後の領主、騎士団長に歯が立たず

 騎士団長に俺の主戦力であるカウンターが効かない!

 おまけにアインハルトの鉄製の棍棒の攻撃を顔面に食らい、死にかけだ。

 地面に転がる瀕死の俺を目にして勝利を確信したアインハルトが語り始める。


「フハハハハ! やはり思った通りだな。物理攻撃に絶対的な強さを誇るカウンター持ちだったか。だがな、この俺にカウンターは効かない!」


 くそっ。

 そこまで気が付いていたのかよ。

 見た目は筋肉オークなのによく俺の強さの秘密に気が付いたものだ。

 俺も相手を舐めて攻撃を受けようとなんて考えずに避けていれば、こんなことにはならなかったはずだ。

 消えそうな意識の中でアインハルトを鑑定する。


『カウンター無効』

『カウンター反射』


 こんなスキルを持っていたのかよ。

 試合開始前に鑑定しておくべきだった。

 どうりでカウンターが効かないわけだ。

 俺のスキルで数倍に強化された反撃が『カウンター反射』のスキルで戻ってくるんだから、ただで済むわけもない。

 アインハルトはさらに語る。


「なぜ騎士である俺が剣ではなく、この棍棒を手にしているのか不思議に思ったのではないか?」


 棍棒を持ちながら余裕しゃくしゃくと俺の周りをゆっくりと回る。

 まるで獲物を狙う鷹のように。


「平民如きに俺の愛剣を使いたくないというのもあるが、それだけじゃない」


 アインハルトは俺の眼前に立つと、棍棒を地面に突き立てる。

 重い音があたりに響いた。


「実はな、この棍棒には相手の防御力を無きものにする加護が掛かっているのだ」


 俺を鑑定してみる。

 たしかに『防御力減少:50%』の状態異常になっている。

 本来は防御力がゼロになるんだろうけど、俺のステータスが高いので全ての効果は発揮しなかったようだ。

 

「どんな固い鎧を着ていようが俺の攻撃を2発受けた時点でどの騎士も死ぬのだ! 一度目の棍攻撃を生きながらえても、防御力の消え失せた二度目は耐えられることは出来まい!」

 

 そしてアインハルトは棍棒を頭上に掲げると振り下ろす!


「我が部下を殺した報いを受けろ! 死ぬがよい!」


 その時!

 俺の胸の中でなにかが弾けた。

 護身の宝珠だ!

 俺のダメージを肩代わりしてくれたようで、一つの宝珠が砕け散っていた。

 そして軽くなる身体。

 身体の自由を取り戻した俺はとっさに棍棒を避ける。

 俺を叩き潰したはずなのに手応えが無かったアインハルトは焦っていた。


「どこに消えた?」

「ここだよ!」


 俺はアインハルトの背後に立っていた。

 いつでも奴の首を掻ける位置にだ。

 散々好き放題やってくれた礼をしないとな。

 俺は奴の首を斬り付ける!

 だが!

 

「ぐはっ!」


 俺の顔面に激しい痛みが走ると共に、また宝珠が砕けた。

 もしかすると……。

 攻撃を受けなくとも俺の攻撃自体にカウンター属性が載っているのでは?

 試しにちょっとだけ剣の先で突いてみた。

 痛てえ!

 思った通りカウンター属性が載っているのか反射された。

 つまり……。

 俺が攻撃すればするほどやられる?

 ダメじゃん!


 俺は必死に考える。

 俺が攻撃せずに奴を倒す方法?

 落とし穴か?

 相手が知性のない魔獣なら地面に空けた穴に落とすこともできるだろう。

 でも敵の目の前で掘った穴に落ちるバカはそうそういないと思う。


 じゃあ、どうする?

 他にいい案はあるのか?

 ヒーラの毒があればそのあたりに撒き散らせば踏んで毒状態になったかもしれないが今は持っていない。

 他にアイデアって言っても嫁まかせで乗り切ってきた俺に浮かぶアイデアなんてない。

 むう……思いつかない。

 なんとかしていい案を思いつかないと!

 俺が逃げ回りながら考えているとモニカが呆れていた。


「なに逃げ回ってるんだよ? かっこ悪いぞ!」


 アインハルトは重い棍棒を持っているのでトロトロとしか歩けないので逃げるのは余裕だった。

 逃げ回っていればそのうちいいアイデアが浮かんでくるかもしれない。

 もう少し逃げ回って……。

 でも貴族たちは戦いを避けて逃げ回る俺にヤジを飛ばしまくっていた。


「英雄候補なんだから立ち向かえ!」

「こんな弱虫が英雄になるだと? 許せん!」


 俺の評価駄々下がり。

 モニカもご立腹だった。


「なにかっこ悪い試合をしてるんだよ。私の旦那なんだからもっと頑張れ!」


 俺は観客にも聞こえるようにモニカに逃げてる理由を教えてやった。


「俺から攻撃をするとカウンターでやられるんだよ!」

「カウンター?」

「指輪のせいで通常攻撃にも反撃効果が載ってしまって俺が攻撃すると逆にやられてしまうんだ」

「なら、その指輪を外せばいいんじゃないのか?」


 なんというアイデアだ!

 まるで知将!

 そんな高度な作戦は思いつかなかったぜ!

 早速俺は指輪を外す。

 そして恐る恐るアインハルトを突いてみた。


 ぷす!


 反撃は?

 返ってこない!

 俺が逃げるのを諦め近づいてきたと思ったアインハルトは嬉々とした表情を見せる。

 

「とうとう逃げるのを諦めて、あの世に旅立つ気になったか」

「まあ、そんなとこだ。最後の悪あがきを見せてやる!」


 弱気なのは言葉だけで勝つ気満々だったけどな。

 俺は小細工をした。

 目くらましの照明魔法とともに、懐から取り出した護身の宝珠を奴の兜の中に放り込んだのだ!


「舐められたものだ。そんな目くらましが効くと思ったか! よかろう! 死ぬがよい!」


 俺は奴の遅い攻撃を避け、懐に飛び込み奴を斬り付ける。

 なんてことはないただの通常攻撃だ。

 でも、俺の攻撃は柔らかいパンケーキを切るかの如く鎧を貫く。

 俺の通常攻撃は鎧をも貫き通す切れ味があった。

 鎧に一条の傷が付き血で真っ赤に染まる。

 アインハルトは腹を押さえて崩れ落ちる。

 そして地面に血だまりが広がり始めた。

 それを見た審判官は大急ぎで駆け寄る。


「アインハルト様!」


 駆け寄った審判官が慌ててポーションを飲ます。

 でもポーションぐらいではその傷は癒えない。

 部下の二人も駆け寄ってきた。

 俺が回復魔法の真似事をするとアインハルトが蘇った。


「お前は回復魔法も使えるのか?」

「多少嗜んでいる」

「多少でこの威力なのか。信じられん」


 俺が回復魔法を使えたわけじゃない。

 護身の宝珠を押し付けたことで死に際に宝珠の効果が発揮されただけだ。

 

 実はアインハルトに俺を倒せるほどの実力なんて最初からなかった。

 既に俺は強くなり過ぎていたのだ。

 アインハルトが宙から襲ってきた時にぶん殴られたのは、俺が放ったカウンターを『カウンター反射』返されたものだったのだ。

 それさえわかれば簡単なことだ。


 護身の宝珠は3つ持っていた。

 対戦者の人数分の3個だけ……。

 この宝珠は俺が使う物ではなく相手に使う物だったのだ。

 宝珠を使いアインハルトたち騎士を殺さずに派手に勝つ!

 これが俺に課された課題の答えだったのだ。

 審判官が俺を羽交い絞めにする。


「アインハルト様! さあ平民をなぶり殺しにしてください!」


 弱々しい拘束なので抜け出そうとすればすぐに抜け出せるが様子を見ることにした。


「俺は負けたんだ。奴の勝利の宣言をしろ!」

「しかし……」

「しかしもかかしもねぇ! 俺が負けたと言っているんだから俺の負けなんだよ!」


 アインハルトの怒気にあてられた審判官は怯えて俺の拘束を緩めた。


「わかりました。勝者ラーゼル! 最強の騎士軍団に模擬戦で勝利したラーゼルを英雄として認める!」


 アインハルトが俺の腕を掴み観客の前で掲げた。

 

「ここに新たな英雄ラーゼルが誕生した!」


 どっと沸きあがる歓声!

 俺は英雄として騎士団長に認められた。

 アインハルトが別れ際にぽつりと言った。


「今度は棍棒などという姑息な武器を使わずに俺の本気の剣技とお前の本気の剣で戦いたい」

「おう! 是非に!」


 俺たちは熱い握手を交わし別れた。

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