後の英雄、ダンジョン最下層でピンチになる

 一時間ほどかけてアルティヌスのダンジョンにやってきた俺たち。


 最初は俺とラネットさんだけで来るつもりだったが、回復役がいないとキツイということでボダニカルさんも来ることになり、メイミーも非常時の回復役として参加したいと言い出し、メイミーが行くならモニカとビアンカも来たいといって聞かず。

 結局、アレンさん以外の全員が参加となった。


「どうせ僕は役立たずですよ……」


 留守番のアレンさんはホッとしたような寂しいような複雑な顔をして拗ねていた。


 *


 このダンジョンはラネットさんの祖父でありクローブの町の開拓者であるグレン・アルティヌスにより発見された。

 魔の森『スターカー・ワルド』に隣接するだけあって非常に高難易度のダンジョン。

 王都のAランクの冒険者パーティー軍団が攻略に挑戦するものの半壊になって逃げだしたとの話もある。

 そんな高難易度のダンジョンでも武闘派のグレンさんにとってはやり応えのある程度の難易度だったそうだ。

 ボダニカルさんもアレンさんと結婚した当時に何度かグレンさんと一緒に攻略したことがある。

 その時にポータルを開通したそうで、ラネットさんから渡された雷神棍や俺が壊してしまったビキニアーマーはこのダンジョンの出土品だそうだ。

 

 *

 

 ポータルを使いやってきた最下層。

 そこは迷宮タイプの光る石で組まれた天井の高い人工的な階層で、俺の良く知る洞窟風のダンジョンとは全く違う。

 最下層の敵はヤバいの一言だった。

 高さが3メトルはあるたてがみを生やした4足歩行の獣タイプのモンスター。

 しっぽが蛇になっていて不気味だ。

 しかも俺でもあのモンスターの覇気が見えるぐらい戦う前からヤバさが判る強さだ。

 こんな見たこともないモンスターがうろついてるなんて、このダンジョン怖い。


「あのモンスターはいったい何なんですか?」

「あれはキマイラですね」

「キマイラ?」

「サーペンタとライオルの合成獣で、ライオルは口から火を吐き鋭い爪と牙で攻撃してきます。さらにしっぽのサーペンタは猛毒の爪と石化をする魔眼持ちです」


 なにそれ!

 怖い!

 火、物理(爪、牙)、毒、石化。

 どんだけ攻撃のバリエーションが多いの?

 ドラゴン並みにヤバそうなんですが。

 ボダニカルさんもヤバいのはわかっているみたいだ。


「あれに絡まれたらお終いです。戦うのはバジリスクがいいと思います」

「バジリスク?」

「石化を使う大トカゲだ」


 ラネットさんによるとバジリスクとは石化の魔眼と毒の牙を持っているモンスターとのこと。

 石化と毒は聖女がいればすぐに治療できる。


「レベルは低ければ48。私たちでもギリギリ勝てるこの階層の雑魚です」


 レベル50近くのモンスターは雑魚とは言わないんだけど。

 十分ラスボスです。

 ラネットさんも俺と同じように思っていたようだ。

 

「私たちにとってはかなりの強敵のバジリスクだけど、これを倒せないようだとここでのレベル上げは出来ないと思います」


 やるしかないのはわかっている。

 ここで頑張らなければ巣に帰りたくないと言っているモニカと別れないといけないことになる。

 さすがにそれは悲し過ぎる。

 俺は自分自身に言い聞かせた。


「倒せる倒せないの話じゃない。倒さないといけないんだ!」


 俺がカッコいいことを言うと、メイミーの目がキラキラと輝いた。


「さすがごじゅじんさまです!」


 メイミーは俺を全力で応援してくれる。

 うん、ありがとう!

 メイミーのその言葉だけで俺はやる気が出てくるよ。


「よし、敵を釣ってくる!」


 俺はバジリスクを釣りに行った。

 さすがに釣りに慣れている俺。

 高レベルの敵がうろつく階層でも問題ない。

 バジリスクを釣るのも余裕だった。


 *


 バジリスクと戦ってみたが余裕だった。

 最初の一匹こそ俺のラッキーパンチ的な攻撃反射で倒したが、それ以降はラネットさんが大活躍した。

 ラネットさんの攻撃力は半端ない。

 一瞬で大トカゲを沈めていた。

 自分が倒したのを信じられないラネットさん、大喜びだ。


「すごい! すごい私!」

「こんな強敵を易々と倒してしまったぞ!」

「強敵なはずなのにまるでただのトカゲです!」


 レベル上限が上がったせいなのか、前に俺と戦った時よりもずっと強い。

 まるで別人だ。

 見てみると俺と別れている間に訓練したのか既にレベルが3ほど上がっていた。

 俺の経験値支援効果が無いと相当戦わないとレベルが上がらないはずなんだけど、かなり訓練したのかもしれない。

 俺もラネットさんに加勢だ。

 ざくざくと切り刻み気持ちいい!


 あははは!

 これが俺なのか?

 強い!

 強すぎる!


 バジリスクは邪眼を使う暇もなく沈んでいった。

 そして上がりまくるレベル。

 敵を倒す度にレベル上昇の頭痛が襲ってきた。

 メイミーも頭を抱えて頭痛に耐えるが大喜びだ。


「ごしゅじんさま! レベルが上がりまくってるのです!」


 見てみるとかなり上がっていた。


「もうレベル30か。早いな」

「えへへ。これで魔法も使えます」


 低レベルのメイミーとモニカのレベルの上がりっぷりが半端なかった。

 もともとレベルがそれなりにあったビアンカもモニカほどじゃないけど上がっている。

 モニカは不思議がっていた。


「私はもうレベル30なのか? なんでこんなにレベルが上がりまくるんだ?」

「モーちゃんもなの? 私も結構上がったみたい。ものすごく経験値がおいしい敵だね。こんな敵もいるんだね」


 不思議がっているのを見てラネットさんが二人に説明する。


「敵のレベルが高いので得られる経験値が大きいのもあるけど、私の旦那のラーゼルさんはパーティーメンバーの取得経験値を5倍に上げるスキルを持っているのよ」

「それにごしゅじんさまに抱かれるとレベル上限も上がるんですよ。えへへ」

「そうなのか?」

「私なんてごしゅじんさまに抱いてもらう前はレベル上限が13しかなかったんですよ」

「そうなのか。じゃあ、私のレベル上限も期待できるな」


 それを聞いて真っ青になるメイミーとラネットさんの二人。


「えっ?」

「それって……」


 さげすむ視線が俺に突き刺さる。


「ど、どういう事なんですか? ごしゅじんさま?」

「ラーゼルさん! あなた、また新しい女と寝たんですか?」


 俺ににじり寄る二人。

 目が怖い。

 俺はダンジョンの最下層で人生最大のピンチに陥っていた。

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