後の英雄、ドラゴンと戦う
依頼内容の確認を終え一息つくこととなった俺たち。
ティーブレイクの時間ということでラネットさんが用意したのは紅茶とクッキー。
「こんな物でも我が家にとったらぜいたく品なんですよ」
なかなかいい香りのする紅茶と甘いクッキーだ。
俺たちはゆっくりとクッキーの味を堪能するがモニカは違った。
「これが噂のクッキーか! おいしい! おいしすぎる!」
クッキーをむさぼるモニカ。
行儀悪すぎだぞ。
モニカだけじゃなく魔道具の帽子まで大量に食ってやがる。
「あっ!」
帽子まで食べているのを見たメイミーはビックリして紅茶をこぼしそうに。
最初は遠慮していたのに二人?にライバル心を燃やし争奪戦に参戦。
あっという間にクッキーが無くなった。
出したクッキーが評判よかったのでラネットさんは満足気。
でもあまり食べれなかったメイミーはガッカリと今にも泣きそう。
「メイミーちゃん、そんなにクッキーが気にいったのね。今度クレソンの街にいったらまた買ってくるわ」
「えへへ。約束ですよ」
その時、窓が揺れた。
『グギギギーーーツ!』
窓はガタガタと揺れいつヒビが入ってもおかしくないぐらいに震えまくる。
間違いなくドラゴンの
「ド? ドラゴンの襲撃?」
「ドラゴンが現れたわ!」
罠を設置する前にドラゴンがやってきただと!
なんという間の悪さ。
ドラゴンはクローブの町の上空に滞空し降りる場所を見定めている、
これじゃ罠に
こうなったら正面から戦うしかない!
ドラゴンが翼を羽ばたかせると暴風が町を襲う。
土煙が大きく巻き上がり、それが収まるとクローブの町にドラゴンが降り立った!
その姿はただただ巨大。
大きく広げた翼で眼下のクローブの町の半分を影が覆った。
ドラゴンはのっしのっしと歩き家を覗き込む。
クローブの町に残った数少ない住人が蜘蛛の子を散らすように逃げ惑った。
ドラゴンは気になった家があると鼻をひくつかせ窓の中を覗きくまなく調べる。
間違いなく子どもを探しているようだ。
これはなんとかしないとヤバい。
俺が準備を始めるとメイミーが心配そうに聞いてくる。
「ごしゅじんさま、ドラゴンを退治しに行くんですよね?」
「俺とラネットさんでなんとかしてくる」
さすがにあれだけの大きさを
ラネットさんはすぐに鎧を着こむ。
部屋の隅に飾ってあった金属鎧だ。
「私は正面から奴の気を引くので、ラーゼルさんは背後から頼みます」
「おうよ」
「ごじゅじんさま、私は?」
「メイミーとモニカはこの屋敷で待機だ」
メイミーとモニカには戦力として参戦するよりも、待機してもらった方が助かる。
守るものがいると、全力で力を出し切って戦えないからな。
俺の指示に不服なメイミーは俺の目を見て懇願してくる。
「私もごしゅじんさまのお役に立ちたいです」
しおらしい。
かわいすぎる。
でも戦いの場に来るのはダメだ。
もし戦いでメイミーを失うことになったら俺はもう生きていけない。
俺は二人が屋敷から出てこないように仕事を与えた。
「お前たちの役目はそのおっさんを守るのが役目だ。もしドラゴンがこの屋敷を襲ってきたら、そのおっさんと逃げ延びるんだぞ」
かなり不服そう。
メイミーじゃなくておっさんが。
「義理の父親になるというのにおっさん言うな!」
こんな非常時にそんな細かいことを言うなよ。
マジうざいオヤジだ。
この騒ぎの発端はアンタだろうに……。
ラネットさんと結婚して俺が領主になったら、このおっさんは絶対に屋敷から追い出してやる。
メイミーが辺りを見回した。
「ここで皆様を守ります! この屋敷にいる他の人を集めてください。奥さまはどこにいますか? 使用人さんは何人いますか?」
「安心していい。いま屋敷にいるのは僕だけだ」
誇らしげに語り続ける。
「使用人なんて雇うお金がないから元々いないし、妻はクレソンの街に住民を連れて避難している。だから守るのは僕だけでいい! 全力で守るんだぞ」
使用人がいない貴族って……。
どんだけ最下層の貴族なんだよ。
まあ、それは今は気にすることじゃない。
ここはメイミーたちに任せて、俺とラネットさんはクローブの町へと向かった。
*
「あれだけ巨大なドラゴンを追い払うなんて出来るんでしょうか?」
「出来る出来ないじゃなくやらないといけないんだ」
ラネットさんの意志は固いようだ。
町への坂を駆け下りながらラネットさんは懐を漁った。
「これを渡しておく」
渡されたものは短剣ぐらいの長さの棒状の杖のようなものだった。
武器なのかな?
「これは?」
「我が家に代々伝わっている武器の『
やはり武器だったようだ。
ラネットさんは走りながら雷迅棍の説明をする。
「電撃を放つ魔道具だ。これを奴の首に押し当てれば電撃が放たれる。ドラゴンと言えど首に電撃を食ったらただでは済まない。驚かして追い払うぐらいのことは出来るだろう」
ドラゴンは予想以上に大きく、正面からまともに相手をするのは無理だ。
まるで大盾のような硬いうろこに弾かれて剣は効きやしない。
魔道具で電撃を食らわせるしか追い返す方法はない。
なんとかドラゴンさんにお帰り願って時間を稼ぎ、冒険者ギルドに正式な討伐依頼を出すしかない。
作戦はこうだ。
ラネットさんがドラゴンの気を引きつけ、その隙に俺がドラゴンの背を登り魔道具を使い追い払う。
なんとかなるだろう。
いや、何とかしないといけない。
ラネットさんが耐火の盾を構えドラゴンの正面に立った!
目の前で見るドラゴンは圧巻の一言。
すぐ目の前に頂上の見えない崖が現れたような気分だ。
ラネットさんはその巨大なドラゴンに向け名乗りを上げる。
「我が名はラネット・アルティヌス! この領地の辺境伯の娘だ! なぜに愚竜が我が町で暴れる?」
ドラゴンは答えずにラネットさんを蹴り飛ばす。
ですよねー。
ドラゴンに言葉が通じるわけないし。
蹴りがラネットさんを襲った。
だがラネットさん。
同じ手は二度と食わない。
バックダッシュをしてなんなく蹴りを避けた。
攻撃がスカって悔しそうな顔をするドラゴン。
怒りゲージが結構上がってそう。
ラネットさんは目配せで合図をする。
『背後から奴の背を登ってください!』
『まかせろ!』
無言で親指をくいっと上げて答えた。
俺は絶壁のようなドラゴンの背を登り始めた。
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