後の領主、辺境伯となる。

 英雄試験を終えた俺はひたすら忙しかった。

 王様に呼ばれて、英雄試験を合格たこととバルトさんの後継者となることを報告。

 褒美を貰えることとなり、褒美は『辺境伯の娘のラネットさんを嫁にしたい』と申し出る。

 それを認められ、アルティヌス家を継げるよう辺境伯の爵位も貰った。

 すべてバルトさんが描いたシナリオ通りで、根回しをしてくれたようだ。


 新たなる英雄が生まれたことでお披露目のパレードも。

 装飾した馬車の荷台に乗り、バルトさんとラネットさんも乗せて街を回る。

 英雄誕生の習わし通りお金りのお菓子包みをばら撒いたので、とんでもない数の観衆が集まっていた。


 そんなことを続けて宿に戻ったのはすっかり夜となっていた。

 宿への帰りの馬車の中、バルトさんが一日中忙しかった俺の労をねぎらう。


「お疲れさまでした。これでアルティヌス領の領主となり、英雄としても認められましたね。おめでとうございます」

「ありがとうございます。色々と手をまわして下さって本当に感謝しています」

「ラーゼル君は私の弟子なんですから師匠が根回しするのは当然のことです」

「弟子の一言では説明のつかないぐらい色々としてくださいまして本当にありがとうございます」

「まあ、ラーゼル君が英雄となり大領主の道を歩み始めることは私にもメリットが有ることですので」

「メリット?ですか?」

「これは口が滑りましたな。全てがわかった未来は面白くないでしょう。それは後のお楽しみです」


 バルトさんは含みのある言葉を残してメリットがなんであるかはそれ以上は教えてくれなかった。


 *


 宿に着いた。

 既に別の馬車でコロシアムから早い時間に到着していたメイミーが出迎えてくれる。


「ごしゅじんさま、寂しかったです」

「今日はずっと一人にしてしまって済まなかった」


 もちろん、この埋め合わせで思いっきり仲良くするつもりだ。


 *


 そして夜……。

 紅茶を用意して待っているとメイミーが俺に泣きついてくる。


「ご主人様の子どもが欲しいです。出来れば今すぐに」

「ぶっ!」


 思わず飲んでいた紅茶を吹き出してしまった。


「今すぐって……。そんなに焦らなくても毎日仲良くしていればいつかは出来るだろ」

「でも……」


 メイミーの頬を涙が流れる。

 震える小さな声でメイミーは続けた。


「ごしゅじんさまは貴族になられました。貴族になるとさらにお嫁さんが増えると聞きました。私みたいな何の取り得もない女は忘れさられて……」


 ガバッと顔を上げると上目遣いで訴える。


「忘れられないためにもごしゅじんさまの子どもが欲しいのです!」


 そういって涙を流した。

 今朝から様子がおかしいと思ったら、こんなことで悩んでいたのか。

 俺がメイミーや他の嫁を捨てるわけがないだろ。

 メイミーの頭を優しく抱きかかえる。


「わふっ? ごしゅじんさま?」

「貴族となった俺には領民を守る義務が出来た」

「はい」

「でも嫁を守ることも出来ずに領民を守ることなど出来ない。だから安心してほしい。メイミーとはずっと俺と一緒だ」

「ごしゅじんさま!」


 表情が明るくなったメイミーは俺に抱きついてくる。

 その夜、俺たちはさらに仲良くなった。

 

 *

 

 初心者育成係と呼ばれるほどの使えない冒険者から、領主となった俺の話はここで終わる。

 

 そしてここからは貴族となった元平民の領主生活が始まる。

 みんなも期待してくれ。

 絶対に成功してみせる。

 嫁たちだけでなく領民も幸せにするような、そんな領主を目指したい!

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