本当のお貴族様の大豪邸じゃねーか。
すぐに屋敷の中に招かれた。
広い応接間のソファーで待っていて下さいと言われたが、庶民の俺には豪華すぎる装飾のインテリアに圧倒されてすごく居心地が悪い。
すぐに屋敷の主がやってきた。
料理屋で出会った初老の紳士だ。
昨日はただの紳士だと思っていたので普通に話せたが、貴族だと聞かされているので少し緊張する。
なんというか猛獣の檻の中に迷い込んでしまった子犬、いやハムスターな気分だ。
「君はラーゼル君だな」
「はい、ラーゼルです」
「わざわざ来てもらってすまないです。私はこの屋敷の主のクオンタム・バルトと申します。君の事は色々と調べさせてもらいました。悪徳パーティーに加入して大変な目に遭ったそうですね」
「それをどこで?」
「ギルドに多少顔が利きますのでね」
『フフッ』と笑い得意げな顔をするバルトさん。
この前の事件に俺が関わっていたことはギルドの職員の中ではラネットさんとギルド長しか知らないはずだ。
ケイロスたちがアリエスさんに倒されたのはギルドの中で有名な話だが俺の名前は伏せられていた。
さすがに年下の冒険者に殺されそうになったのが広まったら新たな二つ名が付きそうなので俺がラネットさんに頼み込んで伏せてもらったのだ。
多分ギルド長経由の情報なんじゃないかと思う。
バルトさんから直にラネットさんへ話が来ていたらどんなに喜んだことだろう。
彼女はやたら俺にバルトさんを紹介しろと迫ってきている。
今回の好機を生かして本気でバルトさんと結婚するつもりでいるみたいだ。
バルトさんは契約の護符を机の上に出す。
「では契約を結ぶとしますか」
「その前に確認したいのですが、いいでしょうか?」
「なんでしょう?」
「レベル限界なのですが、どのぐらい上げてもらえるのでしょうか?」
「ラーゼル君の努力次第の側面がありますが、50レベルぐらいは上がると思ってもらって構わないと思います。ただ、保証できるのは30レベルといったところですね」
「30レベルもあげられるのですか?」
30レベル上げられると言ったら、レベル45。
Bランクの中堅冒険者じゃないか!
正直、ここまで上げられるとは思ってなかったのでうれしい誤算だ。
「ただ、すぐにレベル限界が30上がるというものではありません」
「すぐには上がらない?」
「ポーションのようなものを飲んで、一瞬で上げられるものではありませんね」
うーん、なんとなく雲行きが怪しくなってきたぞ。
世の中そんなにうまい話はない。
レベル限界が上がるなんてうま過ぎる話ならばなおさらだ。
この紳士は俺を騙すつもりでいるのだろうか?
いや、俺は信じたい。
だからこそ細かいところまで確認を
「レベル限界が上がると言っても老衰で死ぬ直前まで時間が掛かっても意味がないんですが、その辺りの成長速度は大丈夫ですか?」
「ははは、そんなに掛かりませんよ。それなりに苦労をするとは思いますがラーゼル君ならば1年、いや半年もあれば上げられると思いますよ」
「半年でですか?」
「ええ、半年です」
なんと!
たったの半年で長年苦しめられてきたレベル15の呪縛から解放されるのか!
またまたうれしい誤算だ。
「それは信じてよろしいのですか」
「英雄クオンタム・バルトの名に懸けて信用してもらって構いません」
二人で契約の護符の契約草案を作り始める。
「私からの対価と要求は次の二点です」
そして書いた契約は以下の通り。
----------
バルトからの対価
・ラーゼルのレベル上限を上げる。
バルトからの要求
・ラーゼルに願いを一つ叶えてもらう。
・ラーゼルが知った秘密を口外しない。
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あくまでも願いは伏せるようだ。
秘密を口外しないって条件も気になる。
子どもを連れて来て
ここは不法な行為をしないことを契約に盛り込むべきだろう。
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ラーゼルからの対価
・バルトの願いを出来る範囲で一つ叶える。
・バルトの願いは法律に反しないこと。
ラーゼルからの要求
・バルトはラーゼルのレベル限界を30以上上げる。
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「では、この草案を元に擦り合わせて契約の護符を作成しましょう」
紳士は手慣れた感じで契約の護符の作成を始める。
貴族なので契約の護符を作成する機会も多いんだろうな。
すぐに契約の護符が完成した。
契約の護符が出来たので双方の血で押印をする。
契約書は霧のように消え、双方の心臓の
契約を破れば心臓が握りつぶされ停止する。
「これで契約の護符は完成ですな。では早速、ラーゼル君のレベル限界を上げる作業を始めましょう」
バルトさんは地下室へ俺を連れて行く。
「地下室で何をするんですか?」
「執事たちに立ち聞きされると困るのでね」
身内の執事にまで聞かれたら困る秘密なのか。
どんな秘密なんだ?
気になる。
数分間階段を降りると豪華な地下室の扉が見えた。
さっそく中に入る。
さすがお貴族様。
地下室というと真っ暗でカビ臭く薄暗くジメジメとした部屋か、ダンジョンのように岩肌丸出しのイメージがある。
だがこの地下室は豪華の一言に尽きる。
分厚いじゅうたんに、昼と変わらぬ明るさのいくつもの照明。
そして部屋の隅には俺の宿屋の部屋の広さを超える天蓋付きのベッドまである。
バルトさんは後ろ手でドアにカギを掛けた。
「ここは防音の加護の効いた部屋です。私ににしかこの扉は開けられないのでご安心ください。これで始められますね」
そういったバルトさんは背広を脱ぎ、ベルトに手を掛けズボンを脱いだ。
パンツ一丁にYシャツというとんでもない格好に。
「バ、バルトさん? な、なにを始めようとしているんですか?」
バルトさんはネクタイを外すとYシャツのボタンを上からひとつづつ外す。
彼のへその下辺りには何やら立派な棒のようなものがシャツ越しに薄っすら浮かんでいるのが見える。
男ならそれがなんなのか一瞬で想像がつく。
そしてバルトさんがこれから俺にしようとしていることも……。
ちょい待て!
おい!
待ってくれ!
俺に叶えてもらう願いってそういうことだったのかよ!
どうりで今まで願いを伏せていたはずだ。
こういうことだったのかよ!
契約しちまったじゃないか!
初体験が老紳士とかトラウマに残るレベルで嫌すぎるんですが!
マジ止めて!
マジ許して!
「いやいやいや! 俺には男の人が好きだとかのそっち系の趣味とかないから!」
「そういうのは絶対にお断りだから!」
「許して! 心の準備が出来てない!」
「ここから出してくれえぇぇ!」
俺は開かないドアにしがみ付き、悲痛な叫びをあげた!
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