後の英雄、ドラゴンの子どもを探す
「助けてくださいー!」
荷物の下敷きになっていたのはモニカだった。
俺はモニカを掘りだす。
「モニカ!? なんでここに?」
「置いて行かれると思って……って、私を置いていきましたよね?」
「徹夜でクレソンまで行く危険な強行軍だから置いていくのは仕方ないだろ。それにすぐに戻るし」
「私を捨てようとしたってだまされませんよ!」
モニカはいつものように俺の手をぎゅっと握りしめる。
こいつ、手を握るのが好きだな。
そういえばキスもされたし結構好かれたりしてる?
「もちろん好きですよ」
なんでもサボテンミミズに襲われて命を諦めかけた時に助けてくれた俺が救いの神のように見えたんだそうだ。
「女は強い男を本能的に求めるものなのです!」
誰のだか思い出せないけど、どこかで聞いたようなセリフ。
誰だったかな?
うーん、思い出せない。
俺のスキルレベルは高いけど、レベル自体は街道警備で上がったもののまだまだ初心者と変わらない。
たいして強くないのは自分でもわかっている。
「強いって言っても俺はレベル20だぞ」
「レベルなんてまやかしです。本当に強い男は見ただけでわかるのです」
強さの本質を理解してるとは意外と鋭いな。
鑑定スキルでも持っているのかな?
魔法使いで鑑定スキルを持ってるなんてかなりめずらしい。
「そんな物は持ってないですよ」
「じゃあ、どうやって俺が強いとわかるんだよ?」
「わからないですか?」
「わからないよ」
「私もわかりません!」
なんだよ、そりゃ。
「あえて言うのならば本能! いや、女の勘です!」
ダメだこりゃ。
モニカが優秀と思った俺がバカだった。
これ以上考えるのは止めておこう。
でも、それだけで俺の事を好きになるものなのかな?
「ラーゼルさんは以前……いえ、なんでもないです!」
なにかを言おうとして口ごもったモニカ。
言いたくなるまでこちらから聞くのは止めておこう。
今は少しでも寝て身体を休めるべきだ。
*
そんなこんなで御者さんに頑張ってもらって、徹夜でクレソンの街まで走ってもらった。
御者さんの言うように昼前にクレソンに戻ってこれた。
朝からの出発だったら夕方まで着けなかったはずなので時間に大幅な余裕ができた。
御者さんは俺たちに別れを告げる。
「じゃあ私はこれで。明日の日没前にクローブに戻れる特急便を手配しておきますので、明日の昼前に馬車ターミナルに来てください」
*
俺たちは冒険者ギルドに駆け込む。
受付に紹介状を見せて事情を説明すると、すぐにドラゴンの卵を売った冒険者と会えた。
かなり年季の入った冒険者のベランさんだ。
ギルド職員によると、既に第一線からは退いてソロで出来る収集依頼を主に活動しているとのこと。
ちなみにモニカはベランさんとの話の邪魔になると困るので冒険者ギルド併設の酒場で食事をさせておいた。
普段は俺から離れようとしないが、食事の時間は別枠みたい。
メニューを見て片っ端から料理を頼みおいしそうに食べていた。
俺はベランさんに話を聞いた。
「ドラゴンの卵のことか?」
「ええ、知っていることがあったら何でも教えて欲しいんです」
ベランさんはクローブの町に接する『魔の森』までマナポーションの素材を採りに行ったとのこと。
依頼を終えた帰路の途中、けもの道に転がっていたドラゴンの卵があったので保護することにした。
ドラゴンは愛情深き生き物で子どもを大切にする。
それが卵であっても必ず取り返しに来るのだ。
万一卵が割れでもしたらドラゴンの怒りを買って辺り一帯を焼き払われ焦土と化してしまう。
そんなことになったら森に入れなくなり依頼も出来なくなり困るので保護捕獲したとのことだ。
卵を森に戻すように領主のアレンさんに託したそうだ。
アレンさん……。
卵が孵る前にちゃんと森に戻しとけよ。
まあ、既に孵ってしまったから卵には戻せないんだけど、なんでドラゴンの卵とわかったんだろうな?
「あんな七色に輝く卵なんてドラゴンの卵以外はありえないさ」
ドラゴンの卵であるのは間違い無いらしい。
「大きさは?」
「このぐらいかな?」
ベランさんは卵を抱えるしぐさをする。
だいたい40-50センタメトルぐらいの大きさだ。
あの巨大なドラゴンの卵だから数メトルを超える巨大な卵を想像してたけど意外と小ぶりなんだな。
「となるとちょっと大きめの鶏ぐらいなのか。そのぐらいの大きさの雛を見つければいいんですね」
「いや、ドラゴンなら生まれてすぐに擬態を使えるから雛の形をしてるかはわからないぞ」
擬態。
それは他の物に化けること。
一度見たものならばモンスター、そして人間にも擬態できる。
人間の子どもに擬態してるとなると、探す対象がかなり増え厄介なことになるぞ。
「子どもに擬態しているのならば話せなかったり仕草のおかしさですぐにわかると思うが、犬や猫に擬態していたら見分けがつかずにかなり厄介だな」
うは、犬や猫にも擬態するだと。
この街に犬や猫は無数にいるぞ。
探しだすのは無理なんじゃないか?
「見た目じゃ区別付かないけど、ドラゴンをご神体にしている神殿にでも行けば見分け方がわかるらしいな」
ベランさんによると神殿に行けば擬態したドラゴンの見分け方を知っているとのことだった。
*
早速神殿へと向かう。
ちなみにモニカはまだ飯を食っていたいとのこと。
かなり食ったみたいで皿の山が積み上げられていた。
既に2万ゴルダ分は食ってそう。
どんだけ食欲あるんだよ。
結構な額になりそうなので、このまま置いて行ってしまおうかと良くない考えが頭に浮かんでしまう。
まあ、でも、キスをしてくれたぐらい俺を好いてくれてる女の子だ。
置いていくなんて酷いことはするつもりはない。
神官さんに事情を説明すると、ドラゴンに詳しい人を紹介してくれた。
神殿の奥の部屋に進む。
この街の神殿もサテラの神殿の控室と同じく質素な感じの部屋だった。
待っていたのは神官服に身を包む綺麗な女の人だ。
「私が司書担当のクーリアです。擬態したドラゴンを見つけたいのですね」
「見分け方とかわかりますか?」
「擬態したドラゴンの見分け方はかなり難しいですね。モンスターが擬態している場合、鑑定をしてステータス欄を見れば大体わかるんですがドラゴンの場合は擬態と共にステータスの偽装も行うのでまずわかりません」
「そうなんですか。でもこの街のどこかに潜伏しているはずなんですよ」
「そうなると、あれかな……」
棚の中をゴソゴソと漁るクーリアさん。
手にしたものは埃まみれの魔道具だった。
「これがあれば偽装を見破ることが出来るんですが……ごめんなさい、魔力切れですね」
魔力切れかよ。
まいったな。
エーテルでもぶっ掛ければ魔力が補修されるかな?
ダメ元でやってみるか。
「ちょっと! なにしてるんですか! 魔道具にエーテルなんてかけたら壊れちゃいます!」
めちゃくちゃ怒られた。
俺も無理があると思ったんだけど、エーテルをぶっ掛けるのはやっぱり駄目だったみたい。
「明日の夕方にまた来てくれませんか? それまでに魔力の補充をしておきますから」
「夕方ですか?」
さすがに夕方まで掛かるとなると、クローブへ戻る時間が足りない。
約束の時間に間に合わなかったらあのドラゴンが暴れ出しそう。
「時間がなくてもっと早くしてほしいんですが。急ぎでなんとかなりませんかね?」
「魔力の補充には時間が掛かるものでして……すいません」
「明日の日没までにドラゴンの雛を見つけて送り届けないと、クローブの町だけじゃなくクレソンの街もドラゴンに襲われるんです!」
「この街がドラゴンに襲われるの?」
「ええ。間違いありません」
俺は今までの経緯を詳しく話した。
クーリアさんはドラゴンがクレソンの街を焼き払うと知って青ざめた。
「徹夜で補充作業をして、なんとか間に合うようにします!」
どうにか全面的な協力を得られた。
朝の早い時間に準備が出来れば魔道具を使って犬猫を探せる。
ギリギリ間に合いそうで俺はホッと胸をなでおろした。
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