新たなる辺境伯の領地開拓

新たなる辺境伯の人外嫁たちの狂宴

 アルティヌス領へ戻ってきた俺たち。

 モニカがいつものように俺に催促してくる。


「捕まえた亀とか出してくれ」

「また食べるのか?」

「うむ」


 毎度のことなので突っ込む気力も失せた。

 腹を壊したって話も聞かないし、ドラゴンはなにを食っても大丈夫なんだろう。

 モニカたちはゴツイモンスター3匹をかついで森の中に消えていった。


 *


 毎度のマンイーター前にやって来たモニカたち。

 ヒーラが興味深々でどれから食べるか見定めている。


「どれもおいしそうっすね。どれから食うっす?」

「私たちが食うのは亀だけだぞ」

「えっ? 今なんていったっす? 私の聞き間違いっすか? こんなのおいしそうなのに亀以外は食べないんす?」

「ヒーちゃん、狼は食べちゃダメだからね。絶対に電気バチバチでお腹痺れて壊すから!」

「そんなー」

「そんな残念がるな。マンイーターが食べるのを嫌がったら私たちで食おう」

「マンイーターって私がエサにされそうになったモンスターじゃないっすか。そんなのに狼や鳥をやっちゃうんですか? もったいないっすよ!」

「じゃあ、代わりにヒーラがエサになってくれ」

「すいませんす! エサは狼と鳥でよろしくっす!」


 危うくエサにされそうになって大慌てで前言撤回するヒーラであった。

 モニカは狼をエサにすることを決めたようだ。


「まずは経験値たっぷりでおいしそうな狼からだな。こいつらは死んだふりをしてるだけだからポーションをぶっ掛けて目を覚ましてやる!」


 それを聞いたビアンカはモニカを必死に押しとどめる。


「モーちゃん、狼にポーションなんて掛けたら元気になって大暴れしちゃうよ! あんなビリビリ電気を相手に勝てる自信あるの?」

「大丈夫だ。私の華麗なる話術スキルで騙し通す!」

「モーちゃんはそんなスキルを持ってないから。ねぇ止めとこ」


 ビアンカの警告を無視しモニカは持っていたハイパーポーションを掛けると狼の目が覚めた。


『ここはどこなんよ?』

「ここは私たちのアジトだ」

『アジト?』

「お前がやられて死にかけていたのをここまで運んでやったんだぞ」

『そうなのか……。あの女剣士は電撃を食らわせても全然効かないうえに目が逝ってて怖かったんよ』


 めちゃくちゃ効いてたと思う。

 そう突っ込みたかったビアンカである。


「あの剣士が襲ってくるかもしれないから、早くアジトの中に隠れるんだ」

『わかったんよ。助かるんよ』

「あ、あとこれ、シャンプーだから。奥まで行ったらこれの蓋を開けて床に流すんだぞ。そうすると洗剤の泡が出て綺麗になるからな」

『本当に親切な人なんよ。ありがとうなんよ』


 マンイーターの入り口へと行く狼。

 ビアンカがモニカの耳元で話す。


「なんかすごくいい人ぽいっていうか狼だけど、騙しちゃっていいの?」

「エサに騙すも騙さないもないから、心配するな」


 そういうことらしい。

 身体の大きい狼は入り口が小さいので入れなくて困っていた。


『ちょっとどころじゃなく、かなり入り口が狭いんよ。これでいけるかな? おっいけそうなんよ』


 子犬サイズに小さくなって、シャンプーの瓶を咥えてマンイータの中へと入っていった狼。

 それを見たビアンカはため息をつく。


「本当にエサにしちゃって大丈夫なの? あの狼はヴァナルガンドっていう魔族らしいけど大丈夫? エサにしようとしたことがバレたら、怒りまくって私たち殺されちゃうよ?」

「私もヒーラもいるから大丈夫だろ」

「そうっす。ビアンカは心配し過ぎっす」


 マンイーターの奥でドカドカと地響きがし始めた。

 どうやらシャンプーと偽っていたマナゲインを撒いたらしくスケルトンとの戦いが始まったようだ。


「さてと、もう一匹の餌やりの準備を始めるか」


 モニカはもう一匹のモンスターにハイパーポーションを振りかけた。

 キラーフェザーだ。

 キラーフェザーはすぐに起きた。


『ピキー! ここはどこだ?』

「宴会場だ」

『宴会場?』


 首を傾げるキラーフェザー。

 こんな森の中が宴会場のはずがない。

 ビアンカがモニカに耳打ちをする。


「モーちゃん、こんな森の中でさすがにその設定は無理ありすぎると思うよ」

「これしか思い浮かばなかったんだから仕方ないだろ。もう言っちゃったんだから最後まで嘘を貫き通して突っ走るしかない!」


 キラーフェザーが不審がって探りを入れてくる。


『宴会ではなにが出るんだ?』

「かなり豪勢な狼料理で会場はあの洞窟の中だ。お前の席もちゃんと用意してあるけど、宴会はすでに始まっているから急いでいかないと酒も料理もなくなるぞ」


 それを聞いてキラーフェザーは全身に怒りを浮かべる。

 罠だと完全に気が付いたようだ。

 よほどの間抜けじゃない限りマンイーターの中に入るバカはいない。


『お前はバカか? 洞窟の入り口に見えるあれはマンイーターだろ! そんな嘘で騙されてマンイーターの中に入るバカはいないぞ!』


『ヴァナルガンドは入っていったんだけど?』と思わず突っ込みたくなるビアンカ。

 あの狼は相当のお人好しだったらしい。

 

『お前たちは私をマンイーターのエサにしようとしてるな!』

「こいつ私の華麗な話術スキルが効かないぞ! どうすればいい? ビアンカ!」

「そんなの最初っから持ってないって言ったよね?」

『こんな所にいたら命がいくつあっても足りない!』


 キラーフェザーはそう言い残すと羽ばたいて大空に消えた。

 ぽかんとするモニカたち。


「モーちゃん、あの鳥帰っちゃったよ?」

「どうするっす? 食材が消えたっす」

「だ、大丈夫だから!」


 キラーフェザーを森に放ったとなると間違いなくラーゼルに怒られる。

 これはマズいことになった。

 顔に冷や汗の流れるモニカ。

 ドラゴンとなったモニカはすぐに大空に飛び立ち大慌てでキラーフェザーを仕留めて戻ってきた。

 完全にキラーフェザーはバタンキューだ。


「これじゃマンイーターのエサにならないな。私たちで食うか!」

「鳥を食べられるっす? やったーっす!」

「でも、これをどうやって料理するっす?」

「ヒーラが料理しろ」

「私がっすか? 料理なんてしたことないからむりむり無理っす!」

「じゃあビアンカがやってくれ」

「だめだよ。こんな大きな鳥を料理するなんて私にも無理」

「誰か料理できる人を屋敷から連れて来ないと駄目っす」

「料理できる人か。アレンの屋敷にはコックどころか使用人もいないしな……。あっ、ちょっと待っててくれ、心当たりが一人いた」


 そういって大空に消えたモニカ。

 10分後に料理人を連れてきた。

 冒険者兼料理人のグラトニーだった。


「物凄い食材があると聞いて、大急ぎで飛んできたんだが……うお! これはキラーフェザーじゃないか! それにこっちはデッドリートータスだと? こんな大物どこで狩ってきたんだ?」

「王都だ」

「王都にこんなモンスターが湧いているとは一大事じゃないか!」


 慌てて助太刀をしに王都に戻ろうとするグラトニーに説明するビアンカ。

 事情を説明するとわかってもらったようだ。


「英雄試験の相手がこいつらだったのか。大変だったな」

「大変だったから腹が減った。うまい料理を作ってくれ」

「こんな食材を見たら腕を振るわないわけにはいかない。任せろ!」


 そして出来上がったのは


 ・キラーフェーザーのフライドチキン

  みんな大好き胡椒の効いたフライドチキン。

  カリッとした衣が食欲をそそる。

 

 ・デッドリートータスの山賊焼き

  亀の甲羅で亀肉を素揚げしてジューシーなタレに絡めた逸品。

  淡白な亀肉とすっきりとした特性のキイチゴのタレが生むハーモニーが絶品。


「亀はスープにした方が美味しいんだけど、一度火が通ってしまって身がしまっていたから揚げ料理にした。どっちも揚げ物ですまんな」


 でもそんなことはまったく気にしてない3人だった。


「おおお! これは美味いっす!」

「フライドチキンも亀もジューシーでおいしいね」

「ビアンカは作ってる最中はあれほど亀を嫌がっていたのに食べるのかよ?」

「だってグラトニーさんの料理はいい匂いがしておいしそうなんだもん」


 それを聞いてグラトニーは笑顔で大満足。


「そうかそうか、おいしいか。たくさん味わうんだぞ」


 こうして宴が始まったんだが、デッドリートータスにとんでもない強壮作用があったのを誰も知らなかった。

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